【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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1巻 4章~聖なる山とドラゴンと春の精霊と

闇からの声と師匠の面影

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「エレノール! 仲間に対して直接解析系の魔法を使うとはどういうことだ! 」

 そういうことか、なるほどな。この世界は魔法が発達しているから、そういう情報収集みたいなことが魔法で出来てしまう訳か。
 フィオナも突然の事に目を丸くしている。押し黙るエレノール。すると俺の肩に乗っていたグリューンが欠伸をしながらガルムに伝える。

「へい。確かに今のやり方は褒められたものじゃねぇさ。出来心ってやつだろ……そして解析は失敗したはずさ。カイネ・プロブレーメまぁ、問題ねぇ! そうだろ、色気のあるねーちゃんよ」

 くっという表情を浮かべるエレノール。

「……秘匿情報エラーコードと出たわ。あの時と同じ。あーぁ。また悪い癖がでちゃった! 」

 エレノールは両手を肩のあたりまで上げると、掌を上に向けるようにしてため息をついた。つまりは降参という合図だ。
 しかし『秘匿情報エラーコード』って……調べられないという事といい、秘密にされているって事といい、この包丁の力って、一体なんなんだよ。

「ごめんなさい。分からないことに対して、それが認められずについ意地になっちゃうような癖があるのよ、あたし。悪いとは思っている。謝るわ」

 ガルムが鼻息荒くまた何か言おうとしているので、フィオナが間に入る。俺は頭を下げているエレノールを見ながら続ける。

「そうだな、何も言わないで調べるのだけは止めようぜ……そうだよ、調べるなら調べるって言ってくれれば、恥ずかしいことじゃないなら俺は別にいいぜ。うん」

 え? という驚いた顔をする3人。

 あれ、なんか俺変なこと言ったか? 黙って調べたのはそりゃあ気分が悪いさ。あれだろ。ネットで俺の名前を勝手に検索して、過去に何があったか調べたみたいな感覚だろ。気分は悪いが、直接被害は無いし、なにより探られて困るようなことなんてないしな。

「レンジ! そういうことを言っているんじゃないんだ。仲間内で解析するという非常識な行為をだな、ワシは……」

「あぁ。もう分かったよガルム。少し落ち着けって! だったらエレノールは俺だけ調べるのを許すさ。でも他の2人やグリューンは止めてくれ。もしも二人に聞いて、いいよって言ってくれたならそれはそれでいいんじゃないか。どうだろうか」

 ガルムが顔を真っ赤にしているのがわかる。グリューンは面白がってケラケラ笑っている。フィオナも毒気が抜かれた様な顔をして、小さく噴き出しているのが見えた。
 だってそうだろ。俺は別に探られて困る事がないから、別にいいぞ。それに包丁は調べることができなかったと言っていた。ということはこの包丁については、何の秘密があろうがエレノールには何もできないってことだ。そしてエレノールは、この包丁の秘密だけを知りたがっている。ならば問題ないはずだ。

「実際、俺もこの包丁が何なのか知りたいしな。エレノール!  調べて何か分かったら、ガルムに内緒で俺に教えてくれない?」

 俺の足元でグリューンが腹を抱えて笑っている。おいおい。そんな笑えるようなこと俺は言ったのか? フィオナも笑い過ぎだ。

「レンジ、お前……お前な! 」

 ガルムは目を白黒させてそれ以上の言葉を発することができない。エレノールは俺の言葉を聞いてびっくりしたような目をしていたが、そのまま俺の目を見据えると口を開いた。

「レンジ君。本当にキミ、すごく面白い。あたしがこれまでに逢った誰とも違うわ。そんな考え方で返されるとは正直思わなかった。普通ならここで衝突して、パーティー解散になってもおかしくなかったのに」

 エレノールは俺を改めて頭の先からつま先まで見やった。深紅のローブの合間から見えるもんをしっかり仕舞いなさいって。俺を男だと思ってないだろ。

「今度こそ本当に誓うわ。神なんかではなくレンジ君、あなたに対して。少なくとも今回組んだ仲間には絶対に解析系の導術は使わないわ」

 そう俺に告げたエレノールの表情に、俺は何故か信用できるという確信を持った。俺の勘は間違いなく当たるからな。

 その時、突然俺の持っている包丁が光り輝いた! 
 それと同時に、俺の耳に聞き慣れない声が響いてくる……聞き慣れないんだけど、なにか近しい者と接しているかのような、不思議な既視感に襲われる。

