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メンフィスの決戦
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翌日、夜が明けるとカンビュセスの恐怖の軍団が地響きをたてて総攻撃をしかけてきた。
無数の矢が空を真っ黒に染めたかと思うと地面を血で真っ赤に染めた。
投石機からの巨大な岩が城壁を粉々に砕きあるいは激しく抉った。
プサムテク三世率いるエジプト軍は大勢の市民と共に、城に攻め込んでくるペルシアの大軍と勇敢に戦った。
籠城戦とは言え生き残りのギリシア傭兵団とエジプト軍正規軍、エジプト民兵の結束は固く、戦況は両軍とも一歩も譲らなかった。
「まるでトロイの城のようです」
ペルシアの将校が本陣に駆け込んだ。
「兵を一旦引け! 新型砲を使う」
カンビュセスが立ち上がり砲兵隊に指示を出した。
「アキレス、奴らが引き上げていくぞ」
「また猫でも飛ばしてくるんじゃないだろうな」
「その時は網で拾ってやるさ」
アキレスとディオが笑い合うと、城壁を守るエジプト兵やエジプト民兵達も敵の退却に湧いた。
ところが数分後「ヒュー」という不気味な音が鳴り響き「ズドーン」という大きな衝撃音と共に、巨大な岩石が城壁にめり込んだ。
「な、なんだ」
アキレスとディオが城壁の側面を見た。
「あんな巨大な岩が……」
二人は絶句した。
めり込んだ岩石は城壁の一部を破壊して崩れ落ち、その辺りを守っていた数人のエジプト兵が落下してきた岩石に押しつぶされた。
「クソ!」
アキレスが城壁から少し離れるようエジプト軍に指令を出そうとしたとき、巨大な岩石の第二派が無数に城壁を襲った。
「ぎゃああ」
エジプト兵士や市民はペルシア軍の新型砲の猛攻でパニックとなり逃げ惑った。
「撃って撃って撃ちまくれ!」
ペルシア砲撃隊将校が叫ぶと、数百機もの新型砲が無数に岩石を発射した。
雨あられのように降り注ぐ巨大な岩石はメンフィス城に降り注ぎ、城壁も城内の様々な建物もエジプト人達も次々と破壊され押しつぶされていった。
「逃げるな! 城壁を守れ!」
ディオの怒号も虚しく人々は恐怖で錯乱した。
兵や多くの市民は脆い王宮の施設に逃げ込んだために、かえって無数の巨大な岩石に建物もろとも潰され圧死した。
「クソ、このままじゃ生き埋めだ」
アキレスは敵の砲撃で身動きできずにいた。
そうしている間にも目の前で逃げ惑う多くの民間人やエジプト兵、ギリシア兵が岩石に頭を砕かれたり、背中から押しつぶされたりして死んでいった。
長い長い砲撃が止みアキレスやプサムテク三世が埃まみれになりながら、瓦礫の山のようになった宮殿の中で立ち上がると、宮殿の至る所に無数の人や猫の死体が転がっていた。どの死体も激しい砲撃のせいで損傷が激しく、辛うじて生き残った者も腕や足や顔のあちこちを酷く負傷していて、生きているのが不思議なほどに思えた。
「奴らがやって来ます」
アキレスが頬の傷を舐めながら呟く。
「すぐに城門を守るんだ! 怯むな!」
プサムテク王が生き残ったエジプト兵に指示を出した。
「アキレス、ありがとう。もういいのだ」
プサムテク王は振り返りざまそう言って頭を下げた。
「王様! どういう意味ですか!」
アキレスはプサムテク王の前に回り込み鋭い目で睨んだ。
「もうよいのだ。わたしが愚かだった。君たちや市民を巻き込むべきではなかったのだ。わたしはファラオとして一指揮官として誤った判断を下してしまった」
プサムテク王は廃墟となった王宮を見あげ涙をうかべた。
「何をおっしゃいます! 戦はこれからです!」
アキレスの碧眼に闘志がみなぎっていた。
「そなた達はもう十分にエジプトに貢献してくれた。我が父の代から本当に有り難く思っている」
父、イアフメス王から王位を継いでいきなりこの戦争に巻き込まれてしまった。あと少し父が生きていてくれさえすれば違った未来もあったかもしれない。
だが、父なら戦っただろうか。プサムテク王の心は千々に乱れた。
「だからこそ最後まで戦いましょう」
アキレスの闘志がどこから沸いてくるのか分からない、きっと戦いの魂がそうさせているのだ。
「メンフィスの市民をなぜこの城に入れてしまったのか。余の一生の不覚だった」
プサムテク王はなおも自責の念にとらわれている。
「彼らも我らと同じ思いです。エジプトの栄光のために戦いたいのです」
もうここまできたのだ。戦うしかない。アキレスの意志は鋼のように固かった。
「アキレス……」
プサムテク王は頭を抱え沈黙した。
「戦いましょう」
アキレスはなおも王を説得する。
「……」
王は石像のように沈黙したままだ。
「ファラオを待ちかねています」
アキレスがそう言って宮殿のバルコニーから外を振り向くと、プサムテク王の言葉を待つ多くの兵や市民の姿が宮殿前の広い庭に集まっていた。
「何ということだ……」
プサムテク王は顔を上げ外をみた。
大勢の市民の姿に胸が熱くなり目頭に涙を浮かべた。
「さ、プサムテク王」
アキレスは王の後ろに退きバルコニーにはプサムテク王が立った。
「ファラオ! ファラオ!」
メンフィスの市民やエジプト兵、ギリシア兵が拳を上げプサムテク王に歓声を上げた。
プサムテク王は感極まって涙を流した。
「皆の者」
ファラオが右手を少し挙げて集まった人々に呼びかけると、宮殿前に集まった群衆は一瞬にして静まった。
「エジプトのために戦ってくれてありがとう。だが皆も感じているとおり戦況は我らに極めて不利な状況にある。わたしは皆に……」
プサムテク王がそこまで言うと、
「ファラオ! ファラオ! ファラオ!」
人々がファラオの次の言葉を待たず一斉に拳を上げて叫びだした。
プサムテク王は目の前に集まった人々の歓声を聞いて、彼ら全員がエジプトの栄光を信じているのだと、ファラオを信じているのだと、そのためなら命をも惜しまない覚悟なのだと悟った。
「エジプトに栄光あれ!」
プサムテク王は人々の前に進み出てバルコニーに身をのりだし、拳を握りしめて勢いよく天を突いて叫んだ。
「ファラオ! ファラオ!」
プサムテク三世が檄を飛ばすと、市民も兵士もエジプト人もギリシア人もみな気勢を上げ最後の決戦に挑んだ。
ペルシア軍陣地でもいよいよ決戦に備えて最後の戦闘準備に取りかかっていた。
メンフィス城には三千人のエジプト人民兵と少数のエジプト軍、そしてギリシア傭兵団が籠城している。
「城壁は崩壊寸前だ」
カンビュセスが目を細め瓦礫の山のようになったメンフィス城を眺めた。
「あとは城門を破壊するだけで勝負はついたようなものです」
将校が勝負はあったものと言わんばかりに進言した。
「アキレスを侮るな!」
将校の言葉を聞いたカンビュセスは怒りだした。
「で、ですが奴一人では何も出来ません」
なおも将校は勝利を信じた。
実際、天を黒く染めるほどの黒煙が城から立ちこめ、城壁はいまにも崩れ落ちそうなほど破壊されているのだから。
「だからおまえは詰めが甘いんだ! この馬鹿め!」
カンビュセスはガバッと立ち上がり、将校を一瞥して王宮の辺りを睨み付けた。
