【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

文字の大きさ
146 / 155
3巻 2章 全てを逆撫でる御方とブリガンディとグラーチスと

ブリガンディ

しおりを挟む
「レンジさんお似合いですね。異世界では寿司職人という職についてらっしゃったんですよね。当たり前といえば当たり前なのですが、とても板に付いていますよ」

 俺は久しぶりに見る自分のその姿に、照れくさいような笑顔を浮かべる。
 そうなんだよ。アリーゼが俺の為に白衣をあつらえてくれていたんだ。よく職人が着てアレだ。やっぱりこれを着ないと始まらない。
 初めてランドセルを背負った小学生よろしく、俺は何度もその白衣を着ている自分を見返しながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべてしまっていた。

「ゼルガー用のものもあるのだが、あれではお前には長すぎるだろうと急遽作らせたのだ。うまく丈が合って良かった」

 アリーゼが白衣を身に着けた俺の姿を見て、夫のゼルガーの姿と重なったのだろう。目元にうっすらと涙を浮かべながら、何度も頷いている。
 白衣の前を深く打ち合わせる。前掛けを白衣の上から付け、それを紐で結び気持ちを引き締める。そして白手ぬぐいを頭に巻きつける。
 いたってシンプルな出で立ちなのだが、エリュハルトではやはり異世界感がどうしても漂ってしまう。和装という概念はないので仕方ないのだがな。
 セバスさんも俺と同じように白衣を身にまとっている。どうやらゼルガーさんとそうやって寿司を握ろうとしていたとの事。
 もちろん完全な独学。写本内に書かれていたものを見よう見真似で作ってみたり、王国内の職人の伝手を頼って、同じような道具を用意させたりとしたそうだ。
 写本は確かに罠が仕掛けられていて危険極まりないものではあったが、それ以上にゼルガーさんの知的好奇心を充分に刺激するものがあったんだな。違う世界に生きるものだが、同じく寿司に魅せられたものとして同士のような感覚が生まれている。

「そしてこいつが今回の一番の収穫だ! 」

 俺は市場にある『鱗会』といわれる、知る人ぞ知る魚介物ギルドから購入してきた岩鎧魚がんがいぎょブリガンディと名付けられた魚を『旅人の知恵包み』から取り出す。
 実は後から気づいたのだが、この『旅人の知恵包み』は生ものに関してはかなり制限がきつくて、入れている間、アイテムボックスの所有者の魔力を制限なく使い込んでしまうという欠点が分かっている。
そうそう便利でお得なアイテムばかりがある訳はないじゃないか。
制限があるからそれを逆に利用したり、もっと良くなるようにと工夫を凝らしたりするのが楽しいんだと思うんだよな。

 この岩鎧魚ブリガンディという魚。その名の通り、ゴツゴツとした岩のような分厚い鱗のようなもので全身が覆われているとても調理しにくい魚。しかもかなり攻撃的で、皮膚すら簡単に嚙み切るような歯を持っている。ほぼモンスター。

食材探知レベンス・ミッテル

 見た目はとても食べられたようなもんじゃない甲殻に覆われた魚。
 しかし魔法を唱えると、こいつの本当の価値が手に取るように伝わる! 
 ブリガンディという名前を聞いた瞬間にピンと来てはいたんだが、まさか本当に『出世魚』の類だったとは驚きだった!

 出世魚で有名なのはブリ系の魚。
 関東で言うなら、ワカシ⇒イナダ⇒ワラサ⇒ブリと魚の成長に合わせて呼び名が変わる。もちろん名前だけじゃなくて、肉質や脂の乗り、味わいが変化するのが魅力。だから今回の寿司のお披露目にはちょうどいいんじゃないかって選んだんだ。
 鱗会のリーダーがびっくりしていた。普通の包丁ではまず捌けないし、捌けたとしても刃がすぐにダメになるし、魚の身にキズがついて味が落ちるのが早いからやめた方がいいと。
 萌炎に魔力を込めながら、鎧のような固い鱗に切り込みを入れていく。もちろん萌炎は只の包丁ではない。普通なら頑丈な鱗の為にすぐに刃こぼれがしてしまい、その下にある極上の脂の乗った身迄はたどり着けない。
 萌炎の切っ先が、岩のような甲殻に触れた瞬間、『ジィ……』という微かな音と共に、焦げるような匂いが立ち上る。これは『切っている』んじゃない。『断ち融かしている』んだ。神の包丁が持つ圧倒的な熱量が、本来ならば砕くことしかできないはずの甲殻を、バターのように滑らかに溶かし、切り拓いていく。包丁から迸る魔力と、赤くうねるような炎の感覚に、アリーゼとセバスさんは目は釘付け。

