【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

文字の大きさ
88 / 155
2巻 2章~凍りの包丁と冒険者ギルドと天ぷらと

アリーゼ・フォン・グリモワール

しおりを挟む
 そんなレンジ達の様子を少し離れた場所から、じっくりと眺めているフィーム族の女性がいた。
 キリッとした眉、切れ長でバランスの取れた形の目をしている。年齢は20代後半くらい。面長な顔立ちでふっくらとした唇。黒を基調とした派手ではない服装。その眼差しからは、深い教養と奥深さが見て取れる。知的な美人顔だ。

「アリーゼ様。どうなされました」

 アリーゼと呼ばれた女性は、自分の想いから引き戻されるように振り返る。

「ああ、すまないな……セバス。あの人だかりが気になったからな」

 外見の洗練された整った顔からは想像ができない男勝りの口調。
 傍に付き添っている明るい髪色をした、丁寧な口調の背の低いホビィ族の男性。彼は自分の主人が見つめている先にある人だかりをゆっくりと見やると、目を細めるようにして状況を確認する。

「どうやら魚介類を揚げたもの、『天ぷら』と言うらしいのですが。そちらを子供たちに食べてもらっているようですね」

「魚介類を美味しそうに食べるとは……亡き夫ゼルガーを思い出すな」

 その言葉からは否定の意味は感じられず、むしろ歓迎するかのような響きがあった。
 レンジの、このエリュハルトという世界では異様に映る『魚介類を揚げて食べる』という行為。それは彼女……アリーゼ・フォン・グリモワールからすれば、亡き夫と重なる印象があったのだ。
 ホビィ族の男性、セバスは想いを馳せるように自分の主人の言葉に少し間を置く。

「……お館様は研究熱心なお方でした。特に古の魚介類に関しての研究。わたくしは今でも、ゼルガー様を心より尊敬しておりますよ」

「ふふ。そうだな。ありがとうセバス」

 そう言ってアリーゼはまた、レンジの方に視線を戻す。その視線の先にはレンジが見えているのか、または亡き夫の姿が合わせて映っているのか。なにより孤児院の子供たちと一緒になって楽しそうに笑いあっているレンジがとても温かい印象を残していたのだ。

「セバス。あの者を少し調べて欲しいが出来るか。少々、いやとても気になるのだ」

 小さい声ではあったが、はっきりとそうセバスの耳には聞こえた。

「かしこまりましたアリーゼ様。王都も広いとはいえ、すぐに何かしらかの情報はつかめましょう。しばらくお待ちください」



✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛


 ジルベニスタは王国騎士団本部、団長室の無機的な椅子に座り直す。彼の手にはロケット型をした銀製のメモリアルブレスレットが握られており、開いたり閉じたりしながら、ある人物の到着を待ち構えている。

(母上。今日も我の行く末を見守りください)

 ジルベニスタは、銀製のブレスレットに飾られた、写実的に描かれた狼獣人の年配の女性の肖像を愛おしそうに眺めながら、そんなことを考えていた。
 その年配の女性はもちろん、俺の養父であるガルムの亡き妻。マラリー・シュトルムヴォルフその人である。
 ガルムの出身である獣人の国ダーザルヒルム。そこはいくつもの獣人達の州に分かれ、州ごとに自治を行っている。ジルベニスタは孤児であったため、ファルナート王国とダーザルヒルムとの懸け橋のひとりとして、ガルムとマラリーの元に養子として預けられていたのだ。ガルムとマラリーの間には実子はいなかったという事情もあった。

(母上。もうすぐ、あの男がこの場に姿を見せます。母上を置いて冒険に身を捧げ、挙句の果てに母上が一番居て欲しい時にあの男は居なかった)

 ジルベニスタはその場にいないガルムの顔を思い浮かべ、憎々し気な表情を天井に向けている。養母の最後に自分が何もできなかった後悔。その場に間に合わなかったガルム。おそらくは様々な事情が悪い方向に重なり引き起こされたであろう悲劇の一端。しかし彼の心に暗い影を、少し……いやかなり母親に傾倒するような想いを抱かせるには充分であったのだろう。

(どうしようもなかったのだ。それはわたくしにも分かっている。しかし、それでも母上の最後の言葉に間に合わなかったあの男がどうしても許せないのだ)

 かの国で冒険者の要、ひいては国の要人として各地の調整役を担っていたガルム。彼が多忙な日々を送る中、故郷で彼の帰りを待つ妻が流行り病に倒れたという報せが届いた。
 だが、どれほど急いでも、その命の灯火が消える前にたどり着くことは叶わなかったのだ。

「私の愛しのジル。あなたがガルムと共に生きてくれることがあたしの幸せ。これからもあのヒトを助けて欲しい。そして愛していたと伝えておくれ……」

 養母の臨終の言葉は今も胸の中で聞こえている。ずっと離れない、いや離したくはないのだ。そんな複雑な心境が、今のガルムとジルベニスタの関係を形作っている。
 団長室を小さくノックする音に、自分の世界から引き戻される。

 「団長殿。3番隊隊長、ガルム・シュトルムヴォルフ殿がお見えになりました」

 ジルベニスタは自分の手の中にあった銀製のロケットを大切に机の中へ入れる。そして瞳に決意を漲らせながら大きな声で告げる。

 「コーマか。ガルム殿の到着、待ちわびていたと伝えてくれ。そしてこちらにすぐに来るようにと。王国騎士団よりの正式な通知を発表したいと」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

処理中です...