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第四話★
「シルフィ! どうした?」
夜になってすぐ、タクスが住まう営所を訪れた。途中、雨が降ってきたせいで、ずぶ濡れになりながら。
慌ててタオルを差し出されたが、俺は構わずタクスの胸にしなだれかかった。
「ど、どうしたんだよ。本当に。何かあったのか」
「……」
「まぁ、部屋に上がれよ。ゆっくり話を聞いてやるから」
「お邪魔しま、す」
しゅんとしながら、タクスの自室に入る。何度かきたことがあるが、今日はいつにもまして散らかっている。話を聞くと、片付けようとしたら、逆に散らかってしまったのだと言う。
俺は笑ってしまった。なんだそれ。
俺の笑顔が意外なものであったのか、タクスは目をぱちくりとさせていた。けれどすぐに微笑みを浮かべ、一緒になって笑う。
「はは、アホみたいだよな。俺」
「そんなことない。面白いだけだろ」
「そうか? でも、シルフィが笑わせられたんだから悪くないか」
――俺を笑わせられる。
日頃からいかに笑っていないかを突きつけられたようで、俺は目を伏せた。表情を曇らせた俺に、タクスは大慌てだ。
「えっ、ごめん! 俺、何か傷付けること言ったか?」
「……タクスが悪いわけじゃない。ただ」
「ただ?」
「……」
すべてを話すことはできず、俯く。押し黙っていると、タクスは気遣わしげな顔をして俺の体をソファーの上で抱き寄せた。
無言でタクスに擦り寄ると、察するものがあったようだ。躊躇しながらも、俺にキスをしてくれた。
「シルフィ、ごめんな。俺。頼りない男で」
「……そんなことない」
「それならなんで話してくれないんだ。俺が頼りないからじゃないのか」
「ちが、う。ただ重くて話しづらいことだから……」
「シルフィの話ならなんでも聞くよ!」
正面から真っ直ぐ気持ちを伝えられて、俺の心は僅かに動かされた。こんなに一生懸命になってくれる奴なんて、身内以外にいない。といっても……それは年嵩の宮女たちのことであり、父王も父も含まれていないけれど。
その現実がやるせなく、またつらいことだった。
「本当に聞いてくれる?」
「もちろん。やっぱり何かあったんだな?」
「……うん。実は」
家庭環境のことを、思い切って打ち明けた。そしてついさっき、父から冷たく拒絶されたことも。それでタクスに会いに来たくなったことも伝えた。
「シルフィ……」
タクスがぐいっと俺を抱き寄せ、力強く抱き締めた。ぽかぽかとした温もりが心地よく、また頼もしい。
「今まで気付いてあげられなくてごめん。ずっとつらい思いをしていたんだな」
「……」
「これからは俺が守るから。絶対に幸せにするよ」
「う、ん。ありがとう」
こんなに大切にされているのに……心が空虚だ。どうしてこんなに自分の心は冷え切っているんだろう。プロポーズされたら泣く人だっているというのに、俺の目から涙が流れる気配は微塵もない。
乾いた目をどうにか精一杯潤ませて、――タクスに抱きついた。
「抱いてほしい」
「え? でも」
「慰めてほしい。タクスにしかできない」
今回ばかりは、子供が目当てじゃない。ただ、人の温もりが恋しかった。ますます最低だと思うが、どうしても体を重ねたい。愛してほしい。
俺の心境の変わりようが唐突なのか、タクスは戸惑っていたようだが、俺の表情から必死さを汲み取ったんだろう。分かった、と静かに頷いた。
ソファーにそっと押し倒される。キスをしながら、互いの衣服を脱がせ合う。どちらのお衣服も雨水でびっしょりだ。
「んっ、んんっ」
舌と舌を絡め合う深いキスは、下半身に緩やかに快楽を与える。もじもじさせてしまうと、それが伝わったらしい。タクスは苦笑いで、俺のモノを触った。上下に何度も擦られると、たまらなく気持ちいい。
