23 / 39
=== 002 目指せ、戦隊の基地と支える博士 ===
第23話 ヒーロー、最初の挫折
しおりを挟む
美食家の商人から得た「時計塔が売りに出されている」という、思わぬ情報。虹色カボチャのパイの甘い余韻に浸っていた俺たちの間に、再び、新たな目標という熱が灯った。
宿屋に戻るなり、俺は高らかに宣言した。
「聞いたか、諸君! 基地探しの、絶好の手掛かりだ! ついに、我々アーク戦隊の正義の要塞、『アークタワー』を手に入れる時が来た!」
俺は、すでに脳内で完璧な基地の設計図を描き上げ、仲間たちを連れて、意気揚々とギルドの「資産管理部」へと向かった。そこは、冒険者たちの熱気とは無縁の、静かで、お役所的な空気が漂う場所だった。
対応してくれた職員――レグレスと名乗った、神経質そうな男は、俺たちがDランクだと知ると、少しだけ、その細い目で見下すような視線を向けた。
「ええ、確かに、あの時計塔は現在、ギルドの管理物件として売りに出されております。ですが……購入希望ですか? あなた方のような、若輩のパーティが?」
その、いかにもな態度に、俺が反論しようとした時だった。
「おやおや、これは、近頃、名を上げているという『アーク戦隊』さんじゃないですか」
嫌味な笑いと共に現れたのは、アクド商会の男、バレットだった。彼は、俺たちを一瞥すると、レグレスに、これ見よがしに金貨の詰まった袋を見せつけた。
「ひよっこには、分不相応な物件だと思いますがねぇ? 私の商会が、即金で買い取って差し上げますよ」
レグレスから提示された時計塔の価格は、バレットの言う通り、俺たちの全財産を投げ打っても、まだ全く足りないほどの金額だった。
「なっ……! だが、俺たちは、あの事件を解決したヒーローだぞ! 今後の活躍を担保に、ローンは組めないのか!」
「前例がありませんね」と、レグレスはにべもない。
俺が、さらに食い下がろうとした、その時だった。
「――いい加減、目を覚ましなさい」
今まで黙って話を聞いていたアオイが、俺の前に立ちはだかった。彼女は、懐から一枚の羊皮紙を取り出すと、驚くべき速さで、そこに数字を書き出していく。
「仮に、奇跡的にこのお金が払えたとして、その後はどうするの? あの塔はボロボロよ。壁の修繕費、窓の交換費用、そして、あの忌まわしい魔力汚染を完全に浄化するための費用。家具や、私たちの生活必需品を揃えるお金も必要だわ。そして何より、今後の維持費……!」
彼女が、俺の眼前に突きつけた羊皮紙には、収入の欄に、俺たちのけなげな報酬額。そして、支出の欄に、天文学的な数字の羅列が、無慈悲に並んでいた。
「――私たち、一瞬で破産するわ」
アオイの「経済的な正論」に、俺はぐうの音も出なかった。さらに、モモが静かに、しかし、きっぱりと口を開く。
「契約の観点から見ても、今回の購入は、リスクとリターンが全く釣り合っていないわ。パーティを破滅させる可能性のある契約に、私は同意できません」
モモの「契約上の正論」。二つの、あまりに正しい言葉が、俺の夢を、現実の壁に叩きつけて、粉々に砕いた。
◆
「残念でしたな、英雄様!」
バレットの嘲笑を背に、俺たちは、すごすごと資産管理部を後にした。
時計塔の購入は、完全な失敗に終わった。それは、力や知恵ではどうにもならない、アーク戦隊にとって、初めての「敗北」であり、「挫折」だった。
宿屋に戻ると、部屋には、重く、気まずい空気が流れていた。
ジンを責める形になったアオイも、どこかバツが悪そうだ。彼女は、ぽつりと、俯きながら呟いた。
「……ごめんなさい。でも、私、知っているの。お金で、夢も、仲間も、全部ダメになる瞬間を……」
その声は、震えていた。その、重い空気を破ったのは、タンポポだった。
「みなさん、元気を出してください! さっき、市場でこっそり買っておいた、パンプキンパイの残りを、食べましょう!」
彼女が、太陽のような笑顔で差し出したパイを、俺たちは、黙って分け合った。その、ささやかな、しかし、心に染みる甘さが、少しだけ、俺たちの心を癒してくれた。
俺は、パイを頬張りながら、悔しさを飲み込み、顔を上げた。
「……分かった。今の俺たちには、まだ、自分たちの城は早すぎた、ということだ」
俺は、仲間たちの顔を、一人ずつ見回して、宣言した。
「ならば、やることは一つ! もっと依頼をこなし、金を稼ぎ、実績を積む! そして、いつか必ず、この手で、最高の基地を手に入れてやる! そのための、第一歩だ!」
俺の前向きな宣言に、仲間たちも、今度は、静かに、しかし、確かに頷いた。
