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第六話★
日付が変わる頃、舞踏会は終わった。今夜はなかなか豪勢な食事だった。お腹がいっぱいだ。食べ過ぎた。
というわけで少しウォーキングしようと、王城からぐるりと後宮までの道のりを歩いていると、街灯の下に佇む人影に気付いた。
あれ? と思う。一瞬、不審者かと思ったが、――違った。タクスだ。どうしてここにいるんだろう。
「タクス?」
「シルフィ、おかえり」
白い息を吐きながら、両手を擦り合わせ、タクスは笑う。そういえば、騎士服だ。休暇中なのにどうして。
「ただいま。今日、仕事中だったのか?」
「ちょっと雑用を押し付けられて。気付いたら、夜だった。でも、シルフィに会いたくて……このまま来た」
「そう、なのか」
喜ぶ演技をすべきところなのに、神妙な面持ちになってしまった。タクスも不思議に思ったみたいだ。「シルフィ?」と気遣わしげに首を傾げる。
「どうかしたのか? まさか、またご家族と……」
「あっ、いや。違う。舞踏会の帰りだから、ちょっと疲れてるだけ」
咄嗟に嘘をつくと、けれどタクスは信じたようだ。そういえば今日、エシュドとの舞踏会だっけ、と一つ頷く。
「お疲れ様。大変だったな。……誰かとダンス、踊った?」
「王太子殿下と踊ったけど」
「……ふーん。コゴルニス殿下と、か」
「?」
声が低くなったタクスの様子に、俺は首を捻るしかない。まさか、コゴルニス殿下のことを知っているわけじゃないだろうし……どうしたんだ。
「タクス、どうし……わっ!」
突然、腕を引っ張られて、抱き寄せられた。本当にどうしたんだ。
戸惑っていると、タクスが耳元で囁く。
「愛してるよ。仕事でなかなか会えないけど」
切羽詰まったような声音に、俺は訝りながらも、胸がずきりと痛む。仕事でなかなか会えないことを俺は逆手にとって利用している。
次に会った時は、別れを切り出そうと思っていたものの……言い出しにくい。だからといってもう嘘をつくことははばかられ、沈黙するしかない。
けれど何も言わないことが、タクスの中で何か不安にさせてしまったみたいだ。突然、キスをされた。それも触れるだけじゃない、深いディープキスを。
「んんっ!」
「シルフィ……もしかして、俺に冷めた?」
ようやく口を離され、俺は大きく空気を吸う。息ができなくて死ぬかと思った。
冷めたのか、と聞かれても。最初から好きだったわけじゃない……とは、もちろん言えないわけで。とりあえず落ち着いてもらおうと、「そんなことない」と嘘を重ねた。傷付けないための嘘であり、同時に身の保身からくる嘘だった。
それを察したのかもしれない。腕を引っ張られて、茂みの中に引きずり込まれた。真っ暗な闇の中で、芝生に押し倒される。
「ちょ…っ……タクスっ!」
ぎょっとする俺に、タクスは無言で襲いかかる。乱暴に衣服を脱がされ、露になった乳輪をねっとりと舐められた。愛撫される手に、あろうことか感じてしまう。
「あっ……やだっ、バカ! やめ…っ……」
「やめない。シルフィはもう俺のものなんだから」
「はぁ!?」
何を意味の分からないことを言っているんだ。肉体関係を持ったからといって、タクスのものになった覚えはない。っていうか、俺はものじゃないし。
抵抗しようとしたが、腕力でタクスには敵わない。強引な行為にされるままでいるほかなかった。それでも、タクスに開発された身体は、タクスの攻めに喜んでしまう。
「あっ、んぁっ」
せめて声を潜めたくて、手の甲を口に押し付けた。ぐぐもった嬌声を上げながら、正常位でタクスのモノを受け入れると、体が快楽でびくつく。
なんだこれ。無理やりされているのに、どうして感じてるんだ、俺。
それにしても一体、何がどうなっているんだろう。こんなことなら、最初から「俺も愛してる」と嘘をついておくんだった。
これでは、もし別れを告げた時、どうなってしまうんだろう。このままずっとタクスと一緒にいなければならないのか。身から出た錆とはまさにこのことかもしれない。
「シルフィ、愛してる。誰よりも愛してるから」
「あっ、んんっ、んぁぁっ!」
感じる俺に必死に縋るタクスを、俺はやるせない気持ちで見つめる。ここまで追いつめてしまったことが申し訳ない。
「シルフィのことは誰にも渡さない。あいつにだって」
――『あいつ』?
意味がよく分からなかった。誰のことだ。誰かに焼きもちを妬いているということなのか。それなら、と俺は無理やり微笑んだ。
「大丈夫。俺はタクスのものだよ」
俺の言葉に、ようやくほっとしたのか。タクスのしんどそうな表情が和らぐ。けれど、今さら行為の手を止められないらしく、激しく攻め立てられた。
「あぁっ、あぁああああ――っっ!」
絶頂してしまい、そこで俺の意識は途切れた……。
ぴいぴいと鳥のさえずりが聞こえる。
「ん…っ……」
目を覚ますと、見慣れない天井が視界に入った。ぼんやりと視線をさ迷わせると、隣にタクスの寝顔がある。
そういえば、舞踏会の後……タクスに犯されたのだった。不思議とさほどショックも恐怖もないけれど。
「……ごめん」
タクスの頬に手をそっと伸ばし、ぽつりと謝る。
もういっそどこかに一人去ってしまおうか。父王の言うことなんか聞かず、宮廷医の仕事も辞めて。そうしたら、タクスだって俺のことを忘れて新しい恋ができるはずだ。
善は急げ。俺は寝台から静かに起き上がろうとした。その時だ。タクスの手が、俺の手首を掴んだ。
「どこに行くつもりだ」
「タ、タクス……起きてたのか」
もしや、頬に触れた時に起こしてしまったのかもしれない。さすがの身体能力というべきか。
タクスは俺のことを再び寝台の中に引きずり込む。俺の体に覆いかぶさるように、俺のことを抱き締めた。
「おはよう。昨日はごめん。乱暴な真似をして……」
「そ、れはもういいけど……なんだったんだ。俺、何かしたのか?」
「違うよ。俺のくだらない嫉妬だよ。あい……コゴルニス殿下とダンスを踊ったって聞いて、なんだか悔しくて。……俺はシルフィと踊れるような立場じゃないから」
タクスは平民だ。騎士といっても、それは変わらない。そういう意味では確かに、隣国の王太子に対して嫉妬するのも無理はないのかもしれない。それにしたって、ひどい所業だったのではと思うが。
といっても、ひどい所業をしているのは俺も同じだ。だから、それ以上は何も言わなかったし、責めなかった。人のことをどうこう言える立場じゃない。
「本当にごめん。怒ってる、よな?」
「だからそれはもういいって。それよりも……わっ、なんだよ」
「ありがとう。シルフィは女神みたいだ」
女神ってなんだ。俺は男だ。
より一層、力強く抱き締めるタクスに困惑しつつも、再度訊ねる。
「で、ここってどこなんだ」
「俺が住んでるアパートの部屋だよ。勝手に後宮に入るわけにいかないから、ここまで運んできた」
「ふーん、そうだったのか。って、ああっ!」
室内の置き時計を見ると、なんと朝の八時を回っていた。まずい、遅刻だ!
俺は慌ててタクスをひっぺはがし、寝台から下りた。
「ごめん、仕事に行くから! じゃ、じゃあまた!」
乱れた夜会服を整えながら、急いで部屋を出る。タクスはぽかんとしながらも、優しい笑みを浮かべて俺を見送ってくれた。
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