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=== 002 目指せ、戦隊の基地と支える博士 ===
第27話 ヒーロー、呪われし館を往く
ヴァイス家の屋敷に、俺たちは、正式な依頼人として足を踏み入れた。
重厚な扉が、俺たちの背後で、ギイ、と重い音を立てて閉まる。その瞬間、外の喧騒は完全に遮断され、淀んだ、墓場のような静寂が、俺たちを包み込んだ。
「……皆様、こちらへ。当主の寝室へ、ご案内いたします」
俺たちを出迎えた老執事――セバスチャンと名乗った――は、感情の読めない無表情のまま、長い廊下を歩き始めた。
屋敷の中は、埃っぽく、そして、どこか甘ったるい、カビの匂いがした。壁には、ヴァイス家の歴代当主たちの肖像画が、ずらりと並んでいる。その、どれもが、まるで俺たちを監視しているかのように、冷たい視線を投げかけているように見えた。床の軋む音が、やけに大きく響く。
「待って」
廊下の途中で、モモが、鋭く、しかし、小さな声で俺たちを制止した。
「……この床、罠があるわ」
彼女が指差した先は、一見、何でもない石畳の床にしか見えない。
「これは、踏んだ者の生命力を、気づかれぬうちに、少しずつ吸い取る、陰湿な呪いね。……ずいぶんと、悪趣味な仕掛けだこと」
彼女の専門家としての眼力に、セバスチャンが、初めて、その眉をわずかに動かした。彼の、俺たちに対する不信感が、少しだけ和らいだのが分かった。
やがて、俺たちは、巨大な両開きの扉の前へとたどり着いた。
「当主様のお部屋の準備をして参りますので、皆様は、こちらの図書室でお待ちください」
セバスチャンはそう言うと、俺たちを図書室へと通し、一人、廊下の奥へと消えていった。
「よし!」
扉が閉まるのを確認すると、俺は、仲間たちに向かって、調査の開始を宣言した。
「これこそ、敵の懐で、悪事の証拠を探る、絶好のチャンスだ!」
◆
図書室は、荒れ果ててはいたが、その広さと蔵書の量には、目を見張るものがあった。壁一面の本棚には、ヴァイス家が没落前に集めたであろう、貴重な書物が、埃をかぶって眠っている。
「手分けして、手掛かりを探すわよ」
アオイは、早速、ヴァイス家の「資産目録」や「取引記録」といった、金銭に関わる書類を探し始めた。モモは、「呪い」に関する、古い禁書や、民間伝承について書かれた書物の棚へと向かう。
「……なんだか、難しそうな本ばかりですねー」
タンポポは、そう言いながら、なぜか、古い「貴族の食卓」というレシピ本を見つけ出し、熱心に読みふけっていた。
俺は、書類仕事が苦手だ。だから、別の方法で、この部屋の「秘密」を探ることにした。
「スキル、【構造解析《ストラクチャー・アナリシス》】!」
スキルを発動させると、図書室全体の構造が、青いワイヤーフレームとなって、俺の脳内にスキャンされていく。壁、床、天井……材質、厚さ、構造……。
(ん? おかしいな。この、部屋の奥にある、巨大な暖炉の横の壁だけ、他の壁と、内部の密度が、ほんの僅かに違う……!)