こうして、アーク戦隊は、改めて、冒険者として地道に活動を再開することを決意する。俺たちは、再び、ギルドの依頼ボードの前に立つのだった。
宿屋に戻るなり、俺は高らかに宣言した。
「聞いたか、諸君! 基地探しの、絶好の手掛かりだ! ついに、我々アーク戦隊の正義の要塞、『アークタワー』を手に入れる時が来た!」
俺は、すでに脳内で完璧な基地の設計図を描き上げ、仲間たちを連れて、意気揚々とギルドの「資産管理部」へと向かった。そこは、冒険者たちの熱気とは無縁の、静かで、お役所的な空気が漂う場所だった。
対応してくれた職員――レグレスと名乗った、神経質そうな男は、俺たちがDランクだと知ると、少しだけ、その細い目で見下すような視線を向けた。
「ええ、確かに、あの時計塔は現在、ギルドの管理物件として売りに出されております。ですが……購入希望ですか? あなた方のような、若輩のパーティが?」
その、いかにもな態度に、俺が反論しようとした時だった。
「おやおや、これは、近頃、名を上げているという『アーク戦隊』さんじゃないですか」
嫌味な笑いと共に現れたのは、アクド商会の男、バレットだった。彼は、俺たちを一瞥すると、レグレスに、これ見よがしに金貨の詰まった袋を見せつけた。
「ひよっこには、分不相応な物件だと思いますがねぇ? 私の商会が、即金で買い取って差し上げますよ」
レグレスから提示された時計塔の価格は、バレットの言う通り、俺たちの全財産を投げ打っても、まだ全く足りないほどの金額だった。
「なっ……! だが、俺たちは、あの事件を解決したヒーローだぞ! 今後の活躍を担保に、ローンは組めないのか!」
「前例がありませんね」と、レグレスはにべもない。
俺が、さらに食い下がろうとした、その時だった。
「――いい加減、目を覚ましなさい」
今まで黙って話を聞いていたアオイが、俺の前に立ちはだかった。彼女は、懐から一枚の羊皮紙を取り出すと、驚くべき速さで、そこに数字を書き出していく。
「仮に、奇跡的にこのお金が払えたとして、その後はどうするの? あの塔はボロボロよ。壁の修繕費、窓の交換費用、そして、あの忌まわしい魔力汚染を完全に浄化するための費用。家具や、私たちの生活必需品を揃えるお金も必要だわ。そして何より、今後の維持費……!」
彼女が、俺の眼前に突きつけた羊皮紙には、収入の欄に、俺たちのけなげな報酬額。そして、支出の欄に、天文学的な数字の羅列が、無慈悲に並んでいた。
「――私たち、一瞬で破産するわ」
アオイの「経済的な正論」に、俺はぐうの音も出なかった。さらに、モモが静かに、しかし、きっぱりと口を開く。
「契約の観点から見ても、今回の購入は、リスクとリターンが全く釣り合っていないわ。パーティを破滅させる可能性のある契約に、私は同意できません」
モモの「契約上の正論」。二つの、あまりに正しい言葉が、俺の夢を、現実の壁に叩きつけて、粉々に砕いた。
◆
「残念でしたな、英雄様!」
バレットの嘲笑を背に、俺たちは、すごすごと資産管理部を後にした。
時計塔の購入は、完全な失敗に終わった。それは、力や知恵ではどうにもならない、アーク戦隊にとって、初めての「敗北」であり、「挫折」だった。
宿屋に戻ると、部屋には、重く、気まずい空気が流れていた。
ジンを責める形になったアオイも、どこかバツが悪そうだ。彼女は、ぽつりと、俯きながら呟いた。
「……ごめんなさい。でも、私、知っているの。お金で、夢も、仲間も、全部ダメになる瞬間を……」
その声は、震えていた。その、重い空気を破ったのは、タンポポだった。
「みなさん、元気を出してください! さっき、市場でこっそり買っておいた、パンプキンパイの残りを、食べましょう!」
彼女が、太陽のような笑顔で差し出したパイを、俺たちは、黙って分け合った。その、ささやかな、しかし、心に染みる甘さが、少しだけ、俺たちの心を癒してくれた。
俺は、パイを頬張りながら、悔しさを飲み込み、顔を上げた。
「……分かった。今の俺たちには、まだ、自分たちの城は早すぎた、ということだ」
俺は、仲間たちの顔を、一人ずつ見回して、宣言した。
「ならば、やることは一つ! もっと依頼をこなし、金を稼ぎ、実績を積む! そして、いつか必ず、この手で、最高の基地を手に入れてやる! そのための、第一歩だ!」
俺の前向きな宣言に、仲間たちも、今度は、静かに、しかし、確かに頷いた。
こうして、アーク戦隊は、改めて、冒険者として地道に活動を再開することを決意する。俺たちは、再び、ギルドの依頼ボードの前に立つのだった。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる