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最終話★
小物入れに、乾燥した草花の指輪がある。昔、タクスから初めてもらった結婚指輪だ。今も大切に保管してあるのだ。
あれからもう五年。俺たちは結婚し、一児の父となり、家族三人で幸せに暮らしている。ちなみにあれから父王は、というと。
『え!? 退位する!?』
『はい。俺が跡を継ぎます。当然でしょう、兄上にあのようなことをしていたなんて』
俺が牢屋に監禁されていた間、オリハバートは地方視察に行っていた。帰ってきたオリハバートは大層怒って、真実をエシュド国王陛下とともにマーガリス王国中に流布したのだ。結果、父王の支持率は大暴落し、退位に追い込まれた。
だから今、マーガリス王国の国王はオリハバートだ。エシュド国王陛下とも仲良くしており、近々エシュド王国から公爵令嬢を娶るという。
父王の行方は知らない。一人でひっそりで隠居したからだ。誰もついていかないという辺りが、日頃の好感度を物語っていた。
「とうさまー」
俺ははっと現実に戻る。とてとてと歩いてくるのは、愛息子のリシェルトだ。今年で三歳になる。俺そっくりの美貌を持った、オメガの男の子だ。
洗濯物を干していた俺は手を止め、両膝をついた。リシェルトを呼び寄せ、愛くるしいふっくらとした体を抱き締める。
「どうした、リーシェ」
「ちちうえは? まだかえってこないの?」
俺は壁にかけた時計を見やる。朝の七時……もうそろそろ王都港に到着する頃かもしれない。
「じゃあ、迎えに行こうか」
リシェルトを抱き上げ、そそくさと移動する。洗濯物はきりのいいところまで干してから、あとはほっぽり出した。ちょっとくらいシワになったって大丈夫だろう。
きゃっきゃっと楽しげに声を上げるリシェルトをあやしながら、王都港に向かう。いくつもの船が帰港している中、タクス……ジルヴァートが乗っている船も戻ってきた。
「シルフィ、リーシェ!」
下船してきたジルヴァートが、急いで駆け寄ってきた。肩に担いでいた荷物を地面に下ろし、リシェルトのことをその逞しい腕で抱き上げる。
「ただいま。二人とも元気だったか?」
「おかえり。大丈夫だよ。リーシェは寂しがって泣いちゃうことがあったけど」
苦笑いで言うと、ジルヴァートも困ったように、けれどどことなく嬉しそうに、はにかむ。
「……シルフィは?」
「え? だから元気だったって」
「寂しくなかった? 俺がいなくて」
「え、っと……ま、まぁ」
夜の睦み事で行われる言葉攻めの影響が出ているのか。あけすけに寂しかったという言葉を聞きたがるジルヴァートに、俺は頬を赤らめて俯いた。
「シルフィの口から聞きたい」
「う、うう……さ、寂しかった、よ」
恨めしげに見上げると、なぜかジルヴァートは屈託なく笑った。
「はは、ごめん。ちょっとからかっただけだよ」
「もう……っ」
俺は、ジルヴァートの頭をぽかっと軽く叩いた。リシェルトが気に入っている、チビドラゴンのぬいぐるみで。でも、ジルヴァートは悪びれずに笑うだけだ。
「じゃあ、帰ろうか。我が家へ」
「リーシェは眠ったのか」
「うん」
家に戻ると、リシェルトはすやすやと寝息を立てていた。子ども用の寝台にそっと横たわらせ、風邪を引かないよう布団をかけた。
久しぶりの、夫夫水入らずの時間。俺はなんだかジルヴァートに甘えたくなって、背後から抱きついた。
ジルヴァートは驚いた顔をしつつも、優しく受け入れる。
「どうした、シルフィ」
「別に。ただ、くっつきたいだけ」
「ふーん。それだけ?」
「……」
俺は俯き、押し黙る。答えられなかった。恥ずかしくて。
そんな俺の本音を見透かしたように、ジルヴァートは意地悪く笑う。
「くっつきたいだけなら、このままでもいいよ。ずっとくっついていよう」
「~~っ」
俺はもう一度、チビドラゴンのぬいぐるみを手に持ち、ジルヴァートの腕にぽかっと殴りつけた。なんでそう意地悪なんだ。
「久しぶりなのに、意地悪ばっかり言うな……っ」
涙目で軽く睨み上げると、それでもジルヴァートは引き下がらない。
「だって、可愛いから……つい。シルフィの口から聞かせてほしい」
「言えるかっ」
「あんまり大きな声を出すと、リーシェに聞こえるよ。じゃあ、寝室に行こう」
