異世界ヒーローレッド! ……の俺が、なぜか、魔王の力で、無双する ~でも、俺が作りたいのは最強のヒーロー戦隊です~

ひより那

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=== 001 目指せ! ヒーロー戦隊 ===

第4話 ヒーロー、最初の任務

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 冒険者ギルドの扉を押し開けると、想像していた以上に、本物の「冒険者」たちの熱気が、酒と汗の匂いと共に俺の全身を包み込んだ。
 屈強な戦士、鋭い目つきの斥候、小難しい顔をした魔法使いたち……。誰もが、俺が物語で読んだ英雄たちの姿と重なって見える。

 ここが、俺の新しい舞台だ。憧れの場所に足を踏み入れた高揚感で、自然と背筋が伸びるのを感じた。俺は、まず情報と手続きの窓口である受付カウンターへと、まっすぐに向かった。

「こんにちは。冒険者になりたいんだが、手続きをお願いしたい」

 カウンターの向こうにいたのは、亜麻色の髪を無造作に束ねた、気だるげな雰囲気の女性、ルナさんだった。彼女は俺の顔を一瞥すると、「はい」とだけ短く答えた。

「それと、これをギルドマスターに渡してほしい」

 俺はアトラスさんから預かった、封蝋された紹介状を彼女に差し出した。彼女はそれを受け取ると、蝋に押された印を見て、ほんの少しだけ目を見開いた。

「……アトラス商会の印章。分かりました、確かにお預かりします。ですが、ギルドマスターは多忙です。すぐにお会いできるとは限りませんよ」
「構わない。まずは、俺がここで活動するための資格が欲しい」
「では、こちらの用紙に記入を。登録料は銀貨三枚ですが、紹介状がありますので、今回は不要です」

 どうやら、紹介状にはそういう効果もあったらしい。幸先の良いスタートだ。
 俺は用紙を受け取り、「ジン」という名前と、当たり障りのない項目を埋めていく。ヒーローとして名乗りを上げるのは、実際の依頼の場まで取っておこう。デビューの舞台は、慎重に選ばなければならない。

 手続きは、驚くほどあっさりと終わった。

「はい、これであなたも本日より、初心者級Fランクの冒険者です。これがあなたのカードになります」

 ルナさんから渡されたのは、一枚の金属製のプレート。これがあれば、俺も依頼を受けられる。

「依頼は、あちらの壁にある依頼書クエストボードから、ご自分のランクに合ったものを選んで、このカウンターまでお持ちください。あなたはFランクですから、Fランクの依頼のみ受注可能です」

 ルナさんから事務的な説明を受け、俺は礼を言うと、教えられた場所へと向かった。
 ボードは、依頼の難易度ごとに分けられているようだった。俺は、まず自分のランクである初心者級Fランクのボードに、真剣な眼差しで向き合った。

 そこには、「薬草摘み」「猫探し」「農作業の手伝い」といった、生活感あふれる依頼がほとんどを占めていた。ヒーローの初仕事としては、あまりにも地味すぎる。

 だが、その中で、数少ない魔物討伐依頼を見つけた。

 ――街道沿いの森に出没する森ゴブリンフォレストゴブリン三体の討伐――

 ゴブリン。元の世界のフィクションでは、最もポピュラーな雑魚モンスターだ。だが、この世界ではどうなのか。俺は、慎重に情報を集めることにした。

「すみません、このゴブリンの依頼について、少し聞いてもいいですか」

 再びカウンターに戻ると、ルナさんは少しだけ面倒くさそうな顔をしたが、プロとして、きちんと答えてくれた。

「ゴブリンは、単体なら武器をもった大人であれば倒せるほど非力です。ですが、知能が多少あり、集団で襲ってくることがある。武器も持っていますし、油断すると新人冒険者は普通に死にます。だから、Fランクなのです」

「なるほど……」

 弱い、しかし、油断はできない。今の俺の力を試すには、まさにうってつけの相手じゃないか。そして何より、ゴブリンは、ヒーローが倒すべき「悪」として、これ以上なく分かりやすい。
 プロデューサーとしての俺の判断は、決まった。アークレッドの記念すべき初任務は、ゴブリン討伐だ。

「この依頼を受ける」

 俺は依頼書を手に、ルナさんに力強く宣言した。彼女は「はい、承りました」とだけ言い、手続きを進めてくれた。

 俺は、すぐに森へは向かわない。ヒーローとて、準備は必要だ。アトラスさんから貰った謝礼金を手に、俺は街の市場へと足を向けた。

 まずは、丈夫な革袋。それから、水の入った皮袋。万が一のための傷薬と、解毒薬。それから、縛り上げるための頑丈なロープも買っておこう。元の世界の知識だが、こういう備えが、いざという時に命を救うのだ。

 買い物を終えた頃には、日は少し西に傾いていた。俺は、街の門を抜け、ゴブリンが出没するという森へと、決意を新たに歩き出す。

 森の入り口は、昼間だというのに薄暗く、不気味な静けさに包まれていた。ここが、俺の最初の戦場。
 俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。どんなに頭の中でシミュレーションを重ねても、本物の戦場を前にすれば、緊張はする。
 だが、恐怖はない。なぜなら、俺はもう、無力な青年ではないのだから。
 俺は、周囲に人の気配がないことを確認すると、腰のベルトに手を当てた。

「さあ、始めようか。俺の、ヒーローとしての物語を」

 静かな森に、俺の変身を告げる声が、力強く響き渡った。

「――変身ッ!」

 紅蓮の光が、木々の間を駆け抜ける。俺は、アークレッドとなった。複眼のマスク越しに見る森は、先ほどよりもずっと鮮明に見えた。

 さあ、行くぞ。この森の平和を脅かす、悪党どもを退治しに。俺は、静かに、しかし確かな一歩を、薄暗い森の中へと踏み出した。
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