大王の思わぬ言葉に将校はたじろぐ。
「……」
将校はカンビュセスのあまりの剣幕に沈黙した。
「いいかよく聞け。アキレスは不死身なのだ」
カンビュセスはいま戦っているアキレスが、トロイア戦争の大英雄アキレスの子孫であることを知っていた。
「大王様、このわたくしが不死身のアキレスにとどめを刺してみせます」
ペルシア将校はそう言って胸を張った。
将校は亡国の傭兵など恐るるに足りないという意識がみなぎっていた。
「よかろう。だがしくじればお前の首はないぞ」
そこまで言うのなら、カンビュセスは憮然として椅子に腰掛け、がっぷりと腕を組んだ。
「はっ! アキレスのさらし首をお見せしましょう」
将校はアキレスとの戦闘に備えるためすぐに陣地に戻った。
「城門を破壊せよ!」
カンビュセスの命令はすぐに前線の兵士に伝えられた。
ペルシアの破壊部隊は巨大な丸太を担ぎ、メンフィス城を目指して突撃した。
「ペルシア軍だ!」
ディオの代わりに見張り塔に立っていたアイアスが叫んだ。
「奴ら城門を壊す気だ!」
駆け付けたギリシア傭兵ネストルはすぐにペルシアの破壊部隊を攻撃するようエジプト民兵に指示した。
ところがペルシアの突撃部隊を弓で射ようとすると、無数の矢が雨あられのように降り注ぎ、エジプト軍は為す術も無く敵が城の堀に着くのを許してしまった。
「橋を渡せ! 怯むな! 怯むな! 突撃だあ!」
ペルシア軍は瞬く間に堀に橋を渡し、巨大な大木で門を幾度となく突いた。
「押さえろ! 押さえろ! 門が破られるぞ!」
プサムテク王が馬上から激しく叫んだ。
だがどんなに内側から門を押さえても、城門はギギギ、ギギギと軋み、少しずつ開きはじめた。
「もはやこれまでか、打って出て活路を見出すのみ!」
籠城戦の限界を悟ったプサムテク三世は手勢を率いてペルシア軍と最後の決戦をする覚悟を決めた。
そんなとき、宮殿で怯えるレイラ達のとこにアキレスがやってきた。
「レイラ、ネジム、タミット、ちょっと一緒に着いて来てくれ」
アキレスは宮殿の奥に向かって走り始めた。
狭い通路をしばらく走ると小さな部屋に着いた。
「この石版の壁だ」
アキレスは部屋の奥にある、バステトのレリーフが刻まれた石版の壁まで来てバステトの鼻のあたりを押した。すると石版がガラガラと重い音を立てながら左横に動いた。
「秘密の出入り口だ」
入り口から先は狭い石の通路が伸びている。奥は真っ暗でなにも見えない。
「城の外に出ることが出来る」
アキレスはすぐにでも逃げろと言わんばかり。
「どういうこと? みんなも一緒逃げないの?」
レイラは納得できない。
「我々は王と一緒に城から出て戦う。俺たちが戦っている隙に市民と一緒に此処から逃げ出すんだ」
すぐにでもとアキレスは指示する。
「そんなの嫌よ!」
レイラは頑なに動こうとしなかった。
「レイラ! 分かってくれ」
アキレスが立ち上がった。
もう城門が壊されようとしているのだから。
「嫌! アキレスが戻るまであたしは城にいる」
レイラは愛しい人を残してはいけないと彼の提案を拒否した。
「レイラ!」
アキレスがレイラの肩を掴む。
「アキレス、戦いが終わったら戻ってきてくださいみゃ」
「そうにゃ、戻るまで、おいらたちはエジプト市民をここから逃がしているにゃ」
見かねたタミットとネジムがアキレスを説得した。
「……」
「アキレス、愛してます。必ず戻ってきて下さい」
レイラは目を涙でいっぱいに潤ませながら、アキレスの腰に抱きついた。
「レイラ……」
アキレスはレイラの背中を優しく抱いて、唇にキスをした。
