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18)デボシュ <魔界2>
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デボシュの手元の水晶玉に、魔界の光景が映っている。
そこは荒涼とした岩だらけのでこぼこした大地で、当然、太陽もなく、月も星もない。
花も咲いていない。木々の緑もない。鳥もいない。猫もいない。青い空だってない。岩だらけに見えるが、それが岩なのかも定かではない。
しかしその荒涼とした地に、一つだけ小屋が建っている。木の板で作られた掘っ立て小屋。
その小屋の前に魔族が立っている。
デボシュのガルディアンである。
魔法使いは魔族と契約を結ばなければ、魔法を使ったりすることは出来ない。契約を結んで、特別な関係になった魔族のことをガルディアンと呼ぶ。
魔族の容姿を描写することが出来ない。ただの光と闇の混合で出来た塊といった感じ。
しかしそれがそこに存在していることは事実。
「あんたに手紙が来ているぞ」
魔界にアクセスするや否や、デボシュのガルディアンが語りかけてくる。「最近、あんた宛の手紙が多い。郵便屋さんも大変だな」
魔界に郵便屋などいない。魔界に距離はないから、全ては一瞬で届く。
ジョークのつもりなんだろう。中級レベルの魔族だから、ジョークも中級レベルなのかもしれない。
「ありがとう、すぐに読む」
件名、素手で戦う魔法戦士、か。
「身のこなしに自信があるのなら、防御魔法は魔法を跳ね返す通常のシールドではなく、相手の攻撃を避ける方法で行うべきなのではないだろうか。すなわち、そのような能力を引き出す魔法を習得すべきだと考える」
見知らぬ相手は、このような内容のテキストを書いて寄こしてきた。
掲示板に書き込んで以来、多数の意見が寄せられている。その事実は喜ばしいことであるが、この世には孤独で、暇を持て余す魔法使いたちがたくさんいることが察せられる。
この手紙も、そのような魔法使いが書いたのであろう。
とはいえ、その手紙は、他の意見とは一線を画するものがあった。
他の手紙は、素手で戦う魔法戦士の凄さを賛嘆するばかりで、その弱点を指摘するような意見はない。
結果的に具体性を欠いていた。興味を惹かれた掲示板の書き込みにならば、何にでも反応するタイプの者たちが書いたような意見に過ぎなかった。
しかしこの手紙は違う。冷静にルフェーブの長所と短所を見極めているようだ。
(魔法攻撃をシールドで跳ね返し続けるのではなく、素早い動作と、意表を突いた移動で避ける、か・・・)
なるほど、一理あるとデボシュは素直にその手紙の内容に感心した。
たとえば、ルフェーブの跳躍力を数倍に引き上げるような魔法。
そういう魔法を会得することが出来れば、敵の攻撃を容易に避けることが出来るだろう。いっそのこと、空を飛べるような能力もいいかもしれない。
とにかく、近距離からの連続攻撃を、何度か避けることが出来ればいいのだ。
攻撃魔法にも射程距離がある。近い距離からの攻撃ほど効果的なのは、物理的な攻撃と同じである。
複数の方向に、放射状に広がる攻撃より、一方向に、直線的に伸びてくる魔法のほうが威力は大きいというのも、物理的な法則と同様。
そういうわけだから、近距離からの連続攻撃を避ける能力さえ身につけることが出来れば、中級レベルのシールドでも何とか対処出来るはずなのだ。最初の攻撃をシールドで凌いだ後、安全な場所に移動すればいいのだから。
来た手紙に返事を返すのが、当然の礼儀だ。デボシュは自分の意見を書いて手紙を送った。
すると相手からすぐに返事が来た。
――跳躍力を上げたり、空を飛んだりする魔法では、狭い室内で戦うときに限界があるのではないだろうか。
相手はそう書いてきた。
確かにそうだ。もっともな意見である。
ところで、その者はガリレイと名乗った。男か女かはわからない。名前もきっと、仮名に違いない。遠い昔に、このような名前の有名な魔法使いがいたのだ。
――では、これはどうか。身のこなしを、更に早めるような魔法。たとえば、彼の体重を羽毛のように軽くするとか?
デボシュはこんな提案を書いて、再び送信する。
――面白いかもしれない。しかし自らの身体的な能力を高める魔法は難易度が高い。かなりの上級レベルの魔法使いでも、使いこなせる者は少ないであろう。
(ふーん、そういうものなのか)
――ガリレイ殿、失礼ながらあなたは、プログラミングの知識に相当通じているようだとお見受けするが。
デボシュはそう書いて送った。「自らの身体的な能力を高める魔法は難易度が高い」などという事実、デボシュは知らない。
デボシュは知らないので、その手紙が来たあと、魔法のコードの法則が書かれた書物を読んだり、知り合いの魔法使いの許に直接出向いて教えを乞うたりした。
あまりに難解で複雑な理屈であったが、とにかく人間の身体的な能力をアップさせる魔法が難しいというのは、ガリレイの言う通りのようである。確かに鼠のようにすばしっこく、熊のように力強い魔法使いはいない。
――魔法プログラムについて、多少の心得はある。お望みならば、私がその新しいプログラムを書いてもいい。面白いアイデアがある。空中に階段を作る魔法だ。その階段の材質は空気。更にそれに弾性を持たせる。簡単に言えば、数秒だけ空気に乗れる能力。それならば、相手が予測出来ない動きも可能のはず。
(なるほど、そのガリレイという男は、こうやって生計を立てているのか)
デボシュは思った。
ガリレイという男は、プログラムに無知な魔法使いに直接コンタクトを取り、自分の能力を売り込む。
戦いに参加して金を稼ぐタイプの魔法使いではなく、魔法のコードの作成で金を稼いでいるのであろう。
こういう類の魔法使いと関わりを持つのは、デボシュは初めてだった。
しかし彼らのような者が存在していることは知っている。いわば、デボシュとは正反対のタイプ。戦場ではなく、書斎だけで仕事をする魔法使い。
莫大な報酬を要求されるかもしれないが、しかしガリレイが提示してきたアイデアは悪くなかった。むしろ、デボシュは大いに気に入った。
空中に段を作る魔法、面白そうではないか。
あのルフェーブが、宙を跳ね飛び回るということである。まさに彼の仇名、「シエル・マルシュール」。すなわち空を歩く者。その名の通りの魔法だ。
――ガリレイ殿、あなたのそのアイデア、非常に興味があります。端的に言えば、是非、その仕事を依頼したい。ややこしい駆け引きは面倒です。どれくらい払えば、その仕事をやってくれるのでしょうか?
デボシュは書き送った。
――こちらもまだまだ未熟者。報酬を貰う気はありません。これくらいの魔法のコード、十数日もあれば、書き上げる事が出来るはず。
(ほう、報酬はいらないというのか。しかし当然、その寛大さの裏には、何か必ずどす黒い企みが潜んでいるはず)
魔法使いは強欲な生き物である。魔法を使うごとに宝石を消費するのだから、魔法使いとして生きるには莫大な経費がかかる。彼らに遠慮という言葉は存在しない。
デボシュは警戒しながら、更にその手紙を読み進める。
――とはいえ、こちらから要求があるとすれば、その魔法が実際に使われている姿を見たいこと。しかしこちらの正体を明かしたくはないので、何か方法を考えて欲しい。
(それは簡単に解決する。彼が闘技場の観客として、ここに来ればいいのだ。大勢の客の中に紛れ込めば、ガリレイが何者なのか特定することは出来ない)
ルフェーブにとっても、この闘技場での戦いはしばらく必要なはずだ。
新しく覚えた魔法を実戦で使いこなせるようになるには、それなりの経験が必要であることを、デボシュは知っている。ましてルフェーブは魔法の初心者。闘技場での戦いは、その練習の場として、これ以上ない場所である。
――それともう一つ。もしかしたら、何かの仕事を依頼することもあるかもしれない。その暁には、是非受け入れて欲しいこと。
ガリレイは更にそう書いていた。
――仕事? すなわち何者かとの戦闘ということでしょうか?
――そういうことになるだろう。
別に断るほどのことではない。一度か二度の戦闘くらいなら、何の問題もないだろう。
――それでは契約成立ということで。完成を楽しみにしております。
所詮、無料の仕事だ。プログラム書きとして未熟だと、ガリレイが自ら書いていたくらいである。デボシュは彼の仕事にそれほどの期待をしていなかった。
もし当初の予定通りに完成すれば、それはとてつもなく斬新な魔法コードになるはずで、それ程に革新的な仕事を、無名の魔法使いに成し遂げることが可能だとは思えない。
だからガリレイとの契約が成立しても、デボシュの心は一向に晴れることはなかった。
そのようなプログラムを本当に作成することの出来る、優秀なコード書きを探さなければいけないと日々心を砕いていた。
少しプログラムの心得のある、知り合いの魔法使いも言っていた。
「そのような魔法コードが書けたとしても、とてつもなく複雑なプログラムになるだろうな。そこらのプログラム書きでは不可能さ」
「やはり、そうだろうね」
デボシュも同意する。
「体重が七十キロ以上ある人間を、どうやって空気の上に立たせるのか。当然、エーテル理論を使うのだろうけど」
ほとんど全ての魔法のコードは、その理論によって成立している。デボシュでも、それくらいの知識はある。
この世界は、目には見えないエーテルというものが充満していて、あらゆる自然現象はそのエーテルの存在によって説明されるという考え方だ。
魔族はそのエーテルの中を自由に移動することが出来る、らしい。
それがエーテル理論の基本的な考え方である。その理論が提唱されて、魔法はその自由度を飛躍的に増した。
「しかしエーテル理論を使っても、自然の法則を引っくり返すことは当然出来ない。いったいどうやって、人間を空気の上に立たせるのだろうか? 俺には見当がつかないな」
あんたは騙されているんだよ、その魔法使いはデボシュを嘲笑う。
「ガリレイは、空気を圧縮して利用するつもりだと、書いて寄こしてきたが」
「空気を圧縮? 魔族にそんなことをさせるわけか。しかしそれで人間が空気の上に立つことが出来るのだろうか? 俺にはわからないね」
いくらかプログラムに心得のある、知り合いの魔法使いはそう言って、匙を上げた。
(俺にも訳がわからないぜ)
しかしガリレイはそれを完成させたのである。しかもそれはとてつもない代物であった。
どのような理論、数式、定理、あるいはアルゴリズムを使って、そのコードを作成したのか、デボシュの力では読み解くことも出来ない。
しかし実際に、ルフェーブは宙を華麗に、舞い始めた。
そこは荒涼とした岩だらけのでこぼこした大地で、当然、太陽もなく、月も星もない。
花も咲いていない。木々の緑もない。鳥もいない。猫もいない。青い空だってない。岩だらけに見えるが、それが岩なのかも定かではない。
しかしその荒涼とした地に、一つだけ小屋が建っている。木の板で作られた掘っ立て小屋。
その小屋の前に魔族が立っている。
デボシュのガルディアンである。
魔法使いは魔族と契約を結ばなければ、魔法を使ったりすることは出来ない。契約を結んで、特別な関係になった魔族のことをガルディアンと呼ぶ。
魔族の容姿を描写することが出来ない。ただの光と闇の混合で出来た塊といった感じ。
しかしそれがそこに存在していることは事実。
「あんたに手紙が来ているぞ」
魔界にアクセスするや否や、デボシュのガルディアンが語りかけてくる。「最近、あんた宛の手紙が多い。郵便屋さんも大変だな」
魔界に郵便屋などいない。魔界に距離はないから、全ては一瞬で届く。
ジョークのつもりなんだろう。中級レベルの魔族だから、ジョークも中級レベルなのかもしれない。
「ありがとう、すぐに読む」
件名、素手で戦う魔法戦士、か。
「身のこなしに自信があるのなら、防御魔法は魔法を跳ね返す通常のシールドではなく、相手の攻撃を避ける方法で行うべきなのではないだろうか。すなわち、そのような能力を引き出す魔法を習得すべきだと考える」
見知らぬ相手は、このような内容のテキストを書いて寄こしてきた。
掲示板に書き込んで以来、多数の意見が寄せられている。その事実は喜ばしいことであるが、この世には孤独で、暇を持て余す魔法使いたちがたくさんいることが察せられる。
この手紙も、そのような魔法使いが書いたのであろう。
とはいえ、その手紙は、他の意見とは一線を画するものがあった。
他の手紙は、素手で戦う魔法戦士の凄さを賛嘆するばかりで、その弱点を指摘するような意見はない。
結果的に具体性を欠いていた。興味を惹かれた掲示板の書き込みにならば、何にでも反応するタイプの者たちが書いたような意見に過ぎなかった。
しかしこの手紙は違う。冷静にルフェーブの長所と短所を見極めているようだ。
(魔法攻撃をシールドで跳ね返し続けるのではなく、素早い動作と、意表を突いた移動で避ける、か・・・)
なるほど、一理あるとデボシュは素直にその手紙の内容に感心した。
たとえば、ルフェーブの跳躍力を数倍に引き上げるような魔法。
そういう魔法を会得することが出来れば、敵の攻撃を容易に避けることが出来るだろう。いっそのこと、空を飛べるような能力もいいかもしれない。
とにかく、近距離からの連続攻撃を、何度か避けることが出来ればいいのだ。
攻撃魔法にも射程距離がある。近い距離からの攻撃ほど効果的なのは、物理的な攻撃と同じである。
複数の方向に、放射状に広がる攻撃より、一方向に、直線的に伸びてくる魔法のほうが威力は大きいというのも、物理的な法則と同様。
そういうわけだから、近距離からの連続攻撃を避ける能力さえ身につけることが出来れば、中級レベルのシールドでも何とか対処出来るはずなのだ。最初の攻撃をシールドで凌いだ後、安全な場所に移動すればいいのだから。
来た手紙に返事を返すのが、当然の礼儀だ。デボシュは自分の意見を書いて手紙を送った。
すると相手からすぐに返事が来た。
――跳躍力を上げたり、空を飛んだりする魔法では、狭い室内で戦うときに限界があるのではないだろうか。
相手はそう書いてきた。
確かにそうだ。もっともな意見である。
ところで、その者はガリレイと名乗った。男か女かはわからない。名前もきっと、仮名に違いない。遠い昔に、このような名前の有名な魔法使いがいたのだ。
――では、これはどうか。身のこなしを、更に早めるような魔法。たとえば、彼の体重を羽毛のように軽くするとか?
デボシュはこんな提案を書いて、再び送信する。
――面白いかもしれない。しかし自らの身体的な能力を高める魔法は難易度が高い。かなりの上級レベルの魔法使いでも、使いこなせる者は少ないであろう。
(ふーん、そういうものなのか)
――ガリレイ殿、失礼ながらあなたは、プログラミングの知識に相当通じているようだとお見受けするが。
デボシュはそう書いて送った。「自らの身体的な能力を高める魔法は難易度が高い」などという事実、デボシュは知らない。
デボシュは知らないので、その手紙が来たあと、魔法のコードの法則が書かれた書物を読んだり、知り合いの魔法使いの許に直接出向いて教えを乞うたりした。
あまりに難解で複雑な理屈であったが、とにかく人間の身体的な能力をアップさせる魔法が難しいというのは、ガリレイの言う通りのようである。確かに鼠のようにすばしっこく、熊のように力強い魔法使いはいない。
――魔法プログラムについて、多少の心得はある。お望みならば、私がその新しいプログラムを書いてもいい。面白いアイデアがある。空中に階段を作る魔法だ。その階段の材質は空気。更にそれに弾性を持たせる。簡単に言えば、数秒だけ空気に乗れる能力。それならば、相手が予測出来ない動きも可能のはず。
(なるほど、そのガリレイという男は、こうやって生計を立てているのか)
デボシュは思った。
ガリレイという男は、プログラムに無知な魔法使いに直接コンタクトを取り、自分の能力を売り込む。
戦いに参加して金を稼ぐタイプの魔法使いではなく、魔法のコードの作成で金を稼いでいるのであろう。
こういう類の魔法使いと関わりを持つのは、デボシュは初めてだった。
しかし彼らのような者が存在していることは知っている。いわば、デボシュとは正反対のタイプ。戦場ではなく、書斎だけで仕事をする魔法使い。
莫大な報酬を要求されるかもしれないが、しかしガリレイが提示してきたアイデアは悪くなかった。むしろ、デボシュは大いに気に入った。
空中に段を作る魔法、面白そうではないか。
あのルフェーブが、宙を跳ね飛び回るということである。まさに彼の仇名、「シエル・マルシュール」。すなわち空を歩く者。その名の通りの魔法だ。
――ガリレイ殿、あなたのそのアイデア、非常に興味があります。端的に言えば、是非、その仕事を依頼したい。ややこしい駆け引きは面倒です。どれくらい払えば、その仕事をやってくれるのでしょうか?
デボシュは書き送った。
――こちらもまだまだ未熟者。報酬を貰う気はありません。これくらいの魔法のコード、十数日もあれば、書き上げる事が出来るはず。
(ほう、報酬はいらないというのか。しかし当然、その寛大さの裏には、何か必ずどす黒い企みが潜んでいるはず)
魔法使いは強欲な生き物である。魔法を使うごとに宝石を消費するのだから、魔法使いとして生きるには莫大な経費がかかる。彼らに遠慮という言葉は存在しない。
デボシュは警戒しながら、更にその手紙を読み進める。
――とはいえ、こちらから要求があるとすれば、その魔法が実際に使われている姿を見たいこと。しかしこちらの正体を明かしたくはないので、何か方法を考えて欲しい。
(それは簡単に解決する。彼が闘技場の観客として、ここに来ればいいのだ。大勢の客の中に紛れ込めば、ガリレイが何者なのか特定することは出来ない)
ルフェーブにとっても、この闘技場での戦いはしばらく必要なはずだ。
新しく覚えた魔法を実戦で使いこなせるようになるには、それなりの経験が必要であることを、デボシュは知っている。ましてルフェーブは魔法の初心者。闘技場での戦いは、その練習の場として、これ以上ない場所である。
――それともう一つ。もしかしたら、何かの仕事を依頼することもあるかもしれない。その暁には、是非受け入れて欲しいこと。
ガリレイは更にそう書いていた。
――仕事? すなわち何者かとの戦闘ということでしょうか?
――そういうことになるだろう。
別に断るほどのことではない。一度か二度の戦闘くらいなら、何の問題もないだろう。
――それでは契約成立ということで。完成を楽しみにしております。
所詮、無料の仕事だ。プログラム書きとして未熟だと、ガリレイが自ら書いていたくらいである。デボシュは彼の仕事にそれほどの期待をしていなかった。
もし当初の予定通りに完成すれば、それはとてつもなく斬新な魔法コードになるはずで、それ程に革新的な仕事を、無名の魔法使いに成し遂げることが可能だとは思えない。
だからガリレイとの契約が成立しても、デボシュの心は一向に晴れることはなかった。
そのようなプログラムを本当に作成することの出来る、優秀なコード書きを探さなければいけないと日々心を砕いていた。
少しプログラムの心得のある、知り合いの魔法使いも言っていた。
「そのような魔法コードが書けたとしても、とてつもなく複雑なプログラムになるだろうな。そこらのプログラム書きでは不可能さ」
「やはり、そうだろうね」
デボシュも同意する。
「体重が七十キロ以上ある人間を、どうやって空気の上に立たせるのか。当然、エーテル理論を使うのだろうけど」
ほとんど全ての魔法のコードは、その理論によって成立している。デボシュでも、それくらいの知識はある。
この世界は、目には見えないエーテルというものが充満していて、あらゆる自然現象はそのエーテルの存在によって説明されるという考え方だ。
魔族はそのエーテルの中を自由に移動することが出来る、らしい。
それがエーテル理論の基本的な考え方である。その理論が提唱されて、魔法はその自由度を飛躍的に増した。
「しかしエーテル理論を使っても、自然の法則を引っくり返すことは当然出来ない。いったいどうやって、人間を空気の上に立たせるのだろうか? 俺には見当がつかないな」
あんたは騙されているんだよ、その魔法使いはデボシュを嘲笑う。
「ガリレイは、空気を圧縮して利用するつもりだと、書いて寄こしてきたが」
「空気を圧縮? 魔族にそんなことをさせるわけか。しかしそれで人間が空気の上に立つことが出来るのだろうか? 俺にはわからないね」
いくらかプログラムに心得のある、知り合いの魔法使いはそう言って、匙を上げた。
(俺にも訳がわからないぜ)
しかしガリレイはそれを完成させたのである。しかもそれはとてつもない代物であった。
どのような理論、数式、定理、あるいはアルゴリズムを使って、そのコードを作成したのか、デボシュの力では読み解くことも出来ない。
しかし実際に、ルフェーブは宙を華麗に、舞い始めた。
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