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=== 001 目指せ! ヒーロー戦隊 ===
第5話 ヒーロー、仲間と出会う
アークレッド《Arc-Red》に変身した俺は、五感を研ぎ澄ませ、森の奥へと進んでいった。
木々のざわめき、土の匂い、遠くで響く鳥の声。変身したことで強化された感覚が、森のあらゆる情報を俺に伝えてくる。
これは、ヒーロー・プロデューサーとしての計算外だったが、非常に有用な能力だ。索敵にはもってこいである。
しばらく進むと、微かに、獣とは違う、生臭い匂いと、低い話し声が風に乗って届いてきた。間違いない、ゴブリンだ。
俺は音を立てずに慎重に木々の間を抜け、声のする方へと近づく。
開けた場所に出ると、そこには三匹の森ゴブリンがいた。緑色の肌、尖った耳、そして、手には粗末な棍棒や錆びた短剣を握っている。彼らは、焚き火を囲んで何かの肉を炙りながら、ギャアギャアと汚い声で笑い合っていた。
ヒーローの登場に、これ以上ないほどふさわしい悪党面の連中だ。
「よし、演出プラン通り、まずは名乗りからだな……」
俺が、最高の登場タイミングを計るため、木の陰で静かに息を潜めていた、その時だった。
「わー、キノコですー!」
突如、森の静寂を破る、気の抜けた声が響き渡った。
俺は驚いて声のした方を見ると、ゴブリンたちからわずか数十メートルしか離れていない場所に、金髪の小柄な少女が、大きな木の根元にしゃがみ込んでいるのが見えた。
……馬鹿な!? なぜ、こんな場所に人がいる!?
彼女は、ゴブリンたちの存在に全く気づいていない様子で、夢中になって地面から生えている、鮮やかな斑点模様のキノコを観察している。
ゴブリンたちも、突然の闖入者に気づき、驚いたように立ち上がった。そして、相手がか弱そうな少女一人だと認識すると、下品な笑みを浮かべ、じりじりと距離を詰め始めた。
まずい。これは、俺の立てた完璧な演出プランにはない、完全なアクシデントだ。だが、ヒーローは、決して民間人を見捨てない。
俺は、最高の登場タイミングを諦め、木の陰から飛び出した。
「そこまでだ、悪党ども!」
俺は少女とゴブリンたちの間に割って入り、仁王立ちになる。
「な、なんだてめぇ!?」
「我が名はアークレッド《Arc-Red》! この森の平和と、そこに生きるか弱い乙女を守る、正義のヒーローだ!」
即興の口上だったが、悪くない。
ゴブリンたちは、俺の突然の登場と派手な見た目に一瞬怯んだが、すぐに数に勝ることを思い出したのか、棍棒を振りかざして襲い掛かってきた。
一体一体の動きは遅い。だが、三方から同時にこられると、さすがに厄介だ。俺が一体を蹴り飛ばしている隙に、別のゴブリンが背後から回り込んでくる。
その時だった。
「あ、あのー、すみませーん」
背後から、のんびりとした声がかかった。俺が守っているはずの、金髪の少女だ。
「な、何だ!? 危ないから下がっていろ!」
「いえ、そのキノコ、採ってもいいですかー?」
「今はそんな場合じゃ……危ない!」
俺の警告も虚しく、背後から回り込んできたゴブリンの一匹が、少女目掛けて棍棒を振り下ろした。
しまった! 俺がそう思った瞬間、少女は、まるで背中に目があるかのように、背負っていた巨大な盾を、いとも簡単に地面に突き立てた。ガギンッ!と、鈍い金属音が響き渡る。
ゴブリンの渾身の一撃は、巨大な盾に阻まれ、逆にその衝撃で棍棒を取り落とし、手を痺れさせていた。