「あぁっ、ああっ、気持ちいい……っ」
口から本音が飛び出た。自分でもびっくりするほど、いやらしい声が出てしまう。どうにも、気分が昂っているようだ。
「可愛い……シルフィ」
囁くようにこぼし、タクスの手が俺のモノの先端から蜜液を掬う。それを双丘の奥に塗りたくって、ぐるぐると優しく掻き回す。ほぐしてくれているのだ。タクスはいつもそうだ。いきなり挿入してくることはない。
初めての時は知らずに悪気なくやろうとしたので、咄嗟に怒ったことから反省しているんだろう。
「そろそろいいかな。挿れるよ」
「う、ん」
期待に胸を弾ませると、タクスのモノがゆっくりと中に侵入してきた。熱襞が限界ギリギリまで押し開かれ、中に押し入ってくる。熱くて、硬い。どれだけ俺に興奮していいるか伝わってくる。
「動くよ。痛かったら言ってくれ。すぐにやめるから」
「分かっ、た。……んぁっ、ああっ」
ぐちゅぐちゅと音を立てて動き出す。しつこいくらいに抽挿され、俺は乱れてしまう。口から出るのは喘ぎ声ばかり。
「はぁっ、ふぁぁっ、タク、ス……っ」
「ん。愛してるよ、シルフィ」
途端、ずきりと胸に痛みが走った。愛してる。そう、愛してくれているのに。俺は……タクスのことを愛していない。利用してしまっている。
一瞬で頭が冷め、俺は慌てて「抜いて」と懇願した。このまま、抱かれるわけにはいかないと思ったから。だって、こんなのまるで……。
嫌がり出した俺に、タクスは困惑気味だ。
「え? で、でもさっき……」
「気が変わった。ごめん」
「……そ、っか。分かった。やめる」
そろりと引き抜かれて、俺はほっと息をついた。俺にだってポリシーはあったはずなのに。一時の感情に流されて、とんでもないことをするところだった。
「でも、本当に大丈夫か?」
気遣わしげに訊かれて、俺は努めて笑みを返した。
「大丈夫だよ。ちょっとおかしくなってた。本当にごめん」
「いや、いいんだけど……今夜は泊まっていくか? もちろん、変なことはしないし」
「……泊まる? なんで?」
「だって、一人じゃ寂しいだろ」
核心をついた言葉に、俺は腑に落ちた気がした。そうだ、俺は……一緒に添い寝してくれるような相手をきっと求めていたんだ。
記憶にある限り、誰かに添い寝してもらったことがないから。父でさえも。
「こっちにこい。一緒に寝よう」
「……いいのか?」
「もちろん。いつも悪いと思ってたし」
どこまでも誠実な男だ。泣きたくなるくらい優しく、そして頼もしい。
「……ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
タクスに連れられて、寝室に足を踏み入れる。そこで二人とも寝間着に着替え、横になった。向かい合うように横向きになって、タクスの手が俺の手を握り締める。
「俺はお前の味方だからな、シルフィ」
「……っ」
「愛してるよ。だから、さ。いつ……」
続きの言葉を遮るように、俺は眠ったふりをした。目をつぶり、すやすやとした寝息を演出する。狸寝入りだ。このままでは、プロポーズされると勘付いたのだ。
やっぱり早めに別れないと。
だって、タクスは………本当にいい奴すぎる。なるべく傷付けないように別れて、あとは幸せになってほしいと思う。
でも、なぜだろう。もう会えなくなることを想像したら、胸が痛むのは。
俺が眠ってしまったと思い込んだらしいタクスは、一人呟く。
「寝ちまったか。プロポーズはまた今度だな」
そう言って、タクスも眠り始めたようだ。やがて本物の寝息が聞こえてきた。
人生初めての添い寝をしてもらいながら、俺は思う。……どうして、こいつは。こんな俺のことを好きなんだろう。
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