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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第五章 10)シュショテの片想い
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かなり心優しくて思いやりのある少年だと思っていた。
しかしそんなシュショテでも、アリューシアと接するのは我慢出来ないようである。
直接そんなことを言ってくるわけではなかったが、もう二度と彼女には会いたくない、彼の態度はそんな感じなのである。
しかしシュショテ少年は、やはり優しい心根の持ち主だ。
「もちろん無理にとは言わないけど。少し彼女のことを気にかけてくれるだけでかまわない。一見傲慢だし、言葉遣いも乱暴だけど悪い奴じゃない。君もきっと、彼女の良い部分に気づくはずだよ」
私が哀願するようにそう言うと、「わかりました。勉強を教えてくれと言われたら付き合います」と不承不承ながらも応えてくれる。
「すまないね」
私は彼をいたわるように声を掛ける。シュショテが何度か私に頭を下げながら去ってゆく。私も思わず彼につられて何度も頭を下げる。
アリューシアはこの塔に来るべきではなかっただろう。プラーヌスに憧れるるべきではなかっただろう。
まして魔法使いを志すなんて大間違いだった。
しかしもし塔に来たことで、彼女にとって何かプラスになる事象があるとしたら、シュショテとの出会いではないだろうか。
私は二人が共に勉強している風景を見ながら、そんなことを考えていた。
シュショテは同年代の魔法使い。彼女は様々な刺激を受けるはず。
もしプラーヌスへの執着を解き放つことが出来る者がいるとすれば、それはシュショテだって。
カルファルでは駄目なんだ。
絶対に駄目だ。話しにならない。
彼はプラーヌスと同じくらい、もしくはそれ以上に危険な男だ。アリューシアに幸福をもたらしはしないだろう。
まあ、余計なお世話なのかもしれない。そもそもアリューシアは幸せなど求めていないのかもしれない。
彼女は刺激が欲しいのだ。心臓がバクバクするような、興奮で眠れなくなるような。
だとしたらシュショテに面白みは皆無。彼女からすれば、ただの大人しいガキだ。
いや、そもそもシュショテにその気が無さそうである。
もうアリューシアに関わりたくない、そのような態度だ。二人が仲良くなるなんて無理だろう。
私はシュショテの後ろ姿を見送る。私の視線を感じたのか、彼が振り返って頭を下げ、角を曲がる。
少年の姿が視界から消えた。
「惚れたんだよ」
そのとき背後でそんな声がした。私は驚きで飛び上がりそうになる。
「お、驚かすなよ」
後ろにいたのはカルファルだ。プラーヌスもこうして私を驚かすことがあった。どうして魔法使いたちは音もなく、人の背後に立ちたがるのだろうか。
「あの少年、アリューシアに惚れているぞ」
「はあ、何だって?」
「そんなに驚くことか? 誰が見ても明らかではないか。あれは恋をしている男の振る舞いだよ」
「そ、そんなふうには見えなかったけれど。むしろ彼女のことが苦手だったふうにしか」
「お前は疎いな。女にも男にも。人というものを何もわかっていない。こんな洞察力で、良い絵が描けるとは思えないぜ」
「良い絵だって? あ、ああ、そうだよ、僕は肖像画家だ。どこで聞いたんだ?」
まあ、アビュだろう。もちろん私が画家だってことは秘密でもなんでもなく、誰がどこで吹聴しようが問題ないわけであるが、こんな文脈で持ち出されると不愉快だ。
「なあ、おい、俺の絵を描いてくれよ、シャグラン先生」
「僕のような人間を知らない画家は、碌な絵が描けないんじゃなかったっけ?」
「少し言い過ぎたか、気を悪くするなよ。謝らないと許さないと言うなら、すぐに謝ろう。俺と、俺の女たちの絵を描いて欲しい。これは本気だ」
「ああ、わかったよ、時間があれば描いてもいいけど。報酬は当然頂く。僕も一応、これで生活していたのだから」
「払おう。それなら今すぐだ!」
「ちょっと待ってくれよ、そんなに急は無理さ。今の僕の仕事はこの塔の管理なんだ。もう少しその仕事が落ち着いてからでないと」
「いつ落ち着くんだ? え?」
「さあ、わからない。それに最近、絵筆を握っていないし、良い絵を描く自信もない」
「描いていないと腕は鈍る。それは魔法使いも同じだ。だからこそ、さっさと描くべきじゃないのか?」
そうだろ、え?
カルファルが私にグッと顔を近づけてくる。
「確かにそうだろうね。だけど本当に時間がないのさ」
「まあ、いい。すぐにここを旅立つ気はない。待ってやる。しかし約束だ、必ず描け」
「ああ、わかった、約束するよ」
実のところ、描いてくれと懇願されると悪い気にはならない。私も画家だ。実際のところ、描きたくて仕方がない。
しかもカルファルと彼の女性たちの絵。題材としても悪くない。いや、むしろ最高ではないか。
しかしこの塔のことを放っておくわけにはいかないのである。もうそろそろ、謁見の間でプラーヌスと会合しなければいけない。その時間も近づいている。
今日は彼と話し合わなければいけないことがたくさんある。シュショテのことだけじゃない。サンチーヌがこの塔の改革案を出してくれた。それについてじっくりと語り合わなければ。
シュショテが本当にアリューシアに惚れているのか、その根拠をカルファルに問い詰めたいところであるが、そんな時間はない。
「俺は部屋に帰る。何か用があれば呼んでくれ。まあ、俺に用なんてないだろうが」
カルファルのほうが手を振り、先に私から離れていく。
「そうだった、アリューシアが泣いている。侍女の誰々を呼べってわめいているぜ」
「はあ?」
「こういうとき、上手く慰めれば、女なんてイチコロなんだけど。泣かしたのも俺なのさ。あとはお前に任せる」
「何だって?」
「冗談だ。彼女は自分の魔法の才能に絶望している」
カルファルは薔薇か何かの強い香水の香りを残して、私の前から去っていく。
しかしそんなシュショテでも、アリューシアと接するのは我慢出来ないようである。
直接そんなことを言ってくるわけではなかったが、もう二度と彼女には会いたくない、彼の態度はそんな感じなのである。
しかしシュショテ少年は、やはり優しい心根の持ち主だ。
「もちろん無理にとは言わないけど。少し彼女のことを気にかけてくれるだけでかまわない。一見傲慢だし、言葉遣いも乱暴だけど悪い奴じゃない。君もきっと、彼女の良い部分に気づくはずだよ」
私が哀願するようにそう言うと、「わかりました。勉強を教えてくれと言われたら付き合います」と不承不承ながらも応えてくれる。
「すまないね」
私は彼をいたわるように声を掛ける。シュショテが何度か私に頭を下げながら去ってゆく。私も思わず彼につられて何度も頭を下げる。
アリューシアはこの塔に来るべきではなかっただろう。プラーヌスに憧れるるべきではなかっただろう。
まして魔法使いを志すなんて大間違いだった。
しかしもし塔に来たことで、彼女にとって何かプラスになる事象があるとしたら、シュショテとの出会いではないだろうか。