「……ん?」
少女は、振り返って何が起きたのかを確認すると、不思議そうに首を傾げた。
その光景に、俺も、他のゴブリンたちも、動きを止めて呆然としていた。
……なんだ、今の動きは。
彼女は、俺が助けるまでもなく、自分の身を、いとも簡単に守って見せた。ゴブリンの棍棒の一撃を、びくともせずに弾き返した。その防御力は、異常だ。
目の前の状況を瞬時に分析する。
俺には、敵を倒す攻撃力がある。そして、彼女には、少なくともゴブリンの物理攻撃をたやすく無効化する規格外の防御力がある。
もし、彼女があの防御を維持できるなら……俺は攻撃に専念できる。賭けだが、やる価値はあった。
「おい、そこの盾の嬢ちゃん! そのままゴブリンの気を引いてくれ! 俺が全部片付ける!」
「え? はい、わかりましたー」
俺の意図を理解しているのかいないのか、少女は素直に頷くと、巨大な盾を構え、その場に仁王立ちになった。
ゴブリンたちは、再び少女に狙いを定めるが、その攻撃は一切通用しない。まるで、巨大な岩を殴っているようなものだ。
そして、その隙を、俺が見逃すはずがなかった。
「今だ! ヒーローチョップ!」
俺は、少女の盾に気を取られているゴブリンたちの背後から、一体ずつ、確実に打撃を叩き込んでいく。
攻撃役と、防御役。図らずして生まれた、完璧なコンビネーションだった。
数分後、三匹のゴブリンは、全て俺の足元に伸びていた。
俺は変身を解き、元の青年の姿に戻る。
「ふぅ……助かった。ありがとう。俺はジンだ。君は?」
「いえいえー。私はマールですー。それより、このキノコ、食べられますかね?」
マールと名乗った少女の関心は、最後まで食材にしかなかった。
俺は、この、底の知れない防御力を持つ、食いしん坊の少女に、仲間になってほしいと思った。
彼女がいれば、俺のヒーロー活動は、もっと安定し、もっと華麗になるはずだ。
こうして、俺は、理想のヒーローになるための、最初の「仲間」というピースを手に入れた。
鉄壁の守りを誇る、慈愛の戦士――イエロー。
……よし! これで、『アーク戦隊』の最初のメンバーが決まった!
俺の脳内に、早くも未来の戦隊の雄姿が、鮮明に浮かび上がっていた。
木々のざわめき、土の匂い、遠くで響く鳥の声。変身したことで強化された感覚が、森のあらゆる情報を俺に伝えてくる。
これは、ヒーロー・プロデューサーとしての計算外だったが、非常に有用な能力だ。索敵にはもってこいである。
しばらく進むと、微かに、獣とは違う、生臭い匂いと、低い話し声が風に乗って届いてきた。間違いない、ゴブリンだ。
俺は音を立てずに慎重に木々の間を抜け、声のする方へと近づく。
開けた場所に出ると、そこには三匹の森ゴブリンがいた。緑色の肌、尖った耳、そして、手には粗末な棍棒や錆びた短剣を握っている。彼らは、焚き火を囲んで何かの肉を炙りながら、ギャアギャアと汚い声で笑い合っていた。
ヒーローの登場に、これ以上ないほどふさわしい悪党面の連中だ。
「よし、演出プラン通り、まずは名乗りからだな……」
俺が、最高の登場タイミングを計るため、木の陰で静かに息を潜めていた、その時だった。
「わー、キノコですー!」
突如、森の静寂を破る、気の抜けた声が響き渡った。
俺は驚いて声のした方を見ると、ゴブリンたちからわずか数十メートルしか離れていない場所に、金髪の小柄な少女が、大きな木の根元にしゃがみ込んでいるのが見えた。
……馬鹿な!? なぜ、こんな場所に人がいる!?
