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14)デボシュ <闘技場>
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作戦Rは、デボシュとルフェーブがメインで戦う作戦である。
ルフェーブはデボシュの相棒、彼が育てた魔法使いであると同時に、魔法使いキラー。
おそらく敵の魔法使いはルフェーブのような魔法使いに遭遇したことがないだろう。彼の攻撃は効果的なはず。
あるいは二人の攻撃の隙間を縫って、シャカルがあの魔法を炸裂させるかもしれない。それが成功すれば終わり。我々の勝ちだ、デボシュはそう計算する。
この戦いが始まる前に、仲間たちとは何度か会合をしている。
作戦R以外にも、作戦Dや作戦Eなどがあるらしいが、自分の担当以外については詳しく知らない。とにかくデボシュの仕事は、この作戦Rを成功させること、それだけ。
(しかしこれだけの強敵を相手にするには、その準備期間は短くはないだろうか? もっと打ち合わせに時間をかけるべきではなかったのか?)
デボシュはそんな不安を感じたりもしていた。
いや、ただ単にデボシュたちの参加が遅かっただけで、ダンテスク自身はそれなりに綿密な作戦を組み立てているのかもしれない。
それに今は仲間とはいえ、ほとんど知らない魔法使いである。次に会うときはは敵として相見えるかもしれない。出来るだけ自分の手の内をばらしたくないのが魔法使いというもの。
(まあ、シャカルという例外はいるが。あいつは自分の魔法の力を誇示するように見せつけてくる。しかしあんなのは特例。弱い犬ほどうるさく吼えるというパターンだ)
この戦いはデボシュがプランニングしたわけではない。彼はただ雇われただけ。
この戦いに勝とうが負けようが、デボシュの功績になることもない。確かに報酬は莫大だが、それも大富豪のデボシュにしてみれば些細なもの。
(とにかく我が相棒ルフェーブと共に、生きて帰ることだけを第一に優先するべきであろう。積極的に第一線に立つことはない)
とはいえ、こちらは九人だ。優秀な魔法使いが揃っている。万が一にも負けることはないはずだ。きっとあっさりと片がつくに違いない。
しかしまるで不安がないわけではなかった。
いや、不安を数え上げればきりがない。その中でも最も大きな不安、それはこちら側に戦いの素人があまりに多いこと。戦いのプロと言えるのはデボシュと、シユエトという男くらいのようだ。
シャカルなど、人殺しの経験は豊かなのかもしれないが、戦闘の経験はそれほどなさそうだ。エクリパン、ブランジュもだろう。
この戦いの指揮を取っているダンテスクですら、ほとんど戦った経験がない様子である。
彼がそう言ったわけではないが、その口ぶりや瞬時の判断などから推し量るに、戦場のことをまるで理解していないのが手に取るようにわかる。
魔法使いだからといって、誰もが戦いに秀でているわけではない。魔法使いというのは、ただ魔法を使えるだけの存在。
確かに魔法の力は経験不足を補って余りあるほどに巨大なものであるが、戦場というのは経験がものをいう現場でもある。
(彼らは少し自分の魔法の力を過信しているように思う。もっと戦いの専門家を雇うべきではなかったのか?)