「約束して」
レイラはアキレスの手をとり、小指を絡めた。
「約束は必ず戻るから」
アキレスはレイラをもう一度強く抱きしめ、静かに秘密の部屋から出て行った。
無数の矢が空を真っ黒に染めたかと思うと地面を血で真っ赤に染めた。
投石機からの巨大な岩が城壁を粉々に砕きあるいは激しく抉った。
プサムテク三世率いるエジプト軍は大勢の市民と共に、城に攻め込んでくるペルシアの大軍と勇敢に戦った。
籠城戦とは言え生き残りのギリシア傭兵団とエジプト軍正規軍、エジプト民兵の結束は固く、戦況は両軍とも一歩も譲らなかった。
「まるでトロイの城のようです」
ペルシアの将校が本陣に駆け込んだ。
「兵を一旦引け! 新型砲を使う」
カンビュセスが立ち上がり砲兵隊に指示を出した。
「アキレス、奴らが引き上げていくぞ」
「また猫でも飛ばしてくるんじゃないだろうな」
「その時は網で拾ってやるさ」
アキレスとディオが笑い合うと、城壁を守るエジプト兵やエジプト民兵達も敵の退却に湧いた。
ところが数分後「ヒュー」という不気味な音が鳴り響き「ズドーン」という大きな衝撃音と共に、巨大な岩石が城壁にめり込んだ。
「な、なんだ」
アキレスとディオが城壁の側面を見た。
「あんな巨大な岩が……」
二人は絶句した。
めり込んだ岩石は城壁の一部を破壊して崩れ落ち、その辺りを守っていた数人のエジプト兵が落下してきた岩石に押しつぶされた。
「クソ!」
アキレスが城壁から少し離れるようエジプト軍に指令を出そうとしたとき、巨大な岩石の第二派が無数に城壁を襲った。
「ぎゃああ」
エジプト兵士や市民はペルシア軍の新型砲の猛攻でパニックとなり逃げ惑った。
「撃って撃って撃ちまくれ!」
ペルシア砲撃隊将校が叫ぶと、数百機もの新型砲が無数に岩石を発射した。
雨あられのように降り注ぐ巨大な岩石はメンフィス城に降り注ぎ、城壁も城内の様々な建物もエジプト人達も次々と破壊され押しつぶされていった。
「逃げるな! 城壁を守れ!」
ディオの怒号も虚しく人々は恐怖で錯乱した。
兵や多くの市民は脆い王宮の施設に逃げ込んだために、かえって無数の巨大な岩石に建物もろとも潰され圧死した。
「クソ、このままじゃ生き埋めだ」
アキレスは敵の砲撃で身動きできずにいた。
そうしている間にも目の前で逃げ惑う多くの民間人やエジプト兵、ギリシア兵が岩石に頭を砕かれたり、背中から押しつぶされたりして死んでいった。
長い長い砲撃が止みアキレスやプサムテク三世が埃まみれになりながら、瓦礫の山のようになった宮殿の中で立ち上がると、宮殿の至る所に無数の人や猫の死体が転がっていた。どの死体も激しい砲撃のせいで損傷が激しく、辛うじて生き残った者も腕や足や顔のあちこちを酷く負傷していて、生きているのが不思議なほどに思えた。
「奴らがやって来ます」
アキレスが頬の傷を舐めながら呟く。
「すぐに城門を守るんだ! 怯むな!」
プサムテク王が生き残ったエジプト兵に指示を出した。
「アキレス、ありがとう。もういいのだ」
プサムテク王は振り返りざまそう言って頭を下げた。
「王様! どういう意味ですか!」
アキレスはプサムテク王の前に回り込み鋭い目で睨んだ。
「もうよいのだ。わたしが愚かだった。君たちや市民を巻き込むべきではなかったのだ。わたしはファラオとして一指揮官として誤った判断を下してしまった」
プサムテク王は廃墟となった王宮を見あげ涙をうかべた。
「何をおっしゃいます! 戦はこれからです!」
アキレスの碧眼に闘志がみなぎっていた。
