オメガ王子は海保騎士とただいま子作り中!〜偽りの交際の行方〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)

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第九話



「………ところで、シルフィ。子どもだけが欲しい理由ってなに?」

 薬局までの道のりを連れ立って歩きながら、タクスが核心を突いた質問をする。
 俺は一瞬ためらったが、包み隠さず話すことにした。タクスの前では誠実でいたい。もしかしたら、大したことのない理由だと思われるかもしれないけれど。

「俺の両親のことは話しただろ? 国王陛下と、側婿である父様のこと」
「うん。聞いたけど……」
「だからだ。不仲な両親を見て育ったから、そういう育ちの子どもの気苦労が分かるというか……。結婚してもどうせ夫夫の愛情なんて冷める。だから子どもを振り回したくなくて、だったら最初からシングルファザーがいいなと思って」

 俺はちらりとタクスを見る。どういう反応をされるんだろう。考え過ぎだとでも笑われるんだろうか。
 内心、不安に思っていると、けれどタクスは真剣な顔をして言葉を返してくれた。

「そっか。あの時、詳しく話を聞いておけばよかった。そういうことだったんだな」

 あの時。俺の思惑を誰かに暴露されて俺も白状した時のことだろう。
 あの時は、確かに子どもだけが欲しかったからとしか伝えなかったし、タクスも詳細までは訊ねてこなかった。ショックを受けていただろうから、当然のことだと思うが……タクスは心底後悔しているような様子で、俺の手をぎゅっと握り締めた。

「ごめんな。俺、自分のことしか見えてなかった。もっときちんと話し合うべきだったのに……。シルフィの悩みなんて知りもしなかった。本当にごめん」
「い、いいよ。タクスは何も悪くない。悪いのは俺だ」

 慌てて否定しても、タクスの表情は暗いままだ。

「こんな体たらくなのに、プロポーズしようとしてたなんて……我ながら自分の未熟さが恥ずかしい。……俺の両親は仲がいいから、そういう悩みって考えもしなかった」
「そう、なのか。タクスのご両親は……仲がいいのか」

 確かにそんな雰囲気はあるかもしれない。いつも素直で明るくて思いやりがあって、両親から愛されてきたんだろうなと感じる時がよくある。そのことが微笑ましく、また同時に羨ましかった。
 といっても、実際にタクスの口から両親について聞いたことは一度もなかったから、俺の勝手な妄想だと思っていたが、予想は当たっていたということらしい。
 タクスは申し訳なさそうな顔で、俺を見つめる。

「正直なところ、シルフィの悩みは俺には理解するのが難しい。でも、結婚したら誰しも愛情が冷めるわけじゃない。俺の両親がその実例だよ」
「……うん」

 その通りだ。自分の生い立ちだけで勝手に決めつけ、思い込んでいた俺こそ、未熟者だった。言われてみたら、ずっと仲のいい夫夫も存在するに決まっている。
 けれど、俺にとっては両親だけが現実だったから。だから……真実から目を逸らしてきたのだろうと今は思う。
 タクスは、ふと足を止めた。俺も立ち止まると、真摯な顔で俺と向き合う。

「約束するよ。俺のシルフィへの想いは絶対に変わらない。結婚しても、……もし別れることになっても」
「えっ、そ、それはちょっと……」
「重いか?」
「そういうことじゃなくて……ええとその、もし別れたら、ちゃんと他の人と幸せになってほしいっていうか」

 自信なさげに俯くと、タクスは困ったように笑う。

「シルフィ以上に好きになれる人なんて、もう誰もいないよ。だから俺はシルフィとしか結婚しない。振られたら、一生一人で生きていく」

 俺は言葉に詰まった。重いどころじゃない、と思うのに。こんなにも必要とされることを嬉しく思う自分がいる。
 もし、タクスのことを好きだと分かって、結婚できたら。きっと幸せな未来が待っているのだろうなと思った。

「あ、ありがとう……」
「俺の方こそ、話してくれてありがとう。話を聞けてよかった」

 タクスは穏やかに微笑んでから、俺の手を引いてまた歩き出す。
 なんだか、心がぽかぽかとする。話してくれてありがとうと言うが、話を聞いてくれてありがとう、とこちらが言いたい。けれど、何度もお礼を伝えるのはしつこい気がして、口にはしなかった。
 のんびりと会話をしながら道を進む。人々が賑わう王都の街の中を、手を繋ぎながら歩くのはちょっぴり気恥ずかしい。