俺は、一見、ただの本棚にしか見えない壁の前に立った。
「みんな、これを動かすのを手伝ってくれ! この裏に、何かある!」
俺の指摘を受け、四人で巨大な本棚を動かすと、その裏には、やはり、巧妙に隠された、鉄製の金庫が埋め込まれていた。
「……ビンゴね。でも、これは厄介だわ」
アオイが、その金庫を調べて、顔をしかめる。
「物理的な鍵だけじゃない。複雑な魔法錠もかかっている。これを無理に解けば、屋敷中に警報が鳴り響くわ」
だが、俺は、不敵に笑った。
「その必要はない」
俺は、再び【構造解析】を発動。今度は、その対象を、金庫の鍵の、内部構造に絞る。歯車や、ピンの動き、その全てが、俺の頭の中に、立体的な設計図として展開されていく。
そして、そのイメージを元に、俺は、自らの指先に神経を集中させる。これは、【構造解析】の応用技――対象の構造を完全に理解した上で、精密な操作を行う【精密操作《プレシジョン・コントロール》】だ。
カチリ、カチリ、と、俺がダイヤルを回していく。まるで、答えを知っているかのように、俺の指は、複雑なロックを、音もなく解錠してしまった。
金庫の中には、一冊の、分厚く、古びた「裏帳簿」があった。アオイが、そのページをめくり、息を呑む。
「……これ、間違いないわ。私が騙された、『古代魔道具への投資』の、全記録よ」
そこには、数十人の被害者から集めた莫大な資金が、ヴァイス家のものとして、克明に記録されていた。そして、その金の、ほぼ全額が、たった一つの項目に使われていた。
支出:『呪われし聖杯』の購入費用
「……まさか」と、アオイが、震える声で呟いた。「当主の呪いは、誰かにかけられたものじゃない。自分たちで、呪いのアイテムを、買ったっていうの……?」
投資詐欺と、当主の呪い。二つの事件が、ここで、一つの醜い真実として繋がった。俺たちが、その衝撃の事実に言葉を失っていると、図書室の扉が、静かに、軋みながら開いた。
セバスチャンが、俺たちを呼びに来たのだ。
「……皆様。主様の、準備が整いました」
俺たちは、裏帳簿を懐に隠し、セバスチャンの後について、屋敷の主階段を上っていく。階を上がるごとに、邪悪な呪いの気配が、肌を刺すように濃くなっていくのが分かった。
最上階、一番奥にある、重厚な扉の前で、セバスチャンは立ち止まる。
「……主様は、この中に」
彼が、ゆっくりと扉を開ける。その瞬間、淀んだ、冷たい魔力の風が、中から吹き出してきた。
部屋の奥、天蓋付きの巨大なベッドの上で、何かが、ぜえ、ぜえ、と、人間のものではない、苦しげな息を吐いているのが見えた。
俺たちアーク戦隊は、ついに、この館の呪いの根源と対峙した。
重厚な扉が、俺たちの背後で、ギイ、と重い音を立てて閉まる。その瞬間、外の喧騒は完全に遮断され、淀んだ、墓場のような静寂が、俺たちを包み込んだ。
「……皆様、こちらへ。当主の寝室へ、ご案内いたします」
俺たちを出迎えた老執事――セバスチャンと名乗った――は、感情の読めない無表情のまま、長い廊下を歩き始めた。
屋敷の中は、埃っぽく、そして、どこか甘ったるい、カビの匂いがした。壁には、ヴァイス家の歴代当主たちの肖像画が、ずらりと並んでいる。その、どれもが、まるで俺たちを監視しているかのように、冷たい視線を投げかけているように見えた。床の軋む音が、やけに大きく響く。
「待って」
廊下の途中で、モモが、鋭く、しかし、小さな声で俺たちを制止した。
「……この床、罠があるわ」
彼女が指差した先は、一見、何でもない石畳の床にしか見えない。
「これは、踏んだ者の生命力を、気づかれぬうちに、少しずつ吸い取る、陰湿な呪いね。……ずいぶんと、悪趣味な仕掛けだこと」
彼女の専門家としての眼力に、セバスチャンが、初めて、その眉をわずかに動かした。彼の、俺たちに対する不信感が、少しだけ和らいだのが分かった。
やがて、俺たちは、巨大な両開きの扉の前へとたどり着いた。
「当主様のお部屋の準備をして参りますので、皆様は、こちらの図書室でお待ちください」
セバスチャンはそう言うと、俺たちを図書室へと通し、一人、廊下の奥へと消えていった。
「よし!」
扉が閉まるのを確認すると、俺は、仲間たちに向かって、調査の開始を宣言した。
「これこそ、敵の懐で、悪事の証拠を探る、絶好のチャンスだ!」
◆
図書室は、荒れ果ててはいたが、その広さと蔵書の量には、目を見張るものがあった。壁一面の本棚には、ヴァイス家が没落前に集めたであろう、貴重な書物が、埃をかぶって眠っている。
「手分けして、手掛かりを探すわよ」
アオイは、早速、ヴァイス家の「資産目録」や「取引記録」といった、金銭に関わる書類を探し始めた。モモは、「呪い」に関する、古い禁書や、民間伝承について書かれた書物の棚へと向かう。
「……なんだか、難しそうな本ばかりですねー」
タンポポは、そう言いながら、なぜか、古い「貴族の食卓」というレシピ本を見つけ出し、熱心に読みふけっていた。
俺は、書類仕事が苦手だ。だから、別の方法で、この部屋の「秘密」を探ることにした。
「スキル、【構造解析《ストラクチャー・アナリシス》】!」
スキルを発動させると、図書室全体の構造が、青いワイヤーフレームとなって、俺の脳内にスキャンされていく。壁、床、天井……材質、厚さ、構造……。
(ん? おかしいな。この、部屋の奥にある、巨大な暖炉の横の壁だけ、他の壁と、内部の密度が、ほんの僅かに違う……!)
