45 / 53
魔王エルデネスの章
1.
しおりを挟む
──魔界。
それは、闇に閉ざされた、もう一つの世界。
エルデネス本城の廊下を、ソガークが歩いている。
(関わるなと言われても、気になるものは仕方ないですね)
頭の端に、魔王と勇者とが浮かぶ。
しかし、どうしようもない。せめてこのモヤモヤを、仕事へと昇華すべきだ──ソガークは、部屋と向かう。エルデネスの子供が居る部屋へと。
荒野の、中に。
制帽を被り、軍服を正し、エルデネスが立っている。
サクヤ達が近づいた時、魔王は、左手を顔の横まであげた。「やあ」という上げ方ではなく、景色を紹介するような上げ方だった。
「よく来たな。余が……魔王エルデネスだ」
「エルデネス」
サクヤが、背中の聖剣をにぎる。
「貴方の支配を、終わらせに来たよ」
「──そうか。余に、その予定はない」
(聞いた通りだ)
リーシャが思う。魔王の外見が、である。
(もっとこう、いかにも、って姿があると思うけど)
エルドロが持つイメージとは、違った。
(しかし──この魔力量)
カイが、密かに息を呑む。
魔王の身体つきは、初老の人間という感じだ。しかしどうやってその質量に抑えているのかというほど、絶大な魔力を秘めている。
「……」
ガロッドが、黙っている。
いや、皆が、下手な事を言えないでいた。普段、よく喋るリーシャやエルドロも。それだけ、相手が洒落にならないことを感じていた。
沈黙を破ったのは、やはり勇者である。
「魔王」
「うむ」
「──いくよ」
うむ、と、エルデネスが頷く。
「いくよ、みんな!」
(サクヤ)
呪縛が、解かれた。
五人が動き出す。仲間を解き放つ力が、勇者にはあった。
初撃は、聖剣ポリュシモスによる斬撃。
エルデネスがそれを避ける。ところへ、ガロッドの振り下ろし。
「ふむ」
魔王が、軍刀で避ける。
「ぐ!?」
騎士の方が面食らった。
巨山にでも振り下ろしたかのような、硬すぎる手応え。
「でぇい!」
と、リーシャが魔王の横腹を払おうとする。
ガロッドの斧が、地面にめりこむ。魔王が躱したためだ。
次の瞬間──下手をすると、これで勝負がつく所だった。
「”シルヴィア”」
魔王が零度魔法を唱える。
冷気が出るという過程すらない。五人の身体が、一瞬で凍てつく。
しかし、その次の瞬間、炎によって解答された。エルドロのお陰であった。
「ふむ」
エルデネスが、感心するように顎を撫でる。
「凍てついたらどうしようかと思っていたぞ──魔法使い」
それは、闇に閉ざされた、もう一つの世界。
エルデネス本城の廊下を、ソガークが歩いている。
(関わるなと言われても、気になるものは仕方ないですね)
頭の端に、魔王と勇者とが浮かぶ。
しかし、どうしようもない。せめてこのモヤモヤを、仕事へと昇華すべきだ──ソガークは、部屋と向かう。エルデネスの子供が居る部屋へと。
荒野の、中に。
制帽を被り、軍服を正し、エルデネスが立っている。
サクヤ達が近づいた時、魔王は、左手を顔の横まであげた。「やあ」という上げ方ではなく、景色を紹介するような上げ方だった。
「よく来たな。余が……魔王エルデネスだ」
「エルデネス」
サクヤが、背中の聖剣をにぎる。
「貴方の支配を、終わらせに来たよ」
「──そうか。余に、その予定はない」
(聞いた通りだ)
リーシャが思う。魔王の外見が、である。
(もっとこう、いかにも、って姿があると思うけど)
エルドロが持つイメージとは、違った。
(しかし──この魔力量)
カイが、密かに息を呑む。
魔王の身体つきは、初老の人間という感じだ。しかしどうやってその質量に抑えているのかというほど、絶大な魔力を秘めている。
「……」
ガロッドが、黙っている。
いや、皆が、下手な事を言えないでいた。普段、よく喋るリーシャやエルドロも。それだけ、相手が洒落にならないことを感じていた。
沈黙を破ったのは、やはり勇者である。
「魔王」
「うむ」
「──いくよ」
うむ、と、エルデネスが頷く。
「いくよ、みんな!」
(サクヤ)
呪縛が、解かれた。
五人が動き出す。仲間を解き放つ力が、勇者にはあった。
初撃は、聖剣ポリュシモスによる斬撃。
エルデネスがそれを避ける。ところへ、ガロッドの振り下ろし。
「ふむ」
魔王が、軍刀で避ける。
「ぐ!?」
騎士の方が面食らった。
巨山にでも振り下ろしたかのような、硬すぎる手応え。
「でぇい!」
と、リーシャが魔王の横腹を払おうとする。
ガロッドの斧が、地面にめりこむ。魔王が躱したためだ。
次の瞬間──下手をすると、これで勝負がつく所だった。
「”シルヴィア”」
魔王が零度魔法を唱える。
冷気が出るという過程すらない。五人の身体が、一瞬で凍てつく。
しかし、その次の瞬間、炎によって解答された。エルドロのお陰であった。
「ふむ」
エルデネスが、感心するように顎を撫でる。
「凍てついたらどうしようかと思っていたぞ──魔法使い」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる