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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第一章 10)手助け
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塔の中央のホールは、信じられないくらいの人数で溢れている。
やはりこの事態は異常だろう。普段の、暗く静まり返った塔とはまるで違う。
多くの客たちは期待と苛立ちの入り混ざった表情で、この塔の主が迎えるのを今か今かと待ち侘びている様子。
いや、期待よりも苛立ちのほうが勝っているかもしれない。もうかなりの時間、何の説明もなく、ただただ待ちぼうけを喰らわされているわけなのだから。
彼らがとりあえず大人しく待っているのは、この苛立ちを誰にぶつければいいのかわからないからに過ぎない。
この場の責任者を突き止めれば、早くプラーヌスに会わせろと、せっついてくるであろう。
そしてその場の責任者というのが私なのである。
「もしかして、召使いたちの暴動?」
一端、私の前を去ろうとしたアリューシアであったが、やはり彼女の目にも、この状況は異常なことと映っているのだろう、私にそのようなことを尋ねてきた。
「ち、違うよ、君たちと同じ、街からの客さ。新しい魔法使いがこの塔の主人となったことを知って、やってきたらしい」
「へえ、さすがプラーヌス様、大人気なのね」
「そんな呑気なことを言っている場合じゃないさ。こっちは人手が本当に足りなくて困っている。はっきり言って、君たちの面倒を看ている時間もないんだ」
そうは言いつつも、この状況を前に何か対応策を思いつくわけでもなく、私はただ手をこまねいて見ているだけなのであるが。
「でもこの塔には、召使いが大勢働いているみたいだけど? 私たちの屋敷よりもはるかに多く。彼らに命令すればいいんじゃないの?」
「それはそうだけど、仕事熱心な召使いの数は少なくてね」
私は思わず遠来の客を相手に、日頃の愚痴を漏らしてしまう。しかも自分よりもはるかに年若のアリューシアに向かって。
「彼らは召使いというより、この塔に間借りしている同居人のようなものなのさ。とてもマイペースで、自分の生活を第一に考えている」
「あなたも苦労しているようなのね」
アリューシアは私に心底同情するように言ってきた。
「ま、まあそうだね」
「何も悩みがなさそうな顔をしているけど、そうでもないのね」
「そんなふうに見えていたのは心外だけど。悩みが多いことは君の言うとおりだ」
「わかったわ、じゃあ、私たちが何とかしてあげる」
唐突に、アリューシアが言った。
「はあ、何だって?」
「サンチーヌ、手助けしてあげて」
「かしこまりました、お嬢様」
私とアリューシアのこれまでの遣り取りを、背後に控えながらも素知らぬ表情で聞いていたサンチーヌが、迷いなくそう返事をした。
「手助け?」
私はアリューシアの言葉を聞き返す。
「そう、手助けしてあげるわ。この塔には、これからしばらお世話になるわけだし。それに失礼だけど、あなたはそれほど有能そうでもない」
「はあ・・・」
「だからサンチーヌたちの力を貸してあげる。彼らは経験豊かな執事なのよ。これくらいの客、ササッと捌いてみせるわ」
ああ、お腹が空いた。
「ミリューとアバンドンは、さっさと食事の準備にかかって」
アリューシアはそう言うと、私への興味をすっかりなくしたという表情で、さっさと扉の方に向かっていった。その彼女の後を、肉付き豊かな巨漢の男と、涼やかな顔をした長身の男がついていく。
「この仕事が一段落すれば、あなたたちも朝食を食べに来ていいわ」
アリューシアは他の召使いたちにもそう言い残し、ホールから出ていった。
やはりこの事態は異常だろう。普段の、暗く静まり返った塔とはまるで違う。
多くの客たちは期待と苛立ちの入り混ざった表情で、この塔の主が迎えるのを今か今かと待ち侘びている様子。
いや、期待よりも苛立ちのほうが勝っているかもしれない。もうかなりの時間、何の説明もなく、ただただ待ちぼうけを喰らわされているわけなのだから。
彼らがとりあえず大人しく待っているのは、この苛立ちを誰にぶつければいいのかわからないからに過ぎない。
この場の責任者を突き止めれば、早くプラーヌスに会わせろと、せっついてくるであろう。
そしてその場の責任者というのが私なのである。
「もしかして、召使いたちの暴動?」
一端、私の前を去ろうとしたアリューシアであったが、やはり彼女の目にも、この状況は異常なことと映っているのだろう、私にそのようなことを尋ねてきた。
「ち、違うよ、君たちと同じ、街からの客さ。新しい魔法使いがこの塔の主人となったことを知って、やってきたらしい」
「へえ、さすがプラーヌス様、大人気なのね」
「そんな呑気なことを言っている場合じゃないさ。こっちは人手が本当に足りなくて困っている。はっきり言って、君たちの面倒を看ている時間もないんだ」
そうは言いつつも、この状況を前に何か対応策を思いつくわけでもなく、私はただ手をこまねいて見ているだけなのであるが。
「でもこの塔には、召使いが大勢働いているみたいだけど? 私たちの屋敷よりもはるかに多く。彼らに命令すればいいんじゃないの?」
「それはそうだけど、仕事熱心な召使いの数は少なくてね」
私は思わず遠来の客を相手に、日頃の愚痴を漏らしてしまう。しかも自分よりもはるかに年若のアリューシアに向かって。
「彼らは召使いというより、この塔に間借りしている同居人のようなものなのさ。とてもマイペースで、自分の生活を第一に考えている」
「あなたも苦労しているようなのね」
アリューシアは私に心底同情するように言ってきた。
「ま、まあそうだね」
「何も悩みがなさそうな顔をしているけど、そうでもないのね」
「そんなふうに見えていたのは心外だけど。悩みが多いことは君の言うとおりだ」
「わかったわ、じゃあ、私たちが何とかしてあげる」
唐突に、アリューシアが言った。
「はあ、何だって?」
「サンチーヌ、手助けしてあげて」
「かしこまりました、お嬢様」
私とアリューシアのこれまでの遣り取りを、背後に控えながらも素知らぬ表情で聞いていたサンチーヌが、迷いなくそう返事をした。
「手助け?」
私はアリューシアの言葉を聞き返す。
「そう、手助けしてあげるわ。この塔には、これからしばらお世話になるわけだし。それに失礼だけど、あなたはそれほど有能そうでもない」
「はあ・・・」
「だからサンチーヌたちの力を貸してあげる。彼らは経験豊かな執事なのよ。これくらいの客、ササッと捌いてみせるわ」
ああ、お腹が空いた。
「ミリューとアバンドンは、さっさと食事の準備にかかって」
アリューシアはそう言うと、私への興味をすっかりなくしたという表情で、さっさと扉の方に向かっていった。その彼女の後を、肉付き豊かな巨漢の男と、涼やかな顔をした長身の男がついていく。
「この仕事が一段落すれば、あなたたちも朝食を食べに来ていいわ」
アリューシアは他の召使いたちにもそう言い残し、ホールから出ていった。
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