異世界ヒーローレッド！ ……の俺が、なぜか、魔王の力で、無双する～でも、俺が作りたいのは最強のヒーロー戦隊です～

ひより那

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=== 002　目指せ、戦隊の基地と支える博士 ===

第34話　ヒーロー、決戦の幕開けを待つ

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　少女リナの救出作戦は、彼女自身の、あまりにも悲しい拒絶によって、完全な失敗に終わった。
　俺たちは、今や、街の衛兵たちから追われる「お尋ね者」だ。老婆エラーラの家の、埃っぽい地下室に身を潜め、息を殺すことしかできない。重い沈黙が、薄暗い空間を支配していた。

「……どうするの、ジン。このままじゃ、リナさんは生贄に……」

　アオイが、不安げに呟く。俺は、その不安を断ち切るように、立ち上がった。

「ああ、分かっている。だからこそ、俺は、最高のシナリオを思いついた」
「……また、始まったわ」

　俺は、仲間たちを見渡し、熱く語り始めた。

「リナさんを救うには、彼女個人の心をこじ開けるだけでは足りない。この街の住民全員の、『生贄は必要だ』という、歪んだ思い込みそのものを、破壊しなければならないんだ！そのためには、最高の舞台で、最高のショーを見せつける必要がある！」

　俺の瞳には、プロデューサーとしての、確かな光が宿っていた。

（絶望的な状況からの、大逆転劇！囚われのヒロイン！偽りの平和！これ以上に、ヒーローが輝ける舞台があるか！？血が騒ぐ！）

　決戦の日は、一週間後。その、長いようで短い時間で、俺たちは、来るべき「ショー」のための、完璧な準備を進めていった。

　アオイは、エラーラが持っていた、この地方の古い書物や、伝承を読み解き、山の「守り神」の正体や、弱点を推測しようと試みてくれた。その知的な横顔は、我々アーク戦隊の、最高の頭脳そのものだ。

　モモは、来るべき戦いに備え、その専門知識をフルに活用していた。彼女は、エラーラの家の、古い薬草を調合し、強力な解毒薬や、聖なる力を宿した破魔の軟膏を、黙々と作り続けている。
　その姿は、もはや、ただの飲んだくれ神官ではない。パーティの生命線を支える、プロのヒーラーだった。

　俺は、エラーラが持っていた、山の古い地図を広げ、スキル【構造解析】を発動させた。ただの登山道ではない。生贄の行列が通る道筋、その周囲の地形、岩の強度、音の反響。その全てを、脳内で、三次元的にシミュレートしていく。

「……決まりだな。決戦の舞台は、あの『嘆きの断崖』だ。あそこなら、儀式を終えて戻る衛兵たちに、俺たちの戦いの『結果』を、劇的に見せつけることができる」

　そして、タンポポ。俺は、彼女に、最も重要な任務を与えた。

「タンポポ！イエローは、我々のチームの、不動の支柱だ！決戦の日に、最高のコンディションで、最高の防御力を発揮できるよう、しっかりと栄養補給をして、休んでおくこと！これが、君への最重要任務だ！」
「はいですー！」

　彼女は、元気いっぱいにそう返事をすると、エラーラから貰った、山のような保存食のビスケットを、幸せそうに頬張り始めたのだった。

　──そして、運命の儀式の朝。

　街の雰囲気は、一変していた。今まで、街を覆っていた、あの過剰なまでの明るさや、偽りの親切は、嘘のように消え失せている。
　住民たちは、誰もが、固い、無表情な顔で、教会の方向を、ただじっと見つめていた。街全体が、重く、厳粛で、不気味な沈黙に包まれていた。

　やがて、教会の鐘が、重々しく鳴り響き、その扉が開かれる。先頭を歩くのは、フードを深くかぶった神官たち。その後ろに、豪華だが、どこか物悲しい、小さな輿《こし》が続く。
　その中に、リナが乗せられているのだろう。そして、その後ろを、街の衛兵たちが、厳重に固めている。
　行列は、住民たちが見守る中、ゆっくりと、山の麓にある、儀式の道へと進んでいく。誰一人、その行列を止めようとする者はいない。

　俺たちは、エラーラの家の窓から、その光景を、静かに見つめていた。
　住民たちの顔に浮かぶのは、恐怖、諦め、そして、ほんのわずかな「自分ではなかった」という、醜い安堵の色。

（見ろ、あれが、俺たちが救うべき観客だ。彼らに、本物のヒーローの戦いを、見せてやらなくてはならない）

　生贄の行列が、完全に街の門を抜け、山道へと入っていく。その姿が見えなくなったのを確認し、俺は、仲間たちに、静かに告げた。

「……時間だな」

　俺は、俺たちをかくまってくれた、エラーラに、深く頭を下げる。

「世話になったな、エラーラさん」
「……気をつけてお行き。そして、あの娘を……いや、この街を、頼んだよ」

　俺は、力強く頷いた。

「行くぞ、アーク戦隊。――ショーの、始まりだ」

　四人は、エラーラが教えてくれた裏道から、街を脱出する。目の前には、生贄の行列が向かう、一本の道。そして、その先には、不気味な魔力の気配を漂わせる、山の頂がそびえ立っていた。

　アーク戦隊の、反撃の狼煙が、今、上がろうとしていた。

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