「そなた達はもう十分にエジプトに貢献してくれた。我が父の代から本当に有り難く思っている」
父、イアフメス王から王位を継いでいきなりこの戦争に巻き込まれてしまった。あと少し父が生きていてくれさえすれば違った未来もあったかもしれない。
だが、父なら戦っただろうか。プサムテク王の心は千々に乱れた。
「だからこそ最後まで戦いましょう」
アキレスの闘志がどこから沸いてくるのか分からない、きっと戦いの魂がそうさせているのだ。
「メンフィスの市民をなぜこの城に入れてしまったのか。余の一生の不覚だった」
プサムテク王はなおも自責の念にとらわれている。
「彼らも我らと同じ思いです。エジプトの栄光のために戦いたいのです」
もうここまできたのだ。戦うしかない。アキレスの意志は鋼のように固かった。
「アキレス……」
プサムテク王は頭を抱え沈黙した。
「戦いましょう」
アキレスはなおも王を説得する。
「……」
王は石像のように沈黙したままだ。
「ファラオを待ちかねています」
アキレスがそう言って宮殿のバルコニーから外を振り向くと、プサムテク王の言葉を待つ多くの兵や市民の姿が宮殿前の広い庭に集まっていた。
「何ということだ……」
プサムテク王は顔を上げ外をみた。
大勢の市民の姿に胸が熱くなり目頭に涙を浮かべた。
「さ、プサムテク王」
アキレスは王の後ろに退きバルコニーにはプサムテク王が立った。
「ファラオ! ファラオ!」
メンフィスの市民やエジプト兵、ギリシア兵が拳を上げプサムテク王に歓声を上げた。
プサムテク王は感極まって涙を流した。
「皆の者」
ファラオが右手を少し挙げて集まった人々に呼びかけると、宮殿前に集まった群衆は一瞬にして静まった。
「エジプトのために戦ってくれてありがとう。だが皆も感じているとおり戦況は我らに極めて不利な状況にある。わたしは皆に……」
プサムテク王がそこまで言うと、
「ファラオ! ファラオ! ファラオ!」
人々がファラオの次の言葉を待たず一斉に拳を上げて叫びだした。
プサムテク王は目の前に集まった人々の歓声を聞いて、彼ら全員がエジプトの栄光を信じているのだと、ファラオを信じているのだと、そのためなら命をも惜しまない覚悟なのだと悟った。
「エジプトに栄光あれ!」
プサムテク王は人々の前に進み出てバルコニーに身をのりだし、拳を握りしめて勢いよく天を突いて叫んだ。
「ファラオ! ファラオ!」
プサムテク三世が檄を飛ばすと、市民も兵士もエジプト人もギリシア人もみな気勢を上げ最後の決戦に挑んだ。
ペルシア軍陣地でもいよいよ決戦に備えて最後の戦闘準備に取りかかっていた。
メンフィス城には三千人のエジプト人民兵と少数のエジプト軍、そしてギリシア傭兵団が籠城している。
「城壁は崩壊寸前だ」
カンビュセスが目を細め瓦礫の山のようになったメンフィス城を眺めた。
「あとは城門を破壊するだけで勝負はついたようなものです」
将校が勝負はあったものと言わんばかりに進言した。
「アキレスを侮るな!」
将校の言葉を聞いたカンビュセスは怒りだした。
「で、ですが奴一人では何も出来ません」
なおも将校は勝利を信じた。
実際、天を黒く染めるほどの黒煙が城から立ちこめ、城壁はいまにも崩れ落ちそうなほど破壊されているのだから。
「だからおまえは詰めが甘いんだ! この馬鹿め!」
カンビュセスはガバッと立ち上がり、将校を一瞥して王宮の辺りを睨み付けた。
大王の思わぬ言葉に将校はたじろぐ。
「……」
将校はカンビュセスのあまりの剣幕に沈黙した。
「いいかよく聞け。アキレスは不死身なのだ」
