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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第二章 7)アリューシアの章
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そこはこの城館の応接の広間。ボーアホーブ家を訪れた客たちの多くは、この部屋に通され、城主であるアリューシアの父と会うことになる。
広い部屋のはずなのだが、ボーアホーブ家の威勢を誇るかのように様々な調度品で飾り立てられているので、むしろ狭く見えてしまうほどだ。
大きな絵画、代々に伝わる騎士の甲冑、巨大な円卓、クッション仕立ての長椅子、真っ赤な絨毯。それ以外にも高価な装飾品が部屋に並んでいる。
あの魔法使いも、その応接の間にいるらしい。アリューシアは妙な好奇心に駆られ、父と兄のあとを追う。
普段なら大切な客との接見に立ち会うのは許されるはずがないが、今はそれどころではないようだった。誰も彼女の行動を咎めなかった。
アリューシアはその部屋をそっと覗き込んだ瞬間、言葉を失うほどの驚きを覚えた。
剣を振りかざした騎士が数十人、この部屋にいたとしても、このような異変を巻き起こしたりはしなかっただろう。
その男性はまるで、まっさらな羊皮紙に垂れてしまった黒いインクのように目立っていた。
(あるいは切れ味の良いナイフで飛び散った鮮血のように)
とても見慣れた部屋の光景が、そのたった一人の闖入者の存在によって、まるで一変されていたのだ。
(な、何、この人?)
その人は魔法使いらしい。だからアリューシアは、何らかの魔法が使われているのかと思った。しかし他の誰も、アリューシアのように衝撃を感じていない。このような精神状態になっているのはアリューシアだけだった。
アリューシアはそれと知らず、その魔法使いの男の姿にトキメキを感じていたのだ。それは魔法でも何でもなく、ただの恋の。
「プラーヌス殿です」
兄のアランが、父に向かって彼を紹介する。
プラーヌスと紹介された男性は椅子に座ったまま会釈を返す。
「有名な魔法使いと聞いたが」
父が彼の向かいの椅子にドカリと腰をかけた。どうやらその来客の無礼さに腹を立てているようだ。この城館の主が部屋に来たというのに、座ったまま挨拶を返したのだから。
「あなたは有名な貴族さんだとか?」
しかもその魔法使いは、父の最初の言葉にそう言い返す。
「私が有名な貴族だと?」
彼の無礼な態度にあからさまに腹を立て、父は声を荒げた。「君は我々を助けるために、ここに来たのではないのか?」
「僕は金貨を稼ぎに来ただけです。別にあなたたちを助けるためでもなければ、あなたたちと親交を結ぶためでもありませんよ」
「父上、この者は噂通り、卓越した魔法の使い手です」
二人の間を取り成すように、アランが言った。
「まあ、いい。さっさと本題に入ろう。君は相手の魔法使いを殺してくれるのか?」
父が怒りをグッと飲み込んで、そう言った。
「戦場において、雇われの魔法使いをみだりに殺すことは厭われています。それが魔法使い同士の暗黙の了解。私はその男に何の恨みもない」
「ならば?」
「僕はその相手の魔法使いを殺すことはありえない」
「何だと!」
父はカッとして机を叩き、そう怒鳴った。「では、まるで役に立たないではないか。横柄な態度で、よくもこのようなことをのうのと! アラン、お前はとんだ子供の遣いだったな。もういい、追い返せ」
そんな父を冷ややかに見ながら、その魔法使いは静かに続けた。
「話は最後までお聞き願いたい。その魔法使いを殺すことはありえない、僕はそう言っただけです。しかしあなたたちの戦いに、僕の力が有用なことは明らか」
「父上、聞きましょう」
席を立ちかけた父を制して、アランが言った。「プラーヌス殿、続けて下さい」
広い部屋のはずなのだが、ボーアホーブ家の威勢を誇るかのように様々な調度品で飾り立てられているので、むしろ狭く見えてしまうほどだ。
大きな絵画、代々に伝わる騎士の甲冑、巨大な円卓、クッション仕立ての長椅子、真っ赤な絨毯。それ以外にも高価な装飾品が部屋に並んでいる。
あの魔法使いも、その応接の間にいるらしい。アリューシアは妙な好奇心に駆られ、父と兄のあとを追う。
普段なら大切な客との接見に立ち会うのは許されるはずがないが、今はそれどころではないようだった。誰も彼女の行動を咎めなかった。
アリューシアはその部屋をそっと覗き込んだ瞬間、言葉を失うほどの驚きを覚えた。
剣を振りかざした騎士が数十人、この部屋にいたとしても、このような異変を巻き起こしたりはしなかっただろう。
その男性はまるで、まっさらな羊皮紙に垂れてしまった黒いインクのように目立っていた。
(あるいは切れ味の良いナイフで飛び散った鮮血のように)
とても見慣れた部屋の光景が、そのたった一人の闖入者の存在によって、まるで一変されていたのだ。
(な、何、この人?)
その人は魔法使いらしい。だからアリューシアは、何らかの魔法が使われているのかと思った。しかし他の誰も、アリューシアのように衝撃を感じていない。このような精神状態になっているのはアリューシアだけだった。
アリューシアはそれと知らず、その魔法使いの男の姿にトキメキを感じていたのだ。それは魔法でも何でもなく、ただの恋の。
「プラーヌス殿です」
兄のアランが、父に向かって彼を紹介する。
プラーヌスと紹介された男性は椅子に座ったまま会釈を返す。
「有名な魔法使いと聞いたが」
父が彼の向かいの椅子にドカリと腰をかけた。どうやらその来客の無礼さに腹を立てているようだ。この城館の主が部屋に来たというのに、座ったまま挨拶を返したのだから。
「あなたは有名な貴族さんだとか?」
しかもその魔法使いは、父の最初の言葉にそう言い返す。
「私が有名な貴族だと?」
彼の無礼な態度にあからさまに腹を立て、父は声を荒げた。「君は我々を助けるために、ここに来たのではないのか?」
「僕は金貨を稼ぎに来ただけです。別にあなたたちを助けるためでもなければ、あなたたちと親交を結ぶためでもありませんよ」
「父上、この者は噂通り、卓越した魔法の使い手です」
二人の間を取り成すように、アランが言った。
「まあ、いい。さっさと本題に入ろう。君は相手の魔法使いを殺してくれるのか?」
父が怒りをグッと飲み込んで、そう言った。
「戦場において、雇われの魔法使いをみだりに殺すことは厭われています。それが魔法使い同士の暗黙の了解。私はその男に何の恨みもない」
「ならば?」
「僕はその相手の魔法使いを殺すことはありえない」
「何だと!」
父はカッとして机を叩き、そう怒鳴った。「では、まるで役に立たないではないか。横柄な態度で、よくもこのようなことをのうのと! アラン、お前はとんだ子供の遣いだったな。もういい、追い返せ」
そんな父を冷ややかに見ながら、その魔法使いは静かに続けた。
「話は最後までお聞き願いたい。その魔法使いを殺すことはありえない、僕はそう言っただけです。しかしあなたたちの戦いに、僕の力が有用なことは明らか」
「父上、聞きましょう」
席を立ちかけた父を制して、アランが言った。「プラーヌス殿、続けて下さい」
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