異世界ヒーローレッド! ……の俺が、なぜか、魔王の力で、無双する ~でも、俺が作りたいのは最強のヒーロー戦隊です~

ひより那

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=== 002 目指せ、戦隊の基地と支える博士 ===

第23話 ヒーロー、最初の挫折

 美食家の商人から得た「時計塔が売りに出されている」という、思わぬ情報。虹色カボチャのパイの甘い余韻に浸っていた俺たちの間に、再び、新たな目標という熱が灯った。

 宿屋に戻るなり、俺は高らかに宣言した。

「聞いたか、諸君! 基地探しの、絶好の手掛かりだ! ついに、我々アーク戦隊の正義の要塞、『アークタワー』を手に入れる時が来た!」

 俺は、すでに脳内で完璧な基地の設計図を描き上げ、仲間たちを連れて、意気揚々とギルドの「資産管理部」へと向かった。そこは、冒険者たちの熱気とは無縁の、静かで、お役所的な空気が漂う場所だった。

 対応してくれた職員――レグレスと名乗った、神経質そうな男は、俺たちがDランクだと知ると、少しだけ、その細い目で見下すような視線を向けた。

「ええ、確かに、あの時計塔は現在、ギルドの管理物件として売りに出されております。ですが……購入希望ですか? あなた方のような、若輩のパーティが?」

 その、いかにもな態度に、俺が反論しようとした時だった。

「おやおや、これは、近頃、名を上げているという『アーク戦隊』さんじゃないですか」

 嫌味な笑いと共に現れたのは、アクド商会の男、バレットだった。彼は、俺たちを一瞥すると、レグレスに、これ見よがしに金貨の詰まった袋を見せつけた。

「ひよっこには、分不相応な物件だと思いますがねぇ? 私の商会が、即金で買い取って差し上げますよ」

 レグレスから提示された時計塔の価格は、バレットの言う通り、俺たちの全財産を投げ打っても、まだ全く足りないほどの金額だった。

「なっ……! だが、俺たちは、あの事件を解決したヒーローだぞ! 今後の活躍を担保に、ローンは組めないのか!」
「前例がありませんね」と、レグレスはにべもない。

 俺が、さらに食い下がろうとした、その時だった。

「――いい加減、目を覚ましなさい」

 今まで黙って話を聞いていたアオイが、俺の前に立ちはだかった。彼女は、懐から一枚の羊皮紙を取り出すと、驚くべき速さで、そこに数字を書き出していく。

「仮に、奇跡的にこのお金が払えたとして、その後はどうするの? あの塔はボロボロよ。壁の修繕費、窓の交換費用、そして、あの忌まわしい魔力汚染を完全に浄化するための費用。家具や、私たちの生活必需品を揃えるお金も必要だわ。そして何より、今後の維持費……!」

 彼女が、俺の眼前に突きつけた羊皮紙には、収入の欄に、俺たちのけなげな報酬額。そして、支出の欄に、天文学的な数字の羅列が、無慈悲に並んでいた。

「――私たち、一瞬で破産するわ」

 アオイの「経済的な正論」に、俺はぐうの音も出なかった。さらに、モモが静かに、しかし、きっぱりと口を開く。

「契約の観点から見ても、今回の購入は、リスクとリターンが全く釣り合っていないわ。パーティを破滅させる可能性のある契約に、私は同意できません」

 モモの「契約上の正論」。二つの、あまりに正しい言葉が、俺の夢を、現実の壁に叩きつけて、粉々に砕いた。

 ◆

「残念でしたな、英雄様!」

 バレットの嘲笑を背に、俺たちは、すごすごと資産管理部を後にした。
 時計塔の購入は、完全な失敗に終わった。それは、力や知恵ではどうにもならない、アーク戦隊にとって、初めての「敗北」であり、「挫折」だった。

 宿屋に戻ると、部屋には、重く、気まずい空気が流れていた。
 ジンを責める形になったアオイも、どこかバツが悪そうだ。彼女は、ぽつりと、俯きながら呟いた。

「……ごめんなさい。でも、私、知っているの。お金で、夢も、仲間も、全部ダメになる瞬間を……」

 その声は、震えていた。その、重い空気を破ったのは、タンポポだった。

「みなさん、元気を出してください! さっき、市場でこっそり買っておいた、パンプキンパイの残りを、食べましょう!」

 彼女が、太陽のような笑顔で差し出したパイを、俺たちは、黙って分け合った。その、ささやかな、しかし、心に染みる甘さが、少しだけ、俺たちの心を癒してくれた。

 俺は、パイを頬張りながら、悔しさを飲み込み、顔を上げた。

「……分かった。今の俺たちには、まだ、自分たちの城は早すぎた、ということだ」

 俺は、仲間たちの顔を、一人ずつ見回して、宣言した。

「ならば、やることは一つ! もっと依頼をこなし、金を稼ぎ、実績を積む! そして、いつか必ず、この手で、最高の基地を手に入れてやる! そのための、第一歩だ!」

 俺の前向きな宣言に、仲間たちも、今度は、静かに、しかし、確かに頷いた。
 こうして、アーク戦隊は、改めて、冒険者として地道に活動を再開することを決意する。俺たちは、再び、ギルドの依頼ボードの前に立つのだった。
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