16 / 39
=== 001 目指せ! ヒーロー戦隊 ===
第16話 ヒーロー、大失敗する
しおりを挟む
虚ろな瞳が、俺を捉える。
俺の、ヒーローとしてのスカウト宣言を受けた神官モモ。彼女は数秒間、じっと俺の顔を値踏みするように見つめた後、心底面倒くさそうに、そして、むっとするほど酒臭い息で、こう言った。
「……あぁ? せんたい? ヒロイン? 寝言は寝てから言いな、坊や」
それだけ言うと、彼女は俺に興味を失い、カウンターに向かって声を張った。
「マスター、安いやつ、もう一本」
完全な、無視。だが、ここで諦める俺ではない。この程度の塩対応は、プロデュースの現場では日常茶飯事だ。俺は彼女の正面の席にどっかりと腰を下ろすと、渾身のプレゼンテーションを開始した。
「君は、まだ自分の真の価値に気づいていない! 我々『アーク戦隊』は、世界の平和を守る崇高な使命を帯びている! その重要な一員、慈愛を司る“アークピンク”として、君を迎え入れたいんだ!」
身振り手振りを交え、情熱的に語る俺。その後方のテーブルでは、アオイが両手で顔を覆って天を仰ぎ、タンポポは追加で注文したおつまみのサラミを、幸せそうに頬張っていた。
俺の熱弁を聞き終えても、モモの表情は変わらない。彼女は、新しく運ばれてきた酒を、なみなみとグラスに注ぎながら、氷のように冷たい声で言い放った。
「……チームの絆? 世界の平和? 正義? くだらない。そんな青臭い理想で、お腹は膨れないのよ」
俺の言葉が、彼女の古傷に触れたらしい。彼女の瞳から、酔いの気配が消え、代わりに、深く、冷え切った光が宿る。
「仲間、ね。私も昔は信じていたわ。でも、結局どうなったと思う? ヒーラーなんて、パーティにとっては便利な道具なのよ。報酬は他のメンバーが多く取り、危険な回復作業は全て押し付けられる。体と心がすり減って、ボロボロになった頃には、用済みでポイよ。それが、あなたたちが言う『仲間』の正体」
その言葉には、経験した者だけが持つ、重い実感がこもっていた。
「だから、もうやめたの」と彼女は続ける。「誰かのために、なんて馬鹿げた理想のために、自分をすり減らすのは。『完璧に公平な契約』が結ばれた時だけ。事前に、仕事内容、稼働時間、危険度、報酬、その全てを条文に起こし、一言一句違わぬ履行が約束されるのなら、考えてあげなくもないわ。……でも、今の私は、完全にオフなの。だから、邪魔しないでくれる?」
その、あまりに頑なな拒絶に、俺は言葉を失った。
それでも、俺は「俺たちのチームは違う!」と理想論で食い下がったが、「夢見るお坊ちゃんは、早くおうちに帰りなさい」と、子供をあやすようにあしらわれるだけだった。
アオイが「話は分かったわ。なら、あなたを正式な契約に基づいて雇用する、という形で……」と現実的な提案を試みても、「生憎だけど、今日の分の仕事はもう終わったの」と、取り付く島もない。
タンポポが「これをあげますから、仲間になりましょう!」と差し出した干し肉も、彼女は無表情で見つめるだけだった。
あらゆるアプローチが通用せず、俺たちの最初のスカウト交渉は、完全な失敗に終わった。俺たちは、すごすごと酒場を後にするしかなかった。
酒場の外で、アオイが深い溜息をついた。
「……ダメね、あれは。心が、完全に壁を作ってしまっているわ」
だが、俺は落ち込むどころか、逆に、プロデューサーとしての新たな炎を燃やしていた。
(そうか、そういうことか! 彼女の心を縛っているのは、過去のトラウマそのもの! ならば、俺がやるべきことは一つ! 直接スカウトするのではなく、彼女のトラウマの原因を取り除き、ヒーローとして救い出すことで、彼女の心を解放する!)
