異世界ヒーローレッド! ……の俺が、なぜか、魔王の力で、無双する ~でも、俺が作りたいのは最強のヒーロー戦隊です~

ひより那

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=== 001 目指せ! ヒーロー戦隊 ===

第7話 ヒーロー、弱点と向き合う

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 冒険者ギルドに、俺たちの凱旋はちょっとした衝撃をもって迎えられた。
 カウンターに【ゴブリン・チャンピオン】の首を置いた瞬間、ルナさんは気だるげな目をわずかに見開き、周囲で酒を飲んでいた冒険者たちからは、驚きと疑いの入り混じったざわめきが起こった。

「おい、マジかよ……新人のガキどもが、ゴブリンの巣を潰したってのか?」
「あの盾女、ただの食いしん坊じゃなかったんだな……」

 突き刺さるような視線。俺はそれを、ヒーローとして世間に認知され始めた証拠だと、内心でポジティブに受け止めた。プロデューサーとして、この注目度は悪くない。

「約束の報酬です。Eランク任務達成、おめでとうございます」

 ルナさんから渡された革袋はずしりと重く、俺の懐を温かく満たした。タンポポはそれを見るや否や、目を輝かせて俺の袖を引く。

「ジンさん、ジンさん! 祝勝会です! ギルドの食堂で、一番高いお肉が食べたいですー!」
「ああ、分かった分かった。今日の功労者だからな、好きにするといい」

 こうして、俺たちはギルド併設の食堂で、盛大な祝勝会を開くことになった。

 テーブルの上には、山のような肉料理とパン。それを夢中で、幸せそうに頬張るタンポポ。その光景を微笑ましく眺めながら、俺は次のヒーロー活動について、思考を巡らせていた。

 その時だった。一人の少女が、俺たちのテーブルに近づいてきた。

 歳は、俺と同じくらいだろうか。仕立ての良い魔法使いのローブは、しかし、よく見ると所々が擦り切れ、丁寧に補修された跡がある。
 何より目を引くのは、その青みがかった美しい銀髪と、俺たちを値踏みするような、プライドの高そうな瞳だった。

「……あなたたちが、噂の新人ね。随分と羽振りがいいじゃない」

 彼女は、テーブルの上の料理を一瞥すると、皮肉のこもった声で言った。

「まぐれ当たりで手に入れたお金で浮かれていると、あっという間に一文無しになるわよ。忠告してあげる」

 突然の嫌味に、俺は面食らって言葉を失う。彼女はそれだけ言うと、ふん、と鼻を鳴らし、カウンターの方へと去っていった。

 一体、何だったんだ……。

 ◆

 翌日、俺は次の活躍の舞台を探しに、再び依頼ボードの前に立っていた。

 Eランクの依頼をこなしたことで、俺たちの評価は少し上がったらしい。いくつかの新しい依頼が、俺の目に留まった。その中で、特に俺のプロデューサー魂をくすぐるものがあった。

 ――古い地下水路に大量発生した【廃水スライム】の討伐――

 スライム。大量発生。ヒーローが悪を一掃する、見栄えのいい絵が目に浮かぶ。物理的な脅威も少ないだろう。これこそ、アークレッドの次なるステージにふさわしい。

「よし、これにしよう」

 俺は、安易な考えでその依頼書を手に取った。

 地下水路は、街の地下に広がる、ジメジメとした迷路だった。
 しばらく進むと、俺たちはおびただしい数の半透明なスライムに遭遇した。アークレッドに変身した俺は、タンポポを下がらせ、完成したばかりの必殺技を放つべく、右拳に力を込めた。

「悪党ども、まとめて掃除してやる! くらえ! アーク・インパクト!」

 渾身の一撃が、スライムの群れのど真ん中に叩き込まれる。

 しかし―――― 手応えが……ない。

 殴られたスライムは、ぷるん、とゼリーのように揺れただけで、すぐに元の形に戻ってしまった。ダメージを受けている様子は、全くない。殴っても、蹴っても、結果は同じ。俺の物理攻撃は、完全に無効化されていた。

「なっ……!?」

 手詰まりだった。タンポポの盾は攻撃を防げるが、スライムがべったりと張り付いてくるだけで、状況は悪化する一方だ。じりじりと、俺たちはスライムの群れに包囲されていく。

 まずい。プロデューサーとして、最悪の采配ミスだ……!

 俺は、一瞬、腰のベルトに意識を向けた。
 あの禍々しい漆黒のUSB――【魔王】の力。あれを使えば、この状況を打破することなど容易い。だが、あの【暗黒雷帝撃】をこんな場所で使えば、この脆弱な地下水路は間違いなく崩落する。ヒーローが、人助けの依頼で、街のインフラを破壊してどうする! それは、俺の美学に反する……!

 俺が、その選択肢を自ら封じ、絶望に打ちひしがれかけた、その時だった。

「――だから言わんこっちゃない。脳筋が、何も考えずに突っ込むからそうなるのよ」

 地下水路の入り口から、呆れたような声が響いた。
 そこに立っていたのは、昨日の、青い髪の少女だった。

「見てられないわね。まあ、これも将来への投資よ。少しだけ、手本を見せてあげる」

 彼女は、懐から古びた一本の杖を取り出すと、面倒くさそうに呪文を唱えた。

「燃えなさい、【小火球《リトル・ファイアボール》】」

 彼女の手から放たれたのは、拳ほどの小さな火の玉だった。俺が「あんなもので……」と侮った瞬間、火の玉はスライムの一体に着弾し、ジュッ!という音と共に、それを蒸発させて消滅させた。

 魔法。それも、弱点属性である火の魔法が、この状況を打破する唯一の鍵だったのだ。

 彼女は、たった一体を倒すと、「ふぅ、魔力の無駄遣いだわ」と、すぐに杖を下ろしてしまった。

 そして、俺に向き直ると、ふん、と胸を張って言った。

「どう? この状況を打破できるのは、私の魔法だけ。あなたたちには、それが無いの。……利害は、一致したわよね?」

 彼女は、わざと尊大な態度で、しかし、どこか不安げに、視線を泳がせながら続けた。

「い、言っておくけど、私の魔法は安売りしないわ! 専門家を雇うのには、それ相応の対価が必要なの! そ、そうね……この依頼が終わるまで協力してあげるから、その代わり……」

 彼女は、ごくりと唾を飲み込むと、意を決したように、しかし、か細い声で、その要求を口にした。

「……こ、今回の滞在中の、宿代と、食事代くらいは……出してもらえると、助かる、かな……なんて……」

 その要求は、あまりに、卑屈だった。
 俺は、目の前の、プライドと現実の狭間で揺れる、この不器用な魔法使いを見て、思わず呆気に取られていた。
 そんな俺たちの横で、タンポポが「燃えたスライムは、食べられますかね?」と、見当違いな質問を呟いていた。

 ……思い知らされた。ただ力が強いだけでは、ヒーローにはなれない。
 俺は、この、三人目の仲間になるであろう少女と、新たな課題を前に、静かに決意を固めていた。
 どんな相手が現れても、人々を守れるように。もっと多彩で、もっと戦略的なスキルを手に入れる。俺の本当の冒険は、ここから始まるのだ。
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