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第一話
「おにいさん、美人だねえ」
王都港に向かっている時、鼻の下を伸ばした男性に声をかけられた。俺――シルフィラスア・マーガリスは眉をひそめる。
俺の父はマーガリス王国の国王に、器量の良さだけで婿入りした。その父親譲りの美貌のせいか、下心を抱かれることが多い。
「あいにく、間に合ってる」
「そんなこと言わずに。俺と遊ぼうよ」
「断る」
こんなチャラチャラした男と寝るなんて、ごめんだ。もし、子どもができたら……ろくな遺伝子を引き継がなさそうだし。
辛辣な暴言を心の中だけで吐き、表向きは憮然として無視することにした。さっさと通り過ぎると、「なんだよ、つまんねー鉄仮面男」と暴言を吐かれた。腹立たしいが、お互い様だということで見逃してやることにする。
チャラ男曰く鉄仮面の表情で王都港に入った俺は、目的の人物を見つけて精一杯の笑顔を浮かべた。片手を上げ、駆け寄っていく。
「タクス!」
声をかけた青年もまた、俺に気付くと破願した。
「シルフィ。久しぶり」
「うん。……寂しかった」
わざとらしいくらい猫かぶりの拗ね方をしても、騎士服の青年――タクスは笑って受け入れた。
「ごめんな。寂しい思いをさせて。俺も寂しかったよ」
ぐいっと抱き寄せられる。大勢、人がいるにも関わらず。タクスのこういった強引なところや堂々としたところを、好ましく思う。
だって。――周りに見せつけることで、浮気防止になるから。
俺たちの出会いは、半年ほど前。二十二歳で大学を卒業して、宮廷医として働き始めた矢先のことだ。『種馬』を探していたところ、タクスの身体能力の高さに惚れこんで、勝手に白羽の矢を立てた。
狙いを定めてすぐ、射落とすための行動に出た。どうにか合コンをセッティングしてもらい、猛アピールをしたら、案外あっさりと仕留めることができた。あまりのちょろさに拍子抜けしたものの、好都合だ。その日のうちに初夜を迎えることができた。で、よく分からないが、初めてをいただいてしまったというオチつきでもある。
どうして『種馬』を探していたのかというと……俺は子供だけが欲しいからだ。結婚願望はなく、子どもだけが欲しい。つまり、シングルファザー志望。
その理由は――。
「シルフィ。じゃあ、メシでも食いに行くか」
「楽しみだな。どこに連れていってくれるんだ?」
「俺がよく通ってる店。定食屋だよ。さっ、行こう」
手を引かれて、歩き出す。リードしてくれるところも、悪くはない。騎士というだけあって単細胞な奴だから、騙しやすくて助かる。
本気で俺に惚れているみたいだが、今まで交際経験がないのだとか。ちょっと重く感じないわけでもないが、これも俺の野望のためだ。ちょっと心苦しいが、『種馬』になってもらおう。
「オヤジ、いつものやつ二つ」
「はいよ」
タクスが通っているという定食屋に入ると、勝手に注文してしまった。強引すぎるところがたまにきずだが、まぁ……別にいいか。定食屋なんて普段行かないから、メニューがよく分からないし。
俺は内装をキョロキョロと見渡した。なかなか来る機会がない。なんか、親しみやすさがあって……それに落ち着くかも。不思議なところだ。
「タクス君、恋人?」
微笑ましそうに笑顔で声をかけてきたのは、五十路のおばさんだ。俺は一瞬ひやりとしたが、タクスは構わずににこりと「そうだよ」と頷く。
無邪気な笑顔に……うっ、ちょっと罪悪感が。深く考えずに始めた計画だが、どうにもいい奴過ぎて申し訳なさを感じる時がある。
でも、俺はどうしてもシングルファザーになりたいんだ。別にいいだろう、初経験をさせてやったんだし。俺の夢が叶ったあかつきには、他に好きな相手と晴れて結ばれたらいいんだ。
「な、シルフィ」
「……。……う、うん」
……やっぱり、心苦しいものがかなりあるが。
それにしても、一体俺のどこにそんなに惚れているのか。我ながら性悪であり、大して面白みのない男だと思うのだけれど。
となると……やっぱり、父親譲りのこの美貌目当てなのか? そういえば、結果的にラッキーだったとはいえ、手を出すのも早かったし。といっても、タクスの名誉のために言えば、遊びの雰囲気は感じられない。初めての恋人ができてはしゃいでいるというか、舞い上がっているというか、そんな感じだ。
じっとタクスを見つめていたら、その視線に気付いていたみたいだ。さっきからどうしたんだよ、と訊ねられてはっとする。さすがの身体能力だ。
この優秀な遺伝子が欲しい。どうしても。俺は頭こそ賢くても、運動能力がいまいちなんだ。
俺の頭脳明晰さと、タクスの身体能力がかけ合わさったら……きっと、優秀な子どもが生まれるだろう。そうすれば、子どもにきっといい未来が待っているはずだ。この国――マーガリスは、実力主義に近い国だから。
「なんでもない。カッコイイなって」
「本当かよ」
「本当だって。タクスは世界中の誰よりもカッコイイよ」
「そ、そうか? ありがとう。シルフィも他の誰よりも可愛い」
はにかんで言うが、……大丈夫だろうか、こいつ。俺のどこが可愛いんだ。こんなトンデモ野望を持っている腹黒い男なのに。
「はい、おまちどうさま」
そうこうしているうちに、タクスが注文した定食が届いた。パン、オムレツ、ソーセージ、とまるで朝食のようなメニューだ。でも、おいしそう。
ふわふわのオムレツをまず口に運んだ俺は、目を瞬かせた。
「おいしい。飲み込めそうなくらい、ふわふわだな」
「だよな。ここのオムレツが絶品だから、通ってるんだよ」
遠くから、「ありがとさん」と店主の声が聞こえた。気さくなお店のようだ。今度、一人でもきてみたいが……タクスとのことを話題に出されそうで嫌だな。残念だ。
俺は、努めて笑顔を浮かべる。
「連れてきてくれてありがとう。興味関心の幅が広がったよ」
「そっか。それならよかった。他にも連れて行きたい店がたくさんあるんだ。これからどんどん振り回すからな。楽しみにしてろよ」
悪戯っぽく笑いかけられ、俺はおとなしく「楽しみにしてる」と笑んだ。実際、楽しみではある。平民のこいつが連れて行くところは知らないところばかりで。見識が広がって目から鱗が落ちることが多い。
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