俺は、アオイに向き直った。
「アオイ! 彼女が昔いたっていう、そのパーティの名前を教えてくれ。そいつらが、今どこで何をしているか、調べるぞ!」
「……本気で言ってるの?」
俺の、あまりに突飛な作戦に、アオイは心底呆れかえった顔を見せた。だが、俺の目は、すでに次なるステージを見据えている。
ヒロインの過去との決着。それこそが、彼女を真の仲間として迎え入れるための、最高のシナリオなのだから。
俺の、ヒーローとしてのスカウト宣言を受けた神官モモ。彼女は数秒間、じっと俺の顔を値踏みするように見つめた後、心底面倒くさそうに、そして、むっとするほど酒臭い息で、こう言った。
「……あぁ? せんたい? ヒロイン? 寝言は寝てから言いな、坊や」
それだけ言うと、彼女は俺に興味を失い、カウンターに向かって声を張った。
「マスター、安いやつ、もう一本」
完全な、無視。だが、ここで諦める俺ではない。この程度の塩対応は、プロデュースの現場では日常茶飯事だ。俺は彼女の正面の席にどっかりと腰を下ろすと、渾身のプレゼンテーションを開始した。
「君は、まだ自分の真の価値に気づいていない! 我々『アーク戦隊』は、世界の平和を守る崇高な使命を帯びている! その重要な一員、慈愛を司る“アークピンク”として、君を迎え入れたいんだ!」
身振り手振りを交え、情熱的に語る俺。その後方のテーブルでは、アオイが両手で顔を覆って天を仰ぎ、タンポポは追加で注文したおつまみのサラミを、幸せそうに頬張っていた。
俺の熱弁を聞き終えても、モモの表情は変わらない。彼女は、新しく運ばれてきた酒を、なみなみとグラスに注ぎながら、氷のように冷たい声で言い放った。
「……チームの絆? 世界の平和? 正義? くだらない。そんな青臭い理想で、お腹は膨れないのよ」
俺の言葉が、彼女の古傷に触れたらしい。彼女の瞳から、酔いの気配が消え、代わりに、深く、冷え切った光が宿る。
「仲間、ね。私も昔は信じていたわ。でも、結局どうなったと思う? ヒーラーなんて、パーティにとっては便利な道具なのよ。報酬は他のメンバーが多く取り、危険な回復作業は全て押し付けられる。体と心がすり減って、ボロボロになった頃には、用済みでポイよ。それが、あなたたちが言う『仲間』の正体」
その言葉には、経験した者だけが持つ、重い実感がこもっていた。
「だから、もうやめたの」と彼女は続ける。「誰かのために、なんて馬鹿げた理想のために、自分をすり減らすのは。『完璧に公平な契約』が結ばれた時だけ。事前に、仕事内容、稼働時間、危険度、報酬、その全てを条文に起こし、一言一句違わぬ履行が約束されるのなら、考えてあげなくもないわ。……でも、今の私は、完全にオフなの。だから、邪魔しないでくれる?」
その、あまりに頑なな拒絶に、俺は言葉を失った。
それでも、俺は「俺たちのチームは違う!」と理想論で食い下がったが、「夢見るお坊ちゃんは、早くおうちに帰りなさい」と、子供をあやすようにあしらわれるだけだった。
アオイが「話は分かったわ。なら、あなたを正式な契約に基づいて雇用する、という形で……」と現実的な提案を試みても、「生憎だけど、今日の分の仕事はもう終わったの」と、取り付く島もない。
タンポポが「これをあげますから、仲間になりましょう!」と差し出した干し肉も、彼女は無表情で見つめるだけだった。
あらゆるアプローチが通用せず、俺たちの最初のスカウト交渉は、完全な失敗に終わった。俺たちは、すごすごと酒場を後にするしかなかった。
酒場の外で、アオイが深い溜息をついた。
「……ダメね、あれは。心が、完全に壁を作ってしまっているわ」
だが、俺は落ち込むどころか、逆に、プロデューサーとしての新たな炎を燃やしていた。
(そうか、そういうことか! 彼女の心を縛っているのは、過去のトラウマそのもの! ならば、俺がやるべきことは一つ! 直接スカウトするのではなく、彼女のトラウマの原因を取り除き、ヒーローとして救い出すことで、彼女の心を解放する!)
俺は、アオイに向き直った。
「アオイ! 彼女が昔いたっていう、そのパーティの名前を教えてくれ。そいつらが、今どこで何をしているか、調べるぞ!」
「……本気で言ってるの?」
俺の、あまりに突飛な作戦に、アオイは心底呆れかえった顔を見せた。だが、俺の目は、すでに次なるステージを見据えている。
ヒロインの過去との決着。それこそが、彼女を真の仲間として迎え入れるための、最高のシナリオなのだから。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる