12 / 18
第十二話★
「なぁ、マーゼ」
宿屋に戻った後。食事と入浴を終えて部屋に行ってすぐのことだ。俺は思い切ってマーゼに相談することにした。タクスとのことを。
話を聞いたマーゼは、やはり普通に交際しているのだと思っていたらしく、目を丸くしていた。
俺は寝台の端に腰かけ、俯きがちに吐露する。
「それでさ、最近……変なんだ。俺」
「と、おっしゃいますと?」
「タクスの傍にいると、心臓がどきどきする。今日、氷の神殿でダンスを踊った時もすごくカッコよく見えたし……それから」
続けて、フェリスとの一件のことも伝えた。フェリスのことをお姫様抱っこしたタクスに対し、なんだかもやもやすると。
以前、俺だって同じように運んでもらったのにどうしてだろう。タクスは誰にだってああいう風に熱くなる男のはずだろう。いちいち気にしてどうするんだ。
「これってどうしてなのかな……」
弱々しく呟くと、マーゼはくすりと笑った。
「シルフィ様。それこそが恋ですよ」
「え?」
――恋。俺がタクスに恋をしている?
「フェリス様のことだって、焼きもちを妬かれていらっしゃるのだと思います。ご自分以外の方がタクス様と一緒にいる光景を想像してみて下さい。その時に感じた気持ちが、答えなのではないでしょうか」
「タクスと……他の誰か?」
言われて、素直に想像してみた。たとえば、フェリスがタクスの隣で笑い合っているところ。たとえば、手を繋いで歩いているところ。たとえば――寝台で愛し合っているところ。
「っ!」
猛烈に嫉妬心が込み上げてきた。そんなの嫌だ。脳内妄想の二人を引き離したくなる。
タクスの隣にいるのは……俺でいたい。
「お、れは……タクスのことが好きだったのか」
「ふふ、答えは出たようですね」
なぜかマーゼは嬉しそうに笑っている。俺にようやく好きな相手ができたことを、喜ばしく思ってくれているのかもしれない。それだけ、マーゼとの付き合いは長い。
俺は寝台から立ち上がった。
「ごめん、ちょっとタクスのところに行ってくる」
この想いを、伝えに行こう。随分と待たせてしまった。
マーゼは「いってらっしゃいませ」とにこりと見送ってくれた。俺は「あとでまた報告するから」と優しく笑い、部屋を出た。タクスが宿泊する客室へと急いで向かう。
「タクス」
しかしコンコンと扉を開けても、反応がない。あれ、もしかして寝ているんだろうか。でもまだ夜の九時前だ。就寝するには早い。
「外に出かけたのか……?」
一人呟きながら、ひとまず宿屋の外に出てみた。しんしんと雪が降る中、俺が見たのは……タクスと、なんとフェリスの姿だった。
咄嗟に物陰に身を潜める。少し距離が遠くて話は聞こえにくいが、その言葉だけははっきりと聞こえた。
「タクスのことが好きだ」
フェリスの声だった。間違いない、タクスにとうとう告白しているのだ。
俺はどきりとした。タクスはどう答えるんだろう。俺があまりにも待たせすぎたから、まさかフェリスのことを選んでしまうのでは。
そんな不安が拭えない。けれど、それは杞憂だった。
「ごめん。俺はシルフィのことが好きだから。気持ちには答えられない」
「……っ、なんで? なんであんな性悪男がいいんだよ!」
悲痛な声が響き渡る。俺は目を伏せるしかなかった。
訪れた静寂の中、タクスは厳しく返した。
「そういう言い方はやめろ。俺たちには俺たちの事情がある。もう首を突っ込まないでほしい」
「……っ」
「フェリスの気持ちは本当に嬉しいんだけど……そういうことだから。ごめんな。それじゃ、行くよ」
タクスは非情に告白を断って、踵を返してきた。俺は慌てて宿屋に戻ろうとしたが、ポケットからハンカチが落ちた。ひらりと風に舞ったハンカチは、ちょうどタクスの顏に張り付いてしまう。
「な、なんだ?」
顔からハンカチをひっぺはがしたタクスは、ハンカチの模様を見て俺の物だと分かったようだ。はっとした顔で、ハンカチが飛んできた方向――つまり、俺がいるところへ駆け寄ってきた。
「シルフィ。聞いてたのか」
「う……ご、ごめん。立ち聞きするつもりはなかったんだけど」
おとなしく白状して、物陰から出る。タクスは困ったように笑った。
「そっか。じゃあ、さっきの話は」
「聞こえてた。本当にごめん」
「いいよ。別に。聞かれてやましいことは何もないし。まぁ……フェリスのために、黙っててもらえると助かるけど」
「もちろん」