「……アリーゼ、セバスさん。こいつはとんでもない代物だ。桜色に輝くきめ細やかな身が出て来やがったぜ。鎧のような鱗に下には、まさに極上が潜んでいたって訳さ」

 アリーゼやセバスの瞳からは涙が溢れて止まらない。 
 ここからが俺の腕の見せ所。
 どうしたって見よう見真似のこの離れの中。まな板や寿司桶はあるんだけど、もっと使いやすいようにしたい。更にファーバンを焚くかまどだ。似た様な感じには作ってあったんだが、異世界の文化を文献だけで再現するのは限界がある。
 アリーゼとセバスさんを離れの中に残し、外に備え付けられたかまどの前で、腹に力を込める。

生成ツォイゲン

 再現力が高かったゼルガーのかまどにそっと手を触れる。

「ゼルガーさん。あんたの想いは受け取った。ここから先は俺の仕事だ」

 萌炎に意識を集中させる。かまどの奥にある熱の根源に語り掛ける様に……幻妖蜘蛛戦で熱の刃を具現化させたことを思い出し、更に集中。

『いいか蓮司。かまどの中の火の回り方が均一じゃねぇと、米に焚きムラができる。釜と火の距離、この数センチが味を殺しも、活かしもするんだ。覚えておけ』

 そんな頭の中に響いた創元師匠の声。
 かまどがその想いに応えるように、頭の中にある映像とリンクしその形を変えていく。火床がわずかに深くなり、羽釜を包み込むように縁がせり上がる。煙突への空気の流れが、渦を巻くように最適化されていく。

ダス・イストゥ・デア・ハマーずいぶんいいじゃないか! 随分いい感じに仕上がったもんだ」

 いきなり肩の上に姿を現したグリューン。完成されたかまどをサングラスをずらしながら満足そうに頷く。

「いよいよ寿司を握るって訳だな、創元の想いって奴を伝えねぇとな」

 グリューンをグイっと掴み、そのまま頭の上に載せる。完成されたかまどに寄りかかり、肺の中に溜め込んでいた息を吐き出す。

「なぁ、グリューン。ひとつ聞いていいか。ずっと、引っ掛かっていたんだ」

 グリューンは腕を組み、真剣な表情をしながら頷いた。

「師匠は結局何をさせたいんだ。俺が一度死んだことは計算違いだったのかもしれない。でも……もしかしてこの異世界での出来事って、なにか大きな歯車の上にいるような気がしてならないんだ。例えるなら師匠に仕組まれたような、そんな感じだ」

「なんだなんだ相棒。創元を信用できねぇのか……まったくよぅ」

 手を広げるようにして、またはぐらかそうとするグリューン。
 そうはいくか。
 頭の上で座り込んでいるトカゲを指で力強く弾く。

「痛ぇなぁ、まったく早めに真実に辿り着こうなんてのは虫が良すぎるとは思うぜぃ。創元にはな、責任があるのさ。あいつがこの世界にやり残した数々の事象。それらを誰かが摘み取らなければいけない時期が来ちまったのさ」

 ホムラでさえ創元様と言っているのに、グリューンは師匠を呼び捨てに。
 俺は訝しげな視線を投げかける。
 グリューンを目を逸らす様に口笛を吹く。

「聞けば聞くほどよく分からなくなるんだが……分かった、グリューン。一先ずはそれで勘弁してやる」

 俺は萌炎の柄を強く握りしめる。包丁から温かい熱が伝わる。
 それは創元師匠がニコリと笑ったかのようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...