私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 4)死をもたらす側

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 この塔の管理人になり、プラーヌスと共に生活するようになって、私の人生は激変した。そんなこと改めて言うまでもないだろう。
 これまでの生活、それはもう実に静かなもので、朝日が昇ると共に起床し、母や姉と朝食を摂ったあと、絵の具の準備をして、太陽が沈むまで仕事をする。
 私の仕事、絵を描くこと。貴族や商人などから依頼を受けて、肖像画を描いて、いくばくかの報酬をもらい、どうにか生活をしてきた。
 私が暮らしていた港町はとても静かところで、政変もなく、戦争もなく、昨日と今日がほとんど同じで、明日を迎えることが出来るかどうかなんて不安はなかった。

 確かに森には狼たちが生息して、城壁の外を出れば、盗賊団が跋扈していた。
 隣の国は隣の隣の国と戦争し、酒場で隣り合わせた男は傭兵で、昨日まで戦場にいたことを悲しげに話したりしていた。
 しかし私自身、剣など握ったことはない。人を殺したことも、誰かが殺される瞬間に居合わせたこともなく、野原に打ち捨てられた死体を見たことすらなかった。
 死は遠い国の出来事。私の不安はもっぱら仕事のことだけ、来月も肖像画の依頼が来るかどうか、完成した肖像画が気に入られるかどうかだけ。

 そんな平穏な生活が一変したのである。プラーヌスの塔で生活するようになって、私はどれだけの「死」と対面したことであろうか。
 目の前で、大量の「死」が発生した。私のすぐ横を、「死」がかすめ通っていったこともある。愛する者の「死」をその細い腕いっぱいに抱えて、途方に暮れている少女を前に、途方に暮れたこともある。「死」はあまりにも身近なものになった。
 しかし、だからといってそれに馴れるなんてことはない。
 死は異様だ。不気味だ。恐怖だ。出来ることなら、もう永遠にそれと関わりたくなどない。出来ることならば、それから逃げ続けたい。
 当然、「死」をもたらす側になんて絶対に立ちたくない。それを引き留めることが出来るなら、全ての力を捧げて引き留めたい。

 もちろん、私だっては理解している。アリューシアの両親は、あのようにして殺されたのだ。彼女が生まれ育った街や屋敷は燃やされ、財産は強奪された。平静でいることなんて不可能だろう。
 しかし誰かを殺すということの本当の意味を君は理解しているのか、私はそんなふうにアリューシアにも尋ねたくて、問い詰めたくて、彼女の言葉を黙って聞いているわけにいかなかった。
 相手は普通の兵士だ。きっと、ギャラック家の命令に従っただけの男たち。彼らにも家族がいて、友人がいる。
 もしその兵士たちを殺せば、君はその者の家族や友人から恨みを買うことになる。君がギャラックに抱いた同じ怒りを、相手に産みつけることになる。君はそんなことを耐えられるのか? 

 結局、私はその考えを伝えることは出来なかった。敵はすぐ目の前に居る。そのような余裕も時間もなかった。何より、私の弁舌はそれほど滑らかではない。
 しかしアリューシアは私の表情から何か悟ったようだった。

 「世界なんて、そんなものでしょ? 何か問題でもあるの?」

 彼女は私に言った。それがアリューシアの回答のようだった。そして彼女は少しの躊躇もなく、身を隠していた物陰から出ていく。

 「探しているのは私でしょ?」

 アリューシアは言い放つ。

 私は彼女の行動に呆気に取られた。いや、それ以上に、兵士たちが驚いたようだ。鎧に身を固めた兵士の前に武器を持たない少女が一人。その物陰から子猫が出てきたとしても、兵士たちはこれほど戸惑うことはなかったかもしれない。

 「えーと、お嬢ちゃん」

 兵士たちは顔を見合わせる。誰がこの子の相手をするんだという感じで、その役目を譲り合うような仕草を見せる。
 しかし彼らも愚かではない。自分たちが追いかけていたのは複数だということを認識していたはずだ。実際、すぐにその事実に気づいた。

 「仲間もそこにいるのかな?」

 兵士の一人が問い掛けたようだ。

 「仲間? いるわ。でもあなたたちの相手なんて、私一人で充分なわけよ。だって私は魔法使いだから」

 「何だと!」

 再び鎧のプレートの音が夜に響く。兵士たちは警戒心の高まりと共に、武器を持ち直したようだ。
 金具がこすれる音は、暗い夜の中に嫌に目立ち、私の神経に突き刺さる。その音は今からここで特別な事件、すなわち戦闘が勃発するぞと、盛大に知らしめる合図。誰かがどこかで、耳をひそめて聞いている予感が、夜に漲っている。

 「しかもね、あなたたちにかなりの恨みがある。今から容赦なく殺すから、最後に何か言い残したこととか、ある?」

 しかしアリューシアはその予感を気にもかけないように、敵の兵士たちを更に挑発する。
 ずっと身体の小さな娘が、男たちを居丈高に脅している。しかし敵の兵士たちは誰も笑ったりしない。「魔法使い」という自己紹介はそれほど衝撃的な言葉なのである。それを冗談として受け取ったものは誰もいなかったようだ。
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