彼女は、ゴブリンたちの存在に全く気づいていない様子で、夢中になって地面から生えている、鮮やかな斑点模様のキノコを観察している。
ゴブリンたちも、突然の闖入者に気づき、驚いたように立ち上がった。そして、相手がか弱そうな少女一人だと認識すると、下品な笑みを浮かべ、じりじりと距離を詰め始めた。
まずい。これは、俺の立てた完璧な演出プランにはない、完全なアクシデントだ。だが、ヒーローは、決して民間人を見捨てない。
俺は、最高の登場タイミングを諦め、木の陰から飛び出した。
「そこまでだ、悪党ども!」
俺は少女とゴブリンたちの間に割って入り、仁王立ちになる。
「な、なんだてめぇ!?」
「我が名はアークレッド《Arc-Red》! この森の平和と、そこに生きるか弱い乙女を守る、正義のヒーローだ!」
即興の口上だったが、悪くない。
ゴブリンたちは、俺の突然の登場と派手な見た目に一瞬怯んだが、すぐに数に勝ることを思い出したのか、棍棒を振りかざして襲い掛かってきた。
一体一体の動きは遅い。だが、三方から同時にこられると、さすがに厄介だ。俺が一体を蹴り飛ばしている隙に、別のゴブリンが背後から回り込んでくる。
その時だった。
「あ、あのー、すみませーん」
背後から、のんびりとした声がかかった。俺が守っているはずの、金髪の少女だ。
「な、何だ!? 危ないから下がっていろ!」
「いえ、そのキノコ、採ってもいいですかー?」
「今はそんな場合じゃ……危ない!」
俺の警告も虚しく、背後から回り込んできたゴブリンの一匹が、少女目掛けて棍棒を振り下ろした。
しまった! 俺がそう思った瞬間、少女は、まるで背中に目があるかのように、背負っていた巨大な盾を、いとも簡単に地面に突き立てた。ガギンッ!と、鈍い金属音が響き渡る。
ゴブリンの渾身の一撃は、巨大な盾に阻まれ、逆にその衝撃で棍棒を取り落とし、手を痺れさせていた。
「……ん?」
少女は、振り返って何が起きたのかを確認すると、不思議そうに首を傾げた。
その光景に、俺も、他のゴブリンたちも、動きを止めて呆然としていた。
……なんだ、今の動きは。
彼女は、俺が助けるまでもなく、自分の身を、いとも簡単に守って見せた。ゴブリンの棍棒の一撃を、びくともせずに弾き返した。その防御力は、異常だ。
目の前の状況を瞬時に分析する。
俺には、敵を倒す攻撃力がある。そして、彼女には、少なくともゴブリンの物理攻撃をたやすく無効化する規格外の防御力がある。
もし、彼女があの防御を維持できるなら……俺は攻撃に専念できる。賭けだが、やる価値はあった。
「おい、そこの盾の嬢ちゃん! そのままゴブリンの気を引いてくれ! 俺が全部片付ける!」
「え? はい、わかりましたー」
俺の意図を理解しているのかいないのか、少女は素直に頷くと、巨大な盾を構え、その場に仁王立ちになった。
ゴブリンたちは、再び少女に狙いを定めるが、その攻撃は一切通用しない。まるで、巨大な岩を殴っているようなものだ。
そして、その隙を、俺が見逃すはずがなかった。
「今だ! ヒーローチョップ!」
俺は、少女の盾に気を取られているゴブリンたちの背後から、一体ずつ、確実に打撃を叩き込んでいく。
攻撃役と、防御役。図らずして生まれた、完璧なコンビネーションだった。
数分後、三匹のゴブリンは、全て俺の足元に伸びていた。
俺は変身を解き、元の青年の姿に戻る。
「ふぅ……助かった。ありがとう。俺はジンだ。君は?」
「いえいえー。私はマールですー。それより、このキノコ、食べられますかね?」
マールと名乗った少女の関心は、最後まで食材にしかなかった。
俺は、この、底の知れない防御力を持つ、食いしん坊の少女に、仲間になってほしいと思った。
彼女がいれば、俺のヒーロー活動は、もっと安定し、もっと華麗になるはずだ。
こうして、俺は、理想のヒーローになるための、最初の「仲間」というピースを手に入れた。
鉄壁の守りを誇る、慈愛の戦士――イエロー。
……よし! これで、『アーク戦隊』の最初のメンバーが決まった!
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