 『タスケテ……』

 助けてって言っているのか? それってどういう事だ……俺はそう思いながらも、段々と体の力が抜けて、手に包丁を持っているという意識だけが残るような、そんな感覚が強くなっていく!
 そして包丁から発せられた光は大きく膨張し、身体全体を包み込む。

(え? ちょっとどうなったんだ、これ! )

 特に痛くも苦しくも無い。
 自分の身体が発する光の輝きにどうする事もできず、唯々息を呑む。
 
「レンジ! なにをした! 」

「新しい魔法……ではないです。レンジさん! 」

「レンジ君! ちょっと、こっちに倒れないで……」

 そんな仲間たちの声を段々と遠くに感じながら、俺はゆっくりと闇に落ちていくように気を失っってしまった……


✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛

 俺は闇の中で目を覚ました。いや目を覚ましたという表現はおかしいな。闇の中で意識だけが目覚めているような、体は動かないんだけど、心だけで見ているような。そんな感覚。

 『タスケテ……』

 さっきから聞こえるこの声。俺に呼び掛けているのは確かだ。でもすごく遠くから聞こえる様な、どこかで聞いたことのあるような。でも聞き慣れない……そういった声。

 「いったい誰なんだ! 」

 闇に向かって大きな声を出した。しかし空間に自分の声だけが吸い込まれ、相手に声が届いているのかさえ定かではない。
 ふと誰かが近くに居るような、姿形はまったく見えないのだけれども、確かにそこに何かがいるという感覚が頭をよぎる。その気配に、体を何とか動かそうともがき続ける。
 すると闇の向こうから、子供ような、女性のような、しかし絶対にそれはヒトの気配ではないという事が分かる言葉が聞こえてきた。

 『キミはだぁれ? なんか、すごく昔に同じ匂いのヒトがいた気がするんだ……』

 同じ匂いのヒト? それは一体……
 俺は闇に向かって必死に問いかける。

 『すごくいい匂いだね。あのヒトとおんなじ匂い。そうなんだ、キミは……』

 聞き取りたい、とても大事だと思われる部分になると、まるでそこだけ音声が途切れる様に聞こえなくなり、とてももどかしい。 なに? その先が聞こえないんだよ……

 『ボクを助けてくれる? 』

 いきなり助けてくれるって聞かれてもな……もしかして君が春の精霊なのか!?
 俺の驚きの波動がその声の主に伝わったのだろう。嬉しそうに飛び跳ねてでもいるような感覚が伝わってくる。

 『あは! 思い出した。創元様の匂いだ……君の青い魂からすごくいい匂いがするんだ』

 創元……って、創元師匠!? なんで君から師匠の名前が? そう思った瞬間……闇の向こうから俺に向かって急激に光が押し寄せてくるのを感じた!

 その光に包まれた瞬間、俺は師匠の姿が幻のように浮かび上がった気がした。さっきまで聞こえていた淡い声とは別のしっかりとした老齢の声の響き。毎日のように聞いていたあの声。これは俺の意識の中の師匠の声なのか……
 創元師匠! あんたはいったい何者なんだよ。この世界でいったい何をしたんだ!
 俺は師匠の顔を思い出しながら、必死になってもがいていた。
 何からもがこうとしているのかって?
 そうだよな。何からだろう?

 『蓮司! 大事なのは心じゃねぇのか。おまえは何回教えりゃわかるんだ……馬鹿が! 』

 師匠、そんなこと言ったってよ。馬鹿だよ、そうだよ……文句あっか。

 『でもよ蓮司、そんな頑固なお前をワシは嫌いじゃないんだ。せいぜい自分を好きになれ! そうだ、自分を見つける旅をするんだ。分かったな! 』

 ……この世界を頼んだぞ、蓮司。ワシの託した包丁があれば、しっかりと道が示されるようになっている……お前にしか頼めねぇんだ。

✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛



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