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=== 002 目指せ、戦隊の基地と支える博士 ===
第32話 ヒーロー、諦観の街に立つ
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数日間の旅路の果て、俺たちは、ついにその街の門にたどり着いた。
「諦観の街、テネブラ……」
アオイが、地図と照らし合わせながら、その名を呟く。
しかし、俺たちの目の前に広がる光景は、その陰鬱な名前とは、あまりにかけ離れていた。
街は、清潔で、高い城壁に守られている。城壁の上や、門の両脇に立つ衛兵たちは、屈強ではあるが、その口元には、常に穏やかな笑みを浮かべていた。
「ようこそ、旅の方々。テネブラへ」
俺が、Cランクの冒険者であることと、街を脅かすという山の魔物の調査に来たことを告げると、衛兵は、にこやかな表情を一切崩さずに、ゆっくりと首を横に振った。
「おやおや、それはご心配には及びません。我々の街は、山の『守り神』様との、古くからの契約によって、常に平和が保たれておりますので。あなた方のような、冒険者様のお力をお借りするようなことは、何一つございませんよ」
その、丁寧で、しかし、有無を言わせぬ拒絶。
「ですが、俺たちは、ギルドから正式な依頼を受けて……」
「存じております。ですが、それはギルドの早とちりというもの。どうか、お気になさらず。さあ、長旅でお疲れでしょう。街で、ゆっくりと羽を伸ばしていってください。……この街の『平和』を、乱さない限りは、ですが」
最後の言葉にだけ、かすかな棘を感じた。俺たちは、一触即発の空気になるのを避け、ひとまず、その門をくぐることにした。
街の中は、俺の想像を、さらに裏切っていた。道行く人々は、皆、笑顔だった。すれ違うたびに、「こんにちは」「良いお天気ですわね」と、気さくに声をかけてくる。
道端では、子供たちの、楽しそうな笑い声さえ聞こえる。清潔な石畳、手入れの行き届いた花壇、活気のある市場。どこからどう見ても、それは、理想的な、平和で、明るい街そのものだった。
だが……。
(なんだ、この街は……? おかしい。あまりに、完璧すぎる)
俺のプロデューサーとしての直感が、警鐘を鳴らしていた。この街の「平和」は、まるで、完璧な脚本に沿って、全ての住民が、必死に「幸福な市民」を演じているかのような、薄っぺらで、歪なものに感じられた。
笑顔の裏に、誰もが、お互いを監視しあっているような、冷たい緊張感が漂っている。
俺たちは、街の中心にある広場へとたどり着いた。そこには、ひときわ立派な、小さな神殿のような建物があった。人々が、一人、また一人と、その建物に入っていき、何かを紙に書き、厳粛な、しかし、どこか晴れやかな表情で、祭壇の箱に投函していく。
「……祈りを、捧げているのか?」
「違うわ」と、アオイが、戦慄と共に呟いた。「あれは……次の『生贄』を選ぶための、投票所よ」
モモも、険しい顔で続ける。「神聖な儀式の形を取りながら、行われていることは、ただの……多数決による、排斥行為。なんて、おぞましい……」
俺たちは、何人かの住民に、山の魔物や、生贄の儀式について、直接話を聞こうと試みた。
しかし、誰もが、笑顔の仮面を貼り付けたまま、同じ言葉を繰り返すだけだった。
「さあ? 私には、難しいことは分かりませんで」
「守り神様のおかげで、私たちは、こうして平和に暮らしているのです。感謝しかありませんわ」
誰も、本音を語らない。この街の真実は、厚い善意の壁の向こうに、固く閉ざされていた。
調査が行き詰まり、途方に暮れていた、その時だった。
市場で果物を選んでいるふりをしていると、背後から、しわがれた、小さな声が聞こえた。
「……もし、本当に、この街の真実を知りたいのであれば」
振り返ると、そこにいたのは、一人の小柄な老婆だった。彼女は、誰にも気づかれぬよう、俺たちにだけ分かるように、視線で、裏路地へと来るように合図した。
彼女は、エラーラと名乗った。長年、この街の図書館の司書を務めていたという。
彼女の家へと密かに招き入れられた俺たちは、そこで、この街の、本当の歴史を聞かされることになった。
数百年前、人々が生贄を絶やした時、山の魔物は、街を一つ、跡形もなく滅ぼしたこと。それ以来、三ヶ月に一度の生贄は、決して絶やしてはならない、街の絶対のルールとなったこと。
そして、「投票」というシステムが、いつしか、街の和を乱す者や、嫌われ者を、合法的に排除するための、住民同士の「魔女狩り」へと、変質してしまったこと。
「誰もが、自分が選ばれぬよう、隣人よりも『善良な市民』であろうと、必死なのじゃよ。その結果が、この、偽りの笑顔に満ちた、息の詰まる街なのさ」
エラーラは、最後に、絶望的な事実を告げた。
「……そして、『投票』は、終わったばかりじゃ。一人の少女が、次の生贄として、選ばれてしもうた」
「なんだと!?」
「儀式が行われるのは、一週間後。その日まで、少女は、街の教会の地下牢に、幽閉されることになっておる……」
一週間。それが、一人の少女の命の、そして、俺たちが行動できる、残された時間だった。
ただの調査依頼が、人質を救うための、時間との戦いへと変わったのだ。
俺は、固く、拳を握りしめた。
(ヒーローは、決して、タイムリミットに負けはしない……!)
