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第482話 日程変更 at 1996/2/19
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「それでは開始します――」
カチリ――。
はじめてみる名前も知らない初老のセンセイが、僕らにその瞬間を見せつけるようにして銀色のストップウォッチの竜頭を押す音が教室に響く。それに続くように、かさり、と音がする。
「……」
先週タツヒコの一件があったので、翌日十五日に予定されていた進研ゼミの『全国模試』は延期され、今日になったのだ。学校側の都合で日程が変更になったのはきわめて稀なことらしかったが、事情が事情だけに業者側も理解してくれたらしい、と荻島センセイが教えてくれた。
とはいえ、今朝のクラス内の会話を盗み聴くかぎり、生徒たちはまだ平常運転にはほど遠かったのだけれど、学校や業者側からすれば、土日で充分リセットできたでしょ、というワケだ。
「……っ?」
でも、その日曜日も忙しかったヤツがいるワケで。
「……んぐっ!」
前の方に座っているポニーテールが一問解き進めるごとに、ゆっさゆっさ、と揺れる。いや、解けているかどうかは怪しいところだ。なにせ昨日は、勉強どころではなかったのだから。
「ええと……そこの君。みんなの気が散るから、悩むのはおとなしくやってくれるかね?」
「あ………………スミマセン」
どうやら自覚は一切なかったらしいロコはたちまち、しゅん、と身を縮こませる。それにつられて何人かの生徒が、くすり、と忍び笑いを漏らしたが、老監督官の鋭い視線に口をつぐむ。
「残り時間、三〇分――」
僕も意識を机の上に戻し、もう一度マークシートのチェック箇所を見直しはじめる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ………………」
「溜息が長い」
ようやく昼休みだ。
午後も模試は続くのだけれど、いつものみんなとフツーに会話ができる、というだけで解放感と自由度は段違いなのだろう。ロコはお弁当を包んでいたカラフルなナフキンを広げると、その上にヘッドスライディングするように机に突っ伏した。見かねて純美子が肩に手を置く。
「だ、大丈夫だよ、ロコちゃん! 自信をもって!」
「その自信を支えるモノがぐっらぐらだから困ってるんですケド……。ううう……やだぁ……」
「ま、なるようにしかならん」
「も、もう! ケンタ君はロコちゃんのことになると冷たいんだから!」
「えーえー。どーせどーせジゴージトクですよーだ。インガオーホーですよーだ。ううう……」
ぐちぐちとヨダレのようにだらしなく自虐の言葉を机の上に垂れ流すロコ。おお、意外と難しい四字熟語が次々と出てくるじゃん。これもみんなでがんばった勉強会の成果だね!
「ロ、ロコちゃん! お腹空いてると集中力が切れちゃいますよ! おべんと、食べましょ!」
「そーよー? ちゃっちゃとエネルギー補充して、みんなと一緒に単語帳のおさらいしない?」
「どうせなら、早押しクイズ形式にしようよ。トップには賞品で、最下位には罰ゲームでさ?」
「お、おもしろそうですね、渋田サブリーダー! あ、あたしもやってみたいです!」
「腕が鳴りますね……。ふふふ……ツッキーには負けませんよ」
「あー……えっと、ハカセとツッキーにはハンデつけてもらわないと……」
誰が言い出すともなく、とんとん拍子に段取りができあがるのがおもしろいところだ。思わず純美子と顔を見合わせて、ぷっ、と笑い声を漏らしてしまった。揃ってロコの肩を叩く。
「さ、ロコ、みんなが待ってるぜ。早くメシ喰って、勉強会の延長戦、やろうぜ!」
カチリ――。
はじめてみる名前も知らない初老のセンセイが、僕らにその瞬間を見せつけるようにして銀色のストップウォッチの竜頭を押す音が教室に響く。それに続くように、かさり、と音がする。
「……」
先週タツヒコの一件があったので、翌日十五日に予定されていた進研ゼミの『全国模試』は延期され、今日になったのだ。学校側の都合で日程が変更になったのはきわめて稀なことらしかったが、事情が事情だけに業者側も理解してくれたらしい、と荻島センセイが教えてくれた。
とはいえ、今朝のクラス内の会話を盗み聴くかぎり、生徒たちはまだ平常運転にはほど遠かったのだけれど、学校や業者側からすれば、土日で充分リセットできたでしょ、というワケだ。
「……っ?」
でも、その日曜日も忙しかったヤツがいるワケで。
「……んぐっ!」
前の方に座っているポニーテールが一問解き進めるごとに、ゆっさゆっさ、と揺れる。いや、解けているかどうかは怪しいところだ。なにせ昨日は、勉強どころではなかったのだから。
「ええと……そこの君。みんなの気が散るから、悩むのはおとなしくやってくれるかね?」
「あ………………スミマセン」
どうやら自覚は一切なかったらしいロコはたちまち、しゅん、と身を縮こませる。それにつられて何人かの生徒が、くすり、と忍び笑いを漏らしたが、老監督官の鋭い視線に口をつぐむ。
「残り時間、三〇分――」
僕も意識を机の上に戻し、もう一度マークシートのチェック箇所を見直しはじめる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ………………」
「溜息が長い」
ようやく昼休みだ。
午後も模試は続くのだけれど、いつものみんなとフツーに会話ができる、というだけで解放感と自由度は段違いなのだろう。ロコはお弁当を包んでいたカラフルなナフキンを広げると、その上にヘッドスライディングするように机に突っ伏した。見かねて純美子が肩に手を置く。
「だ、大丈夫だよ、ロコちゃん! 自信をもって!」
「その自信を支えるモノがぐっらぐらだから困ってるんですケド……。ううう……やだぁ……」
「ま、なるようにしかならん」
「も、もう! ケンタ君はロコちゃんのことになると冷たいんだから!」
「えーえー。どーせどーせジゴージトクですよーだ。インガオーホーですよーだ。ううう……」
ぐちぐちとヨダレのようにだらしなく自虐の言葉を机の上に垂れ流すロコ。おお、意外と難しい四字熟語が次々と出てくるじゃん。これもみんなでがんばった勉強会の成果だね!
「ロ、ロコちゃん! お腹空いてると集中力が切れちゃいますよ! おべんと、食べましょ!」
「そーよー? ちゃっちゃとエネルギー補充して、みんなと一緒に単語帳のおさらいしない?」
「どうせなら、早押しクイズ形式にしようよ。トップには賞品で、最下位には罰ゲームでさ?」
「お、おもしろそうですね、渋田サブリーダー! あ、あたしもやってみたいです!」
「腕が鳴りますね……。ふふふ……ツッキーには負けませんよ」
「あー……えっと、ハカセとツッキーにはハンデつけてもらわないと……」
誰が言い出すともなく、とんとん拍子に段取りができあがるのがおもしろいところだ。思わず純美子と顔を見合わせて、ぷっ、と笑い声を漏らしてしまった。揃ってロコの肩を叩く。
「さ、ロコ、みんなが待ってるぜ。早くメシ喰って、勉強会の延長戦、やろうぜ!」
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