ひとの玉砕情報を言い触らすような悪趣味はない。それに……タクスのことが好きだと気付いたからこそ分かる。好きな人に拒絶されるつらさや悲しみを。タクスと一度別れた時、流した涙はだからだったんだろう。
じゃあ宿屋に戻ろうか、とタクスはハンカチを俺に引き渡す。雪が付着して湿ったそれを上着のポケットに突っ込んで、俺たちは来た道を引き返した。
「……タクス」
宿屋前にある大きな雪洞の辺りで、俺はタクスを呼び止める。足を止めた俺に合わせてタクスも立ち止まった。
「どうした、シルフィ」
「話があるんだ」
俺は緊張しながら、震えそうになる唇を必死に動かす。両思いのはずだと分かっていても、改まって告白するのも勇気がいることなんだな。
タクスは優しく微笑む。
「なに?」
「好きだ」
「え?」
「ようやく気付いた。俺もタクスのことが恋愛相手として好きだったってこと。振り回して、ずっと待たせてごめん」
そろりとタクスの表情を窺うと、タクスは軽く目を見開いている。何を言われたのか理解できないといった顏だ。あまりにも唐突で驚かせてしまったんだろう。
茫然としているタクスに、俺はなんと続けたらいいのか分からず。
「え、っと……タクス?」
「……本当に?」
信じられないという顔をしているタクスに、俺は笑って頷く。
「うん。本当」
「よっ、しゃあああああ!」
ようやく現実を理解したタクスは、拳にガッツポーズを作る。すぐに俺のところへ駆け寄ってきて、俺のことを抱き上げた。「わっ」と小さく声を上げる俺に、嬉しそうに笑いかける。
「ありがとう! 俺も大好きだよ、シルフィ!」
そのままくるくると何度か回って振り回され、俺は驚いてタクスにしがみつく。すごい喜びようだ。でも……とても愛おしい。なんだか可愛い。
やっと動きを止めたタクスは、俺と額をこつんと合わせ、屈託なく笑う。
「一生大事にする。絶対、幸せにするから」
真心がこもった熱い思いが、俺の中の底冷えてしていた心を溶かす。心がぽかぽかとしてじんわりと温かい。
タクスのことなら信じられる。きっと、死ぬまで仲良くいられる。
「俺も。タクスのことを幸せにしたい」
「じゃあ、一緒に幸せになろうな」
「うん」
ようやく雪の地面に下ろされると、俺はタクスと口づけをかわす。体を離した後、小さく笑い合った。
これからよろしく、タクス。
「じゃあ挿れるよ」
「……うん」
タクスの部屋に一緒に戻った後。俺たちは裸で寝台の上に寝そべっていた。愛撫によって温まった体に、正常位の体勢でタクスのモノがあてがわれる。
どきどきしながら挿入を待つと、やがてゆっくりと熱芯が中に侵入してきた。
「あぁっ……」
「痛くないか」
「だいじょ、うぶ」
手と手を絡み合わせ、俺たちは小さく微笑み合った。身も心も繋がり合えることが、こんなにも幸せなものだと知らなかった。
ゆっくりと動き出したタクスに感じさせられる。奥深くまで受け入れたそこが、熱くて……気持ちいい。
「シルフィ、愛してる」
「お、れも。愛してる。愛してるよ」
お互いを必死に求め合い、快楽を貪り、そして――愛を確かめ合った。
「タクス……あぁっ、そろそろ……」
「いいよ、一緒にイこう」
タクスの動きがますます激しくなっていく。中を強く擦られた瞬間、
「あぁあああああ!」
俺は達してしまった。同時にタクスも「うっ」と呻き声を上げ、俺の中に熱い蜜液を注ぎ込む。
俺たちは向き合ったまま、またキスをした。
あなたにおすすめの小説
ワケありくんの愛され転生
長野智/鬼塚ベジータ
BL
彼は”勇敢な魂"として、彼が望むままに男同士の恋愛が当たり前の世界に転生させてもらえることになった。しかし彼が宿った体は、婚活をバリバリにしていた平凡なベータの伯爵家の次男。さらにお見合いの直前に転生してしまい、やけに顔のいい執事に連れられて3人の男(イケメン)と顔合わせをさせられた。見合いは辞退してイケメン同士の恋愛を拝もうと思っていたのだが、なぜかそれが上手くいかず……。
アルファ4人とオメガ1人に愛される、かなり変わった世界から来た彼のお話。
※オメガバース設定です。
運命の番と出会ったら…幸運な再会でした
こたま
BL