カンビュセスはいま戦っているアキレスが、トロイア戦争の大英雄アキレスの子孫であることを知っていた。
「大王様、このわたくしが不死身のアキレスにとどめを刺してみせます」
ペルシア将校はそう言って胸を張った。
将校は亡国の傭兵など恐るるに足りないという意識がみなぎっていた。
「よかろう。だがしくじればお前の首はないぞ」
そこまで言うのなら、カンビュセスは憮然として椅子に腰掛け、がっぷりと腕を組んだ。
「はっ! アキレスのさらし首をお見せしましょう」
将校はアキレスとの戦闘に備えるためすぐに陣地に戻った。
「城門を破壊せよ!」
カンビュセスの命令はすぐに前線の兵士に伝えられた。
ペルシアの破壊部隊は巨大な丸太を担ぎ、メンフィス城を目指して突撃した。
「ペルシア軍だ!」
ディオの代わりに見張り塔に立っていたアイアスが叫んだ。
「奴ら城門を壊す気だ!」
駆け付けたギリシア傭兵ネストルはすぐにペルシアの破壊部隊を攻撃するようエジプト民兵に指示した。
ところがペルシアの突撃部隊を弓で射ようとすると、無数の矢が雨あられのように降り注ぎ、エジプト軍は為す術も無く敵が城の堀に着くのを許してしまった。
「橋を渡せ! 怯むな! 怯むな! 突撃だあ!」
ペルシア軍は瞬く間に堀に橋を渡し、巨大な大木で門を幾度となく突いた。
「押さえろ! 押さえろ! 門が破られるぞ!」
プサムテク王が馬上から激しく叫んだ。
だがどんなに内側から門を押さえても、城門はギギギ、ギギギと軋み、少しずつ開きはじめた。
「もはやこれまでか、打って出て活路を見出すのみ!」
籠城戦の限界を悟ったプサムテク三世は手勢を率いてペルシア軍と最後の決戦をする覚悟を決めた。
そんなとき、宮殿で怯えるレイラ達のとこにアキレスがやってきた。
「レイラ、ネジム、タミット、ちょっと一緒に着いて来てくれ」
アキレスは宮殿の奥に向かって走り始めた。
狭い通路をしばらく走ると小さな部屋に着いた。
「この石版の壁だ」
アキレスは部屋の奥にある、バステトのレリーフが刻まれた石版の壁まで来てバステトの鼻のあたりを押した。すると石版がガラガラと重い音を立てながら左横に動いた。
「秘密の出入り口だ」
入り口から先は狭い石の通路が伸びている。奥は真っ暗でなにも見えない。
「城の外に出ることが出来る」
アキレスはすぐにでも逃げろと言わんばかり。
「どういうこと? みんなも一緒逃げないの?」
レイラは納得できない。
「我々は王と一緒に城から出て戦う。俺たちが戦っている隙に市民と一緒に此処から逃げ出すんだ」
すぐにでもとアキレスは指示する。
「そんなの嫌よ!」
レイラは頑なに動こうとしなかった。
「レイラ! 分かってくれ」
アキレスが立ち上がった。
もう城門が壊されようとしているのだから。
「嫌! アキレスが戻るまであたしは城にいる」
レイラは愛しい人を残してはいけないと彼の提案を拒否した。
「レイラ!」
アキレスがレイラの肩を掴む。
「アキレス、戦いが終わったら戻ってきてくださいみゃ」
「そうにゃ、戻るまで、おいらたちはエジプト市民をここから逃がしているにゃ」
見かねたタミットとネジムがアキレスを説得した。
「……」
「アキレス、愛してます。必ず戻ってきて下さい」
レイラは目を涙でいっぱいに潤ませながら、アキレスの腰に抱きついた。
「レイラ……」
アキレスはレイラの背中を優しく抱いて、唇にキスをした。
「約束して」
レイラはアキレスの手をとり、小指を絡めた。
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