私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第三章 4)塔の主の敵

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 「い、生きているですって? ほ、本当ですか?」

 私は一瞬躊躇したが、サンチーヌと同じようにその男性の心臓に耳を当てる。
 確かに鼓動が聞こえた。弱々しい音であったが、これは間違いなく生きているという証拠。

 何だか死体が蘇ったような不気味な出来事。
 いや、そもそも死んでいるという認識が、誰かの早とちりだったわけであるが、この事実に寒気のようなものを感じる。

 「い、急いで医者に見せましょう」

 こっちよ、リオンおじさん。
 ちょうどそのとき、その声と共に足音が近づいてきた。
 アビュに引っ張られるようにリオンおじさんが現れた。

 「まだ生きているようです」

 私はノロノロと歩いているリオンおじさんを急かす。「助かるかもしれません」

 「何だって? 死体と聞いていたが」

 「いえ、生きているようです」

 「どれどれ?」

 ようやくリオンおじさんは患者のもとに辿り着き、治療を始める。額の血を拭い、傷口を確かめる。閉じている瞼をこじ開け、それを子細に眺めたりしている。

 その瀕死の重傷人は中年の男だった。
 無精髭を蓄え、腰に剣を吊るしている。足元は黒いブーツだ。
 魔法使いであることに間違いないだろうが、プラーヌスのような典型的な魔法使いの装束を身にまとっているわけではない。むしろ一般的な旅人といった雰囲気。

 「頭の傷はそれほど深くない。この怪我で死ぬことはないだろう。他に外傷もない。しばらくすれば意識を取り戻すはずだ。何かの魔法に掛けられていなければ、な」

 とにかく病室に運ぼう。リオンおじさんはこの怪我人を運ぶように促してくる。
 私は近くにいた召使たちに指示を出す。二人はその怪我人を抱え上げ、西の塔にある医務室に向かって歩いていった。

 頭から血を流している男性が運ばれていって、現場に流れていた切迫した空気が解消された。
 野次馬たちも散ってゆく。召使いたちも仕事に戻るだろう。私もホッと一息つく。

 「しかしこれで良かったのかな」

 私は運ばれていく男性の姿を見送りながら、独り言のような振りをしつつ、サンチーヌに向かってつぶやいた。
 「どうしてですか?」とサンチーヌがいぶかしげに首を傾げて私を見てくる。

 「た、多分、さっきの男性を怪我させたのはプラーヌスですよ。だとすると、あの男性は敵だったってことになる。そんな人間を助けるべきかなのかどうか・・・」

 「なるほど、その推測が正しければ、お叱りを受けるかもしれませんね」

 「はい、彼は機嫌を損ねるかもしれない。いや、逆に、さっきの男性は傷が癒えると、またプラーヌスに戦いを挑むかもしれない。まあ、プラーヌスがやられることはないでしょうけど」

 プラーヌスほどの魔法使いだ。彼に殺意があれば、どんな相手でも確実に殺しているはず。
 先程の男性が怪我だけですんでいるのは、彼にその気がなかったという証拠かもしれない。

 「いずれにしろ、瀕死の人間を放っておくわけにもいきません」

 サンチーヌは言った。

 「そうですね。難しい選択だけど、これで良かったんでしょう」

 夕方、プラーヌスと会うときに、ことの経緯を聞いておかなければいけない。そしてあの男性をどのように扱うべきかも。

 私は更に床の血をきれいに拭き取るよう、召使いに指示を出す。
 先程、サンチーヌが男の身元を特定するため、彼の懐から取り出した革袋や剣なども散らばっていた。それも手の空いている召使いに、医務室まで運ぶように伝える。
 しかし宝石が大量に入っている革袋は、彼らに預けるわけにはいかないだろう。それだけ自ら保管することにする。
 ざっと見た感じ、大きなダイヤモンドが幾つかゴロゴロしている。それ以外にもエメラルドにサファイア、アメジスト、オパール、高価な宝石ばかりだ。
 しかし私がその革袋を懐に入れようとすると、まだ残っている野次馬たちが何とも恨めしげな視線を送ってきた。
 どうやら私は自分の地位を利用して、怪我人の物を横取りしようとしていると思われているようだ。
 それは大変な誤解だ。

 私はどうするべきか散々迷った挙句、それをサンチーヌに手渡した。

 「サ、サンチーヌ、とりあえずこれを預かっておいて欲しい」

 「わかりました、保管しておきます。塔の主に、この宝石をどうするべきか相談しましょう。もし彼がこの塔の主の敵ならば、そのまま返すわけにもいきませんし」

 「ああ、うん」

 サンチーヌは私の意図を理解してくれたようだ。この宝石を我々が別に私物化するわけではないことを、召使いたちに向かって上手く説明してくれようである。
 共通語を理解しない召使いたちが全てを納得したかどうかはわからないけれど、刺々しい空気は緩んだことは事実。
 私はサンチーヌに感謝しないわけにはいなかった。彼は私が思っていたよりも、ずっと気が利く男のようだ。
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