「……じゃあ、ここで。送ってくれてありがとう」

 目的地の薬局に到着すると、俺は努めてはにかんでお礼を伝えた。すると、タクスは「お礼なんていいよ」と微笑む。

「また後で連絡する。しばらく休暇だから、今度デートしよう」
「う、うん」
「それじゃ、また」

 足早に立ち去っていくタクスの背中を、見えなくなるまで見送った。と、そろそろ、俺も薬剤を調達しに行かないと。
 急いで薬局に入ろうとした、その時だ。

「またもてあそんでおられるのですか、タクスのことを」

 ちょうど薬局から出てきたらしいオメガの青年が、険しい顔をして俺のことを見つめていた。その手には、薬剤が入った袋がある。発情期を抑える、抑制剤を購入したところなのかもしれない。

「……誰だ、あんた」
「名乗るほどの者ではありません。ですが、王立騎士とだけ」

 俺はじっと青年の顏を観察した。数拍置いて、気付く。こいつは、――あの時、タクスと話し込んでいた男だ。ということは、こいつが俺の所業をタクスに伝えた奴か。
 青年は俺を睨みつける。

「もういい加減にしてもらえませんか。タクスは純情でいい人なんです。遊びで振り回すのはおやめ下さい」
「……遊びじゃない」
「え?」
「もう遊びじゃない。真剣に付き合ってる」

 正面から堂々と伝えると、青年は狼狽した。そんな、と悲しげに瞳を揺らす。
 あまりにも動揺していることから、察するものがあった。多分、こいつはタクスのことが好きなのだろう。道理で、俺に対してあれだけ怒っていたわけだ。

「以前のことは、申し訳なく思ってるし、反省してもいる。でも、もうそんな真似はしない。約束する。信じてほしい」
「……っ、タクスのことをまた傷付けたら、絶対に許しませんから!」

 青年は目に涙を浮かべながら、悔しげに走り去っていった。
 そういえばあの時、タクスと話していたのは知り合いだからというのもあるかもしれない。ということは、俺がタクスと出会うよりも前からタクスに片思いしていた可能性がある。そう思うと、切ない気持ちもあるが………こればかりは俺にどうこうできることじゃない。
 でも、と思う。

「綺麗な子だったな……」

 その上、一途だなんて。あいつが本気になってタクスにアピールしたら……なびく可能性もあるんじゃないか。そんな不安が拭えない。さっき、タクスの気持ちを聞いたばかりなのに。
 もし、あの二人が結ばれたら……。
 想像したら、胸がちくりと痛んだ。あれ、と思う。なんだこの焦る気持ちは。
 考えてもよく分からなかった。




 ちなみに、だけど。後日、タクスから青年について話を聞いた。突然、体調を壊して王立騎士をやめてしまったと。なんでも、仕事が激務になったことで体が耐えられなくなったのだとか。
 名前はフェリスという人だったらしいが……突然、仕事が忙しくなるなんて、何かあったのだろうか。

「田舎に帰って静養するんだってさ。災難だよな。せっかく騎士になれたのに」
「……そう、だな」

 王立騎士の上にあたる役職は、王立騎士団の幹部。そしてさらにその上は、国防省の文官たち。そのまたさらに上は、――宰相ひいては国王だ。
 ……って、考え過ぎだろう。なぜ、父王が一介の王立騎士一人をわざわざ潰すよう命令するのだ。バカバカしい。本当にただ災難に遭っただけだろう。

「ところでタクス。その……フェリスとは仲がよかったのか?」

 大衆食堂の定食をいただきながら、おずおずと訊ねる。タクスはオムレツを頬張りながら、「普通だったけど」とあっけらかんと答えた。

「それがどうかしたのか?」
「え? あ、いや。ただ、仲が良かったんなら、寂しいんじゃないかって」
「まぁ……残念ではある。でも、やめていく騎士なんてたくさんいるし。心配しなくても大丈夫だよ」
「そっ、か」

 ちょっとだけ安堵する自分がいて、その理由もよく分からなかった。

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