デボシュの経験豊かな傭兵としての勘が、そのような警告を発している。
(こんな戦いで死にたくない。いや、もはや俺はどんな戦場でも死ぬつもりはない。俺はこの世の成功者なのだから。ルフェーブと共に生還すること。それがこの戦いの第一義)
デボシュの年齢も中年に差しかかろうとしていた。若い頃はほとんど休むことなく、数多くの戦場を渡り歩いてきた。
体格は小さいほうで、剣や槍を持っても不器用であったが、身体だけは頑丈だった。
深刻な病にかかったこともなく、戦場で怪我を負っても傷口はすぐに塞がった。そのお陰で、デボシュは使い勝手の良い傭兵として重宝されるようになった。
しかし傭兵としてのデボシュの特徴はそれだけじゃない。彼は戦士でありながら、多少の魔法が使えた。
傭兵仲間たちが酒を飲んで憂さ晴らしをしている間、デボシュは彼らから背を向け、ひたすら魔法の勉強に明け暮れていたのである。
魔法の才能などがあったわけではないが、彼には生まれもっての粘り強さがあった。頭だって悪くない。
やがて長年の努力が実り、デボシュはこの世界で、最も身体が頑丈で無神経な、魔法の使い手となることが出来た。
魔法を習得することで、傭兵としての価値は一気に高まった。
戦場での彼の活躍も目立つようになり、報酬は数倍に跳ね上がり、逆に戦場で負う怪我は減った。
心身ともに余裕の出来た彼は、貯めていたお金で酒場を購入した。
そこから彼の人生は更に飛躍する。
デボシュは自分の本当の才能を見つけたようであった。その酒場の経営は驚くほど上手くいき、店は大繁盛した。
そもそも彼の天分は戦うことではなく、そこにあったのかもしれない。今では数件の酒場を経営している。更に本店の酒場には地下に闘技場を設けた。それも大当たりして、全国から客を集めている。
闘技場というアイデアは、大きな賭けであった。
それだけの設備を整えるためには、彼が溜め込んできた貯えだけでは無理で、多数の金貸し業者から多額の借財を背負った。
市場に近い一等地の広い土地を探し、そこに堅固で豪奢な三階建ての建物を建て、腕自慢の戦士を全国から集める。
これほどに大々的な闘技場という施設を作るためには許可が必要で、王に使える高官たちを説得するのにも苦労した。もちろん、そのとき多額の賄賂を払った。
裏世界の支配者、犯罪組織の連中からの邪魔もあったが、激しい抗争の果てに全滅に追い込んだ。
魔法が使えるデボシュが先頭に立って戦うのだから、裏社会を仕切っている組織といえども敵ではない。デボシュは街の勢力地図も一変させた。
そのような数々の苦労を乗り越え、その事業をも軌道に乗せることに成功した。
毎晩、闘技場には客が殺到している。一攫千金を夢見る賭博好きの労働者から、有り触れた遊びに厭きた貴族まで、様々な連中が闘技場に集まっている。
その事業を成功させたデボシュの金庫の中の貯えは増えていくばかりで、背負った借財も返済の目処がついた。
その本店の酒場の最上階に、この事業を統括するデボシュの事務所がある。
最上級のブナの木で出来たデスク。仕事は出来ないが、見目麗しい愛人兼秘書たち。天井のぎりぎりまで高く伸びた棚には、珍しい酒が並ぶ。
泡だらけのバスタブの中、葉巻を吸いながら部下たちに指示を出すデボシュは、成功の頂点を極めていた。
彼は雇われる側の人間ではなくなった。デボシュ自身がこの店のために従業員を雇い、用心棒として傭兵を雇い、闘技場で戦う戦士を雇う。
生まれは下層階級だったデボシュであるが、寝転んでいても資産が増えていく、向こう側の人間になったのである。
闘技場を経営するようになったデボシュが得た物は、資産だけではない。彼はそこで、数々の戦士とも知り合った。出会い、それは人生における最も貴重な資産ではないだろうか。
「デボシュの闘技場には金貨が転がっている。勝者はそれを拾い放題」そんな噂が広まっていた。
一回の戦いに勝利するだけで、普通の労働者の半月分もの報酬を約束していたのである。幾度もの戦闘に勝利して名を上げた戦士には、気前良く報酬を上乗せしている。
闘技場で戦士が得ることが出来るのは金貨だけではない。ここで有名になれば、栄誉も得ることが出来る。どこに行っても、拍手と歓声と花束で迎えられる街の有名人に。
闘技場での戦闘は真剣勝負なので、怪我はつきものであるが、本物の戦場のように命を落とすことは稀だった。
それに、何が起きるわからない不確定要素が溢れている戦場と違い、本当の自分の強さを計ることも出来る。戦いは基本的に一対一だから。
すなわち、少し腕の覚えのある戦士からすれば、デボシュの闘技場は楽に稼げる理想的場所なのである。
そんな甘い噂に引き寄せられて、全国の各地から戦士が集まってきた。
その中には、本当に強い戦士もいた。戦いぶりも華やかで、血の気の多い客たちの嗜虐趣味を満足させることが出来る戦士も。
薔薇の戦士、マッサム。大剣使いのブリンガー、二刀流の剣士、シムなど、闘技場の歴代王者たちである。
その王者を倒そうと、更に強い戦士がやってくる。競争は激しさを増し、それと共に観客たちの熱狂は一段と高まる。デボシュの闘技場はいっそう繁栄していった。
デボシュの相棒、ルフェーブという若者も、そんな王者たちの一人だった。
彼はデボシュの闘技場に裸足で現れ、素手で歴代の王者たちを次々と倒していった。彼の強さは桁外れであり、その瞳は涼やかであった。
ルフェーブはデボシュの相棒、彼が育てた魔法使いであると同時に、魔法使いキラー。
おそらく敵の魔法使いはルフェーブのような魔法使いに遭遇したことがないだろう。彼の攻撃は効果的なはず。
あるいは二人の攻撃の隙間を縫って、シャカルがあの魔法を炸裂させるかもしれない。それが成功すれば終わり。我々の勝ちだ、デボシュはそう計算する。
この戦いが始まる前に、仲間たちとは何度か会合をしている。
作戦R以外にも、作戦Dや作戦Eなどがあるらしいが、自分の担当以外については詳しく知らない。とにかくデボシュの仕事は、この作戦Rを成功させること、それだけ。
(しかしこれだけの強敵を相手にするには、その準備期間は短くはないだろうか? もっと打ち合わせに時間をかけるべきではなかったのか?)