諦観の街テネブラで、アーク戦隊の、本当の戦いが、始まろうとしていた。
「諦観の街、テネブラ……」
アオイが、地図と照らし合わせながら、その名を呟く。
しかし、俺たちの目の前に広がる光景は、その陰鬱な名前とは、あまりにかけ離れていた。
街は、清潔で、高い城壁に守られている。城壁の上や、門の両脇に立つ衛兵たちは、屈強ではあるが、その口元には、常に穏やかな笑みを浮かべていた。
「ようこそ、旅の方々。テネブラへ」
俺が、Cランクの冒険者であることと、街を脅かすという山の魔物の調査に来たことを告げると、衛兵は、にこやかな表情を一切崩さずに、ゆっくりと首を横に振った。
「おやおや、それはご心配には及びません。我々の街は、山の『守り神』様との、古くからの契約によって、常に平和が保たれておりますので。あなた方のような、冒険者様のお力をお借りするようなことは、何一つございませんよ」
その、丁寧で、しかし、有無を言わせぬ拒絶。
「ですが、俺たちは、ギルドから正式な依頼を受けて……」
「存じております。ですが、それはギルドの早とちりというもの。どうか、お気になさらず。さあ、長旅でお疲れでしょう。街で、ゆっくりと羽を伸ばしていってください。……この街の『平和』を、乱さない限りは、ですが」
最後の言葉にだけ、かすかな棘を感じた。俺たちは、一触即発の空気になるのを避け、ひとまず、その門をくぐることにした。
街の中は、俺の想像を、さらに裏切っていた。道行く人々は、皆、笑顔だった。すれ違うたびに、「こんにちは」「良いお天気ですわね」と、気さくに声をかけてくる。
道端では、子供たちの、楽しそうな笑い声さえ聞こえる。清潔な石畳、手入れの行き届いた花壇、活気のある市場。どこからどう見ても、それは、理想的な、平和で、明るい街そのものだった。
だが……。
(なんだ、この街は……? おかしい。あまりに、完璧すぎる)
俺のプロデューサーとしての直感が、警鐘を鳴らしていた。この街の「平和」は、まるで、完璧な脚本に沿って、全ての住民が、必死に「幸福な市民」を演じているかのような、薄っぺらで、歪なものに感じられた。
笑顔の裏に、誰もが、お互いを監視しあっているような、冷たい緊張感が漂っている。
俺たちは、街の中心にある広場へとたどり着いた。そこには、ひときわ立派な、小さな神殿のような建物があった。人々が、一人、また一人と、その建物に入っていき、何かを紙に書き、厳粛な、しかし、どこか晴れやかな表情で、祭壇の箱に投函していく。
「……祈りを、捧げているのか?」
「違うわ」と、アオイが、戦慄と共に呟いた。「あれは……次の『生贄』を選ぶための、投票所よ」
モモも、険しい顔で続ける。「神聖な儀式の形を取りながら、行われていることは、ただの……多数決による、排斥行為。なんて、おぞましい……」
俺たちは、何人かの住民に、山の魔物や、生贄の儀式について、直接話を聞こうと試みた。
しかし、誰もが、笑顔の仮面を貼り付けたまま、同じ言葉を繰り返すだけだった。
「さあ? 私には、難しいことは分かりませんで」
「守り神様のおかげで、私たちは、こうして平和に暮らしているのです。感謝しかありませんわ」
誰も、本音を語らない。この街の真実は、厚い善意の壁の向こうに、固く閉ざされていた。
調査が行き詰まり、途方に暮れていた、その時だった。
市場で果物を選んでいるふりをしていると、背後から、しわがれた、小さな声が聞こえた。
「……もし、本当に、この街の真実を知りたいのであれば」
振り返ると、そこにいたのは、一人の小柄な老婆だった。彼女は、誰にも気づかれぬよう、俺たちにだけ分かるように、視線で、裏路地へと来るように合図した。
彼女は、エラーラと名乗った。長年、この街の図書館の司書を務めていたという。
彼女の家へと密かに招き入れられた俺たちは、そこで、この街の、本当の歴史を聞かされることになった。
数百年前、人々が生贄を絶やした時、山の魔物は、街を一つ、跡形もなく滅ぼしたこと。それ以来、三ヶ月に一度の生贄は、決して絶やしてはならない、街の絶対のルールとなったこと。
そして、「投票」というシステムが、いつしか、街の和を乱す者や、嫌われ者を、合法的に排除するための、住民同士の「魔女狩り」へと、変質してしまったこと。
「誰もが、自分が選ばれぬよう、隣人よりも『善良な市民』であろうと、必死なのじゃよ。その結果が、この、偽りの笑顔に満ちた、息の詰まる街なのさ」
エラーラは、最後に、絶望的な事実を告げた。
「……そして、『投票』は、終わったばかりじゃ。一人の少女が、次の生贄として、選ばれてしもうた」
「なんだと!?」
「儀式が行われるのは、一週間後。その日まで、少女は、街の教会の地下牢に、幽閉されることになっておる……」
一週間。それが、一人の少女の命の、そして、俺たちが行動できる、残された時間だった。
ただの調査依頼が、人質を救うための、時間との戦いへと変わったのだ。
俺は、固く、拳を握りしめた。
(ヒーローは、決して、タイムリミットに負けはしない……!)
諦観の街テネブラで、アーク戦隊の、本当の戦いが、始まろうとしていた。
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