魔王エルデネス2

葉雲屋

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勇者の章

2.

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勇者。
エルデネスは、ベッドに座ったまま考える。人間の物語。勇者の前に、魔王が現れる。ひるがえってみれば、魔王の前に、勇者が現れる。そういう、対になるとされる存在。
情報は、魔王軍──エルデネスの部下たちから、もたらされた。

「放っておけ」

と、エルデネスは言っているのだが、部下として、そうはいかないらしい。敵軍を見張るが如く、ミレイたちの報告に来る。
役に立とうとしている部下たちを見て、彼は思い付き、

「では、お前たちがやるか?」

と言い、魔将軍バルダルスを指名して、勇者の迎撃にあたらせた。
魔将軍、バルダルス。
エルデネスの右腕、といえる。組織図的に、彼の上はエルデネスだけだ。大剣は龍を斬り、大盾は山をも砕くと謳われる巨人。戦闘時は、その身体を重装備が覆う。平時は、魔法によって、一般的な大きさの人型に収まっている。

「死ねとは言わん。少数の配下を率い、実力を見てこい」

「かしこまりました」

平時状態のバルダルスが、嬉しそうに謁見の間を出てゆく。
その姿は、長い金髪の男で、エルデネスのように軍服を着用。丁寧な軍人、という出で立ちだ。
バルダルスを送った後、エルデネスは、時間の多くをエミリアと過ごした。
城内を共に歩き、時には外に連れ出して、景色を見せた。食事は、城内で、豪勢な料理を出し、共に食べた。

「余、なしでも、君が望めば、いつでも食べられる。──この城での贅沢は、君の権利だからな」

「うわ、美味しい!」

と、エミリアは、一口食べて、飛びあがるほどに言い、

「で、でも、何か、やっぱり悪いな。良いのかな、私だけ」

「君が得たものだ」

エルデネスが言う。「それに、畏まる必要も、ないかもしれんぞ?余は、君の母国を支配した敵だからな」

「確かに」

エミリアは、それを聞いてムッとしたが、

「いや、でもその……頭が追い付かないよ。敵だけど、私個人としては、優しくされてるし。怖いけど、貴方の強さそのものには魅力を感じるし。好きだって言われたし……楽しんだらいいの?怒ったらいいの?何が正解なんだろう」

「分からない、か」

エルデネスは、フフと笑った。

「余は君が好きだ。君に好いて貰いたい。だから、何か助言をしてしまうと、自分の意図が入ってしまう。それは控えよう……分からない、という事は理解しておくさ。明日、いきなり君が”怒る”を選択しても、それはそれで受け止める」

「えっ、まさかの放置?」

エミリアが、ワイングラスを傾ける。

「……助言、してくれていいよ。意図があってもさ、人の話に身体預けたくなったりもするのよ。私、よく親方とかの言いなりだったし」

「それが、私」と、彼女は言葉を結ぶ。
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