俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね

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 バイトの帰り道、同じシフトだった先輩と並んで歩く。
 夜の空気は肌に冷たくて、歩くたびに吐く息が白く滲んだ。

「なあ湊、最近どうよ、恋人とは」

 不意に先輩が声をかけてきて、俺はびくっと肩を跳ねさせた。

「えっ……あ、えっと……」

 恋人。
 たぶん、先輩は悠人のことを言っている。
 俺がこれまで、何度も雑談の中で悠人の話をしていたからだ。

 「高校からずっと一緒」とか、「休みの日も会う」とか。
 無意識に、そんな話をしていたらしい。
 先輩にとっては、それがラブラブな惚気に聞こえたのだろう。

 でも、現実は違う。
 付き合ってなんか、いない。
 俺だけが勝手に、特別だと錯覚していただけ。

「最近……ちょっと、距離、置かれてる気がして……」

 モゴモゴと、情けない声が漏れる。
 悠人のことを考えるだけで、喉が詰まりそうになる。

 先輩は俺の肩を、ぽん、と――いや、思ったよりも強めに小突いた。
 体がよろける。
 とっさにバランスを取りながら、無理に笑顔を作った。

「なにそれ、めちゃ惚気じゃん」

 先輩は冗談めかして笑いながら言った。

「距離置かれてるとか、絶対お互い意識しすぎてるだけだって。ありがちだろ、そういうの」

「……そ、そうですかね」

 無理やり笑いながら、合わせるように相槌を打つ。
 胸の奥は、ぐしゃぐしゃだった。

 本当は、そんな軽い話じゃない。
 本当は、悠人に避けられるたび、心臓が痛くてたまらない。

 でも、先輩の前で弱音を吐くわけにもいかなかった。

「まあ、気にすんなって。時間が経てば、勝手に元通りだって」

 また軽く、こんどは手の甲で俺の頭をぺちんと叩かれる。

(……時間で解決する気がしないから悩んでんだったの…)

 先輩はその後もバイトの愚痴をぽつぽつこぼしていたけれど、俺にはほとんど聞こえていなかった。
 湯気のように立ちのぼる白い息を見ながら、ぼんやりと足を動かす。

(惚気、か……)

 湊が無理に作った笑顔は、冷たい夜風に溶けていった。

 惚気なわけがない。
 心の底から、泣きたかった。
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