ようやく動いてくれたジルヴァートに、俺はぱっと顔を明るくした。忍び足で部屋を出て、奥にある寝室に向かう。
「シルフィ……愛してるよ」
俺たちは部屋の真ん中で向かい合い、そっと口づけを交わす。舌と舌を絡ませ合いながら、お互いに衣服を脱がせていく。
二人とも全裸になったところで、寝台になだれ込んだ。ジルヴァートは、俺の全身に愛撫のキスを落とす。久しぶりの睦み事からか、くすぐったい。すぐに感じて、下半身が反応してしまった。
ジルヴァートは、くすりと笑う。
「可愛い。シルフィ」
俺は赤面する。こんなに早く勃ってしまうなんて。まるで早くこの先をしてほしいと全身で求めているみたいだ。
俺の下腹部に移動したジルヴァートは、俺のモノをぱくりと咥え込んだ。口内でねっとりと舌を絡みつかせ、時には吸い上げたりもして、激しく刺激した。
「んんっ、んぁ……っ」
気持ちいい。喘ぎ声が止められない。眠っているリシェルトに聞こえぬよう、精一杯声のボリュームを落としつつも、俺は快楽を味わう。
やがて、口淫によりあっさりと達してしまった。ジルヴァートの中に思いっきり愛液を出してしまい、俺は慌てふためいた。何度かあることだが、恥ずかしい。
「ご、ごめん。ジル」
「大丈夫だよ」
ジルヴァートは俺のモノから口を離し、ハンカチで口元を拭った。けれども、中の愛液を手の平に吐き出して、ぬるぬるとした愛液で俺の後孔をほぐし始める。
「痛くないか、シルフィ」
「う、うん」
中を押し広げられる感じに、未だ慣れない。挿入してしまえば、後は流れに身を任せられるのだけれど。
おずおずと言う俺を宥めるように、ジルヴァートは俺の額にキスをした。
「それじゃあ、挿れるよ」
ジルヴァートが砲身を俺の後孔にあてがう。ぐっと押し付けると、愛液の滑りが手伝ってするりと中に入った。
「あぁっ……」
すごく、嬉しい。中にジルヴァートのモノを感じて。だから、ジルヴァートがいないと寂しいというのは本当だ。早く帰ってこないかと、家にいない日はいつも願っている。
「気持ちいい?」
「バカ……き、くな……ああっ」
「聞きたいんだよ。シルフィの口から」
「……もうっ」
俺は呆れてしまった。意地悪するのもいつも通りだ。毎度毎度、言葉攻めされるこっちの身にもなってほしい。
それでもジルヴァートのことが好きだから……俺はおずおずと言った。
「気持ちいい、よ?」
口に出してから、頬がカッと熱くなった。恥ずかしい。とんでもないことを言わせないでほしい。
淫らな俺の言葉にジルヴァートは満足したのか、「可愛い」と俺の額にキスをする。さすがにそれ以上はいじめてこない。あとはひたすらお互いを激しく求め合った。
「あっ、あぁっ、んんっ! ジルっ、もうイっちゃ……う」
「じゃあ一緒にイこう、シルフィ」
「うん。――あぁあああああ!」
一際強く中を擦り上げられ、俺は達してしまった。ジルヴァートと宣言通り一緒に。中に蜜液が注ぎ込まれて、中が熱い。
「シルフィ、愛してるよ」
「俺も。愛してる、ジル」
ジルヴァートの腕の中で温もりを感じながら、俺はそっと目を閉じた。――と思ったら。
「え、リーシェ?」
向こうからリシェルトの泣き声が聞こえる。大泣きだ。俺たちが傍にいなくて寂しがっているのかもしれない。
俺たちは衣服を着て、慌ただしくリシェルトの下へ戻った。寝台に寝かせているリシェルトを抱き上げ、必死に謝る。
「リーシェ。ごめん、ごめん。ちょっと離れて」
「ふぇえええ…どこにいってたの? とうさまなんてキラい!」
ガーン、とショックをする俺を見かねたジルヴァートが、きつく叱った。
「こら、そういうことをいうものじゃない。シルフィはいつも、リーシェのことを思ってくれているだろ」
「ふんだ! ちちうえなんて、いつもいないくせに! ちちうえもキラい!」
「ええっ!?」
ぷんすか怒る愛息子に俺たちは振り回されつつも、微笑み合う。リシェルトの機嫌はどうにかとるとして、……幸せだ、とても。
『家族と仲良く暮らせ、シルフィ』
かつて、父に言われた言葉を思い出す。父はもうこの世にいないけれど。約束は果たされていると思う。
俺は、心から笑みをこぼした。
「ジル、リーシェ、大好きだよ」
願わくはどうか。この幸せがずっと続きますように。
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