【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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2巻 2章~凍りの包丁と冒険者ギルドと天ぷらと

忍び寄る王都の闇

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 失意と虚脱感に包まれた表情で、王国騎士団を後にするガルム。その瞳にはかつての仲間たちへの想いが映っていたのか、あるいは自分の不甲斐なさへの嘆きが反映されていたのか。
 そんな団長室から消え入る様に立ち去ったガルムに対して、大きなため息をつくジルベニスタ。

「今、性急に裁きを下すのは誰の為にもなりません……特に父上、あなたの為にはね」

 ジルベニスタは再度机の中からメモリアルブレスレッドを取り出すと、両目を瞑りそれを片手で持ち親指をなぞるように動かした。

(今すぐ父上を査問会にかければ、部隊全滅と任務放棄の責任を問われ、最悪の処分……不名誉除隊や極刑が下される可能性が高いのです。だからこそ、あえて『三か月の猶予』という名の謹慎期間を設けることで、結果的に父上を最悪の事態から引き離しているという形をとったのです…もちろん、もっと私的な理由もありますがね。今回はそちらの方がわたくしにとっては重要ですが)

 自分の中の不均衡な父親への想いをどう表現したらいいのか、答えにいつも迷う。そんなジルベニスタの苦悩の表情を確かめながら、傍に立つコーマが口を開いた。

「ジルベニスタ様。調べておりましたアリーゼ・フォン・グリモワール子爵からの依頼の件でございますが……」

 ジルベニスタの瞳がコーマを見つめる。



「はい。調査を重ねていたのですが、少し興味深い事が分かりまして……」

 コーマはこの場を憚るようにジルベニスタの耳元に囁くように伝える。その口から発せられた『ある機関』の名称に、侮蔑に似た表情を浮かべるジルベニスタ。

「魔導協会だと。どういうことだ。あそこは王国内でも屈指の治外法権地区だぞ。ザックマーニャが関わっているのであれば、我々はこれ以上手が出せんぞ」

 ザックマーニャ・リザルト。魔導協会のギルドマスターにして、王国随一のΩオメガ級導術士。その力は計り知れず、国内での影響力は王に次ぐと目されている。

「ゼルガー様の私邸を調べていましたところ、巧妙に隠されてはいましたがαアルファ級導術士の魔力エルナ反応が出まして。もちろんそれ以上は王立魔法研究所の力をもってしても解明は出来ず。調査は暗礁に乗りあげております」

 コーマのどこか無機質に感じる感情のあまり入っていないような声。ジルベニスタは片手の中のメモリアルブレスレットを固く……強く握りしめた。
 コーマが更に続ける。

「私にはアリーゼ様が全てを語っていないような、そんな印象を持っております。何を隠されているのかは分かりませんが」

 ジルベニスタは強い視線でコーマを見返す。

「ゼルガー様は王国魔法研究所の重鎮であり、ヴォルザーク陛下の御贔屓ごひいきでもあられた方。その陛下より直々に拝命された任務なれど、魔導協会だと……ええい、忌々しい! 」

 そのまま踵を返すようにしてコーマに背を向け、右手を後ろの壁に強く叩きつける。

「陛下にはわたくしから直接ご報告申し上げる。父上が仰っていた聖なる山の事件の概要も同様だ。コーマは引き続きアリーゼ様の事件を探ってくれ」

「ザイール・ファルナート。仰せのままに……」

 コーマはゆっくりと騎士の礼をジルベニスタに捧げた。


 ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛


 真紅のローブを風にはためかせながら、エレノールは王都アイゼルンの北東に位置する、複数のねじれた黒曜石の塔が天を突き、常に不思議なオーラを漂わせる異質の建物に囲まれた場所。魔導協会の中心に位置する導術士の塔、通称『ヘルメティ・スパイア』の大きな壮言たる両扉の前に立っていた。
 扉の表面には古代魔導文字で様々な文言や術法がいくつも彫ってあるのが見える。賢明な読者ならお気づきであろう。この場にレンジが居れば、下手をすればその文字すら読めてしまうかもしれない。

「全く……この扉でさえ、悪趣味にも程があるわね。やつにはとてもお似合いだとは思うけど」

 周囲には研究者のようなフィーム族の導術士風の男や、自分の肩に乗った使い魔に話しかけている灰色のローブを着たヴェルド族の女性、背の低い男性の導術士など、多種多様な導術士たちが行き来している。何人かはエレノールに向かって頭を下げたり、挨拶をしてくるものもいるが、基本的には無関心さながら、ある意味奇異な服装をしているエレノールとはいえ、それがあたかも見慣れた風景であるのかのような錯覚を及ぼした。

「ここで立っていても時が移るだけだわね。行くしかないか……」

 エレノールは重々し気な独り言を呟くと、意を決して壮言な表開きの扉の中に足を踏み入れた。



 扉の中は、幾何学的な模様が壁一面に描かれ、その複雑に刻まれた導術の文様が、時々震えるように点滅したり、どこからか囁きが漏れる様な声が聴こえたりしている広間になっている。
 その広間の先には更に大きな両開きの扉があり、扉の隣には『永久木えいきゅうぼく』と呼ばれる、遠き魔導王国から持ち込まれたと噂の、魔力成分が含まれた霊木で作られた受付が備え付けられている。そこには翼の生えた、フィーム族に比べて細い顔つきをした異種族……灰色のローブを着たハーピィ族の女性が腰かけ、彼女の目の前に置かれた大きな水晶球に手をかざしている。
 ヘルメティ・スパイア内に入った時からピリピリと張りつめた様な威圧の魔力の気配が強くなる。うんざりしたような表情を浮かべてエレノールはため息をついた。
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