春川茜(あかね)はオメガ男子だ。ベータの姉、藍(あい)と帰国子女として仲良く大学に通っている。茜は、父の赴任で米国滞在中に診断不能の不全オメガと言われていた。二次性徴も発情期も正常に訪れ、血液検査ではホルモンもフェロモンも正常に反応している。しかしどんなアルファに対しても魅力を感じず、嫌悪感を覚える。そしてアルファもまた茜をどこか近寄りがたい誰かの物であるように知覚するのだ。一人で生きていこうと努力をしていた茜に訪れた出会いとは。同じ年のアルファ×オメガ。ハッピーエンドBLです。
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。
息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。
ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日”
ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、
ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった
一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。
結局俺が選んだのは、
“いいね!あそぼーよ”
もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと
後から思うのだった。
発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ
小池 月
BL
もし発情期がアルファにくるのなら⁉オメガはアルファの発情を抑えるための存在だったら――?
――貧困国であった砂漠の国アドレアはアルファが誕生するようになり、アルファの功績で豊かな国になった。アドレアに生まれるアルファには獣の発情期があり、番のオメガがいないと発狂する――
☆発情期が来るアルファ貴族×アルファ貴族によってオメガにされた貧困青年☆
二十歳のウルイ・ハンクはアドレアの地方オアシス都市に住む貧困の民。何とか生活をつなぐ日々に、ウルイは疲れ切っていた。
そんなある日、貴族アルファである二十二歳のライ・ドラールがオアシスの視察に来る。
ウルイはライがアルファであると知らずに親しくなる。金持ちそうなのに気さくなライとの時間は、ウルイの心を優しく癒した。徐々に二人の距離が近くなる中、発情促進剤を使われたライは、ウルイを強制的に番のオメガにしてしまう。そして、ライの発情期を共に過ごす。
発情期が明けると、ウルイは自分がオメガになったことを知る。到底受け入れられない現実に混乱するウルイだが、ライの発情期を抑えられるのは自分しかいないため、義務感でライの傍にいることを決めるがーー。
誰もが憧れる貴族アルファの番オメガ。それに選ばれれば、本当に幸せになれるのか??
少し変わったオメガバースファンタジーBLです(*^^*) 第13回BL大賞エントリー作品
ぜひぜひ応援お願いします✨
10月は1日1回8時更新、11月から日に2回更新していきます!!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
冷遇されたΩは運命の竜に守られ花嫁となる
花里しろ
BL
*誤字報告ありがとうございます!
稀少なオメガとして王都に招かれたリュカは、夜会で酷い辱めを受ける。
悲しみに暮れるリュカはテラスに出ると、夜空を見上げて幼い頃に出会った初恋の相手を思いその名を呼んだ。
リュカ・アレオンは男爵家の末っ子次男だ。病弱なリュカは両親と兄・姉、そして領民達に見守られすくすくと育つ。ある時リュカは、森で不思議な青年クラウスと出会う。彼に求婚され頷くも、事情がありすぐには迎えられないと告げられるリュカ。クラウスは「国を平定したら迎えに来る」と約束し、リュカに指輪を渡すと去って行く。
時は流れ王太子の番として選ばれたリュカは、一人王都へ連れて来られた。思い人がいるからと、リュカを見向きもしない王太子。田舎者だと馬鹿にする貴族達。
辛い日々を耐えていたリュカだが、夜会で向けられた悪意に心が折れてしまう。
テラスから身を投げようとしたその時、夜空に竜が現れリュカの元に降り立つ。
「クラウス……なの?」
「ああ」
愛しい相手との再会し、リュカの運命が動き出す。
ファンタジーオメガバースです。
エブリスタにも掲載しています。