俺は、一見、ただの本棚にしか見えない壁の前に立った。
「みんな、これを動かすのを手伝ってくれ! この裏に、何かある!」
俺の指摘を受け、四人で巨大な本棚を動かすと、その裏には、やはり、巧妙に隠された、鉄製の金庫が埋め込まれていた。
「……ビンゴね。でも、これは厄介だわ」
アオイが、その金庫を調べて、顔をしかめる。
「物理的な鍵だけじゃない。複雑な魔法錠もかかっている。これを無理に解けば、屋敷中に警報が鳴り響くわ」
だが、俺は、不敵に笑った。
「その必要はない」
俺は、再び【構造解析】を発動。今度は、その対象を、金庫の鍵の、内部構造に絞る。歯車や、ピンの動き、その全てが、俺の頭の中に、立体的な設計図として展開されていく。
そして、そのイメージを元に、俺は、自らの指先に神経を集中させる。これは、【構造解析】の応用技――対象の構造を完全に理解した上で、精密な操作を行う【精密操作《プレシジョン・コントロール》】だ。
カチリ、カチリ、と、俺がダイヤルを回していく。まるで、答えを知っているかのように、俺の指は、複雑なロックを、音もなく解錠してしまった。
金庫の中には、一冊の、分厚く、古びた「裏帳簿」があった。アオイが、そのページをめくり、息を呑む。
「……これ、間違いないわ。私が騙された、『古代魔道具への投資』の、全記録よ」
そこには、数十人の被害者から集めた莫大な資金が、ヴァイス家のものとして、克明に記録されていた。そして、その金の、ほぼ全額が、たった一つの項目に使われていた。
支出:『呪われし聖杯』の購入費用
「……まさか」と、アオイが、震える声で呟いた。「当主の呪いは、誰かにかけられたものじゃない。自分たちで、呪いのアイテムを、買ったっていうの……?」
投資詐欺と、当主の呪い。二つの事件が、ここで、一つの醜い真実として繋がった。俺たちが、その衝撃の事実に言葉を失っていると、図書室の扉が、静かに、軋みながら開いた。
セバスチャンが、俺たちを呼びに来たのだ。
「……皆様。主様の、準備が整いました」
俺たちは、裏帳簿を懐に隠し、セバスチャンの後について、屋敷の主階段を上っていく。階を上がるごとに、邪悪な呪いの気配が、肌を刺すように濃くなっていくのが分かった。
最上階、一番奥にある、重厚な扉の前で、セバスチャンは立ち止まる。
「……主様は、この中に」
彼が、ゆっくりと扉を開ける。その瞬間、淀んだ、冷たい魔力の風が、中から吹き出してきた。
部屋の奥、天蓋付きの巨大なベッドの上で、何かが、ぜえ、ぜえ、と、人間のものではない、苦しげな息を吐いているのが見えた。
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