デボシュはそんな不安を感じたりもしていた。
いや、ただ単にデボシュたちの参加が遅かっただけで、ダンテスク自身はそれなりに綿密な作戦を組み立てているのかもしれない。
それに今は仲間とはいえ、ほとんど知らない魔法使いである。次に会うときはは敵として相見えるかもしれない。出来るだけ自分の手の内をばらしたくないのが魔法使いというもの。
(まあ、シャカルという例外はいるが。あいつは自分の魔法の力を誇示するように見せつけてくる。しかしあんなのは特例。弱い犬ほどうるさく吼えるというパターンだ)
この戦いはデボシュがプランニングしたわけではない。彼はただ雇われただけ。
この戦いに勝とうが負けようが、デボシュの功績になることもない。確かに報酬は莫大だが、それも大富豪のデボシュにしてみれば些細なもの。
(とにかく我が相棒ルフェーブと共に、生きて帰ることだけを第一に優先するべきであろう。積極的に第一線に立つことはない)
とはいえ、こちらは九人だ。優秀な魔法使いが揃っている。万が一にも負けることはないはずだ。きっとあっさりと片がつくに違いない。
しかしまるで不安がないわけではなかった。
いや、不安を数え上げればきりがない。その中でも最も大きな不安、それはこちら側に戦いの素人があまりに多いこと。戦いのプロと言えるのはデボシュと、シユエトという男くらいのようだ。
シャカルなど、人殺しの経験は豊かなのかもしれないが、戦闘の経験はそれほどなさそうだ。エクリパン、ブランジュもだろう。
この戦いの指揮を取っているダンテスクですら、ほとんど戦った経験がない様子である。
彼がそう言ったわけではないが、その口ぶりや瞬時の判断などから推し量るに、戦場のことをまるで理解していないのが手に取るようにわかる。
魔法使いだからといって、誰もが戦いに秀でているわけではない。魔法使いというのは、ただ魔法を使えるだけの存在。
確かに魔法の力は経験不足を補って余りあるほどに巨大なものであるが、戦場というのは経験がものをいう現場でもある。
(彼らは少し自分の魔法の力を過信しているように思う。もっと戦いの専門家を雇うべきではなかったのか?)
デボシュの経験豊かな傭兵としての勘が、そのような警告を発している。
(こんな戦いで死にたくない。いや、もはや俺はどんな戦場でも死ぬつもりはない。俺はこの世の成功者なのだから。ルフェーブと共に生還すること。それがこの戦いの第一義)
デボシュの年齢も中年に差しかかろうとしていた。若い頃はほとんど休むことなく、数多くの戦場を渡り歩いてきた。
体格は小さいほうで、剣や槍を持っても不器用であったが、身体だけは頑丈だった。
深刻な病にかかったこともなく、戦場で怪我を負っても傷口はすぐに塞がった。そのお陰で、デボシュは使い勝手の良い傭兵として重宝されるようになった。
しかし傭兵としてのデボシュの特徴はそれだけじゃない。彼は戦士でありながら、多少の魔法が使えた。
傭兵仲間たちが酒を飲んで憂さ晴らしをしている間、デボシュは彼らから背を向け、ひたすら魔法の勉強に明け暮れていたのである。
魔法の才能などがあったわけではないが、彼には生まれもっての粘り強さがあった。頭だって悪くない。
やがて長年の努力が実り、デボシュはこの世界で、最も身体が頑丈で無神経な、魔法の使い手となることが出来た。
魔法を習得することで、傭兵としての価値は一気に高まった。
戦場での彼の活躍も目立つようになり、報酬は数倍に跳ね上がり、逆に戦場で負う怪我は減った。
心身ともに余裕の出来た彼は、貯めていたお金で酒場を購入した。
そこから彼の人生は更に飛躍する。
デボシュは自分の本当の才能を見つけたようであった。その酒場の経営は驚くほど上手くいき、店は大繁盛した。
そもそも彼の天分は戦うことではなく、そこにあったのかもしれない。今では数件の酒場を経営している。更に本店の酒場には地下に闘技場を設けた。それも大当たりして、全国から客を集めている。
闘技場というアイデアは、大きな賭けであった。
それだけの設備を整えるためには、彼が溜め込んできた貯えだけでは無理で、多数の金貸し業者から多額の借財を背負った。
市場に近い一等地の広い土地を探し、そこに堅固で豪奢な三階建ての建物を建て、腕自慢の戦士を全国から集める。
これほどに大々的な闘技場という施設を作るためには許可が必要で、王に使える高官たちを説得するのにも苦労した。もちろん、そのとき多額の賄賂を払った。
裏世界の支配者、犯罪組織の連中からの邪魔もあったが、激しい抗争の果てに全滅に追い込んだ。
魔法が使えるデボシュが先頭に立って戦うのだから、裏社会を仕切っている組織といえども敵ではない。デボシュは街の勢力地図も一変させた。
そのような数々の苦労を乗り越え、その事業をも軌道に乗せることに成功した。
毎晩、闘技場には客が殺到している。一攫千金を夢見る賭博好きの労働者から、有り触れた遊びに厭きた貴族まで、様々な連中が闘技場に集まっている。
その事業を成功させたデボシュの金庫の中の貯えは増えていくばかりで、背負った借財も返済の目処がついた。
その本店の酒場の最上階に、この事業を統括するデボシュの事務所がある。
最上級のブナの木で出来たデスク。仕事は出来ないが、見目麗しい愛人兼秘書たち。天井のぎりぎりまで高く伸びた棚には、珍しい酒が並ぶ。
泡だらけのバスタブの中、葉巻を吸いながら部下たちに指示を出すデボシュは、成功の頂点を極めていた。
彼は雇われる側の人間ではなくなった。デボシュ自身がこの店のために従業員を雇い、用心棒として傭兵を雇い、闘技場で戦う戦士を雇う。
生まれは下層階級だったデボシュであるが、寝転んでいても資産が増えていく、向こう側の人間になったのである。
闘技場を経営するようになったデボシュが得た物は、資産だけではない。彼はそこで、数々の戦士とも知り合った。出会い、それは人生における最も貴重な資産ではないだろうか。
「デボシュの闘技場には金貨が転がっている。勝者はそれを拾い放題」そんな噂が広まっていた。
一回の戦いに勝利するだけで、普通の労働者の半月分もの報酬を約束していたのである。幾度もの戦闘に勝利して名を上げた戦士には、気前良く報酬を上乗せしている。
闘技場で戦士が得ることが出来るのは金貨だけではない。ここで有名になれば、栄誉も得ることが出来る。どこに行っても、拍手と歓声と花束で迎えられる街の有名人に。
闘技場での戦闘は真剣勝負なので、怪我はつきものであるが、本物の戦場のように命を落とすことは稀だった。
それに、何が起きるわからない不確定要素が溢れている戦場と違い、本当の自分の強さを計ることも出来る。戦いは基本的に一対一だから。
すなわち、少し腕の覚えのある戦士からすれば、デボシュの闘技場は楽に稼げる理想的場所なのである。
そんな甘い噂に引き寄せられて、全国の各地から戦士が集まってきた。
その中には、本当に強い戦士もいた。戦いぶりも華やかで、血の気の多い客たちの嗜虐趣味を満足させることが出来る戦士も。
薔薇の戦士、マッサム。大剣使いのブリンガー、二刀流の剣士、シムなど、闘技場の歴代王者たちである。
その王者を倒そうと、更に強い戦士がやってくる。競争は激しさを増し、それと共に観客たちの熱狂は一段と高まる。デボシュの闘技場はいっそう繁栄していった。
デボシュの相棒、ルフェーブという若者も、そんな王者たちの一人だった。
彼はデボシュの闘技場に裸足で現れ、素手で歴代の王者たちを次々と倒していった。彼の強さは桁外れであり、その瞳は涼やかであった。
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