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=== 002 目指せ、戦隊の基地と支える博士 ===
第36話 ヒーロー、博士の真実を知る
断崖の上に、気まずい沈黙が流れた。
禍々しい魔王の姿が、まるで幻のように消え去り、後には、ゴーグルをかけた、小柄な女性が一人、やれやれと肩をすくめているだけ。
祭壇の上のリナも、俺たちアーク戦隊も、目の前で起きた、あまりに非現実的な光景に、完全に思考が停止していた。
最初に我に返ったのは、俺だった。
俺はアークレッドの変身を解き、一人の青年として、その女性と対峙する。
「……お前は、一体、何者だ? あの魔王は、何だったんだ」
「ん? ああ、君がリーダーかい」
女性は、悪びれる様子もなく、にこやかに名乗った。
「あたしは、アリス。見ての通り、ただのしがない発明家さ。いやー、参った参った。君たち、あたしの作った警備人形を、全部スクラップにしちゃうんだもんなぁ。予想以上に、強かったよ」
「ふざけないで!」
その、あまりに軽い口調に、アオイが激しく詰め寄る。
「あなたが、この街を、リナさんを、生贄の恐怖で縛り付けていた元凶なのよ!」
「まあまあ、落ち着いてよ」
アリスは、手首につけた、無骨なブレスレットを指差した。
「魔王の姿は、これがあたしが発明した『広域・立体映像投影装置』が見せていた、ただの幻影さ。あたしは、君たちが来るまで、ずっと、安全な場所から、この茶番劇を演出してたってわけ。大したもんだろう?」
彼女は、恐るべき技術を、まるで、子供のおもちゃの自慢でもするかのように、あっけらかんと語る。
そして、アリスは、なぜこんなことをしたのか、その動機を語り始めた。
「あたしはね、あのテネブラって街が、大っ嫌いなのさ。閉鎖的で、陰湿で、弱い者いじめが横行する、救いようのない街。だから、教えてあげたんだよ。あいつらには、もっと大きな、共通の恐怖が必要だってね。共通の敵がいれば、人々は、団結する。生贄というルールがあれば、人々は、自分が選ばれまいと、必死に『善良な市民』を演じる。……結果、どうだい? あの街は、あたしのおかげで、いじめも、犯罪もない、完璧な『平和な街』になったじゃないか」
その歪んだ、しかし、一貫した思想。それは、一種の、独裁者としての「正義」だった。
俺は、言葉に詰まった。
(なんだ、こいつは……。やっていることは、到底、許されることじゃない。だが、その根底にあるのは、街の平和を願う、歪んだ善意……? こいつは、悪なのか? それとも……)
アリスは、そこで、ふっと、寂しそうに笑った。
「……でも、それだけじゃない。それだけだったら、あたしは、ただの独裁者だ」
彼女は、祭壇の上で、未だに震えているリナに、優しい視線を向けた。
「あたしの、本当の目的は、この歪んだシステムから、『生贄』そのものを、救い出すことさ」
彼女は、衝撃の事実を告白する。儀式で受け取った生贄を、彼女は、決して手にかけたことはない。むしろ、山の奥に、彼女が作った「隠れ里」へと保護し、そこで、新しい、本当の平和な生活を与えていたのだ。
「偽の魔王」とは、テネブラの住民を欺き、かつ、街から「生贄」として選ばれる犠牲者を、合法的かつ安全に「救出」するための、彼女が考え出した、苦肉の策だったのだ。
その、あまりに意外な告白に、俺たちは、再び言葉を失った。
「……なんて、馬鹿げたやり方」と、アオイが呟く。「でも、結果として、あなたは、多くの人を救ってきた……」
「……偽りの契約で、人々を恐怖に縛り付けた罪は、重い。でも、その契約によって、多くの命が、絶望から救われたのも、また、事実……」モモが、葛藤するように、目を伏せる。
単純な善悪二元論では割り切れない、極めて複雑な問題が、俺たちの前に、横たわっていた。
その時、モモが、祭壇のリナに、静かに近づいた。
「……いずれにせよ、この子は、もう、あの街には戻れない。彼女の心は、深く傷ついている。本当の意味で、安全な場所で、ゆっくりと癒してあげる必要があるわ」
モモの言葉に、アリスは、初めて、心からの笑みを浮かべたように見えた。
「――そう。その通りだよ。だから、あたしは、その『安全な場所』を、ずっと、作り続けてきたんだ」
彼女は、断崖の、今まで誰も気づかなかった、岩壁の一角に手をかける。
ゴゴゴゴ……と、重い音を立てて、そこが、隠し扉のように開いた。中からは、洞窟の闇ではなく、温かい、人工的な光が漏れ出している。
「――ようこそ。あたしの……いいや、あたしたちの、本当の『街』へ」
トンネルの向こうには、俺たちがまだ知らない、新しい世界が、そして、救われた人々が暮らす町が、広がっていた。
禍々しい魔王の姿が、まるで幻のように消え去り、後には、ゴーグルをかけた、小柄な女性が一人、やれやれと肩をすくめているだけ。
祭壇の上のリナも、俺たちアーク戦隊も、目の前で起きた、あまりに非現実的な光景に、完全に思考が停止していた。
最初に我に返ったのは、俺だった。
俺はアークレッドの変身を解き、一人の青年として、その女性と対峙する。
「……お前は、一体、何者だ? あの魔王は、何だったんだ」
「ん? ああ、君がリーダーかい」
女性は、悪びれる様子もなく、にこやかに名乗った。
「あたしは、アリス。見ての通り、ただのしがない発明家さ。いやー、参った参った。君たち、あたしの作った警備人形を、全部スクラップにしちゃうんだもんなぁ。予想以上に、強かったよ」
「ふざけないで!」
その、あまりに軽い口調に、アオイが激しく詰め寄る。
「あなたが、この街を、リナさんを、生贄の恐怖で縛り付けていた元凶なのよ!」
「まあまあ、落ち着いてよ」
アリスは、手首につけた、無骨なブレスレットを指差した。
「魔王の姿は、これがあたしが発明した『広域・立体映像投影装置』が見せていた、ただの幻影さ。あたしは、君たちが来るまで、ずっと、安全な場所から、この茶番劇を演出してたってわけ。大したもんだろう?」
彼女は、恐るべき技術を、まるで、子供のおもちゃの自慢でもするかのように、あっけらかんと語る。
そして、アリスは、なぜこんなことをしたのか、その動機を語り始めた。
「あたしはね、あのテネブラって街が、大っ嫌いなのさ。閉鎖的で、陰湿で、弱い者いじめが横行する、救いようのない街。だから、教えてあげたんだよ。あいつらには、もっと大きな、共通の恐怖が必要だってね。共通の敵がいれば、人々は、団結する。生贄というルールがあれば、人々は、自分が選ばれまいと、必死に『善良な市民』を演じる。……結果、どうだい? あの街は、あたしのおかげで、いじめも、犯罪もない、完璧な『平和な街』になったじゃないか」
その歪んだ、しかし、一貫した思想。それは、一種の、独裁者としての「正義」だった。
俺は、言葉に詰まった。
(なんだ、こいつは……。やっていることは、到底、許されることじゃない。だが、その根底にあるのは、街の平和を願う、歪んだ善意……? こいつは、悪なのか? それとも……)
アリスは、そこで、ふっと、寂しそうに笑った。
「……でも、それだけじゃない。それだけだったら、あたしは、ただの独裁者だ」
彼女は、祭壇の上で、未だに震えているリナに、優しい視線を向けた。
「あたしの、本当の目的は、この歪んだシステムから、『生贄』そのものを、救い出すことさ」
彼女は、衝撃の事実を告白する。儀式で受け取った生贄を、彼女は、決して手にかけたことはない。むしろ、山の奥に、彼女が作った「隠れ里」へと保護し、そこで、新しい、本当の平和な生活を与えていたのだ。
「偽の魔王」とは、テネブラの住民を欺き、かつ、街から「生贄」として選ばれる犠牲者を、合法的かつ安全に「救出」するための、彼女が考え出した、苦肉の策だったのだ。
その、あまりに意外な告白に、俺たちは、再び言葉を失った。
「……なんて、馬鹿げたやり方」と、アオイが呟く。「でも、結果として、あなたは、多くの人を救ってきた……」
「……偽りの契約で、人々を恐怖に縛り付けた罪は、重い。でも、その契約によって、多くの命が、絶望から救われたのも、また、事実……」モモが、葛藤するように、目を伏せる。
単純な善悪二元論では割り切れない、極めて複雑な問題が、俺たちの前に、横たわっていた。
その時、モモが、祭壇のリナに、静かに近づいた。
「……いずれにせよ、この子は、もう、あの街には戻れない。彼女の心は、深く傷ついている。本当の意味で、安全な場所で、ゆっくりと癒してあげる必要があるわ」
モモの言葉に、アリスは、初めて、心からの笑みを浮かべたように見えた。
「――そう。その通りだよ。だから、あたしは、その『安全な場所』を、ずっと、作り続けてきたんだ」
彼女は、断崖の、今まで誰も気づかなかった、岩壁の一角に手をかける。
ゴゴゴゴ……と、重い音を立てて、そこが、隠し扉のように開いた。中からは、洞窟の闇ではなく、温かい、人工的な光が漏れ出している。
「――ようこそ。あたしの……いいや、あたしたちの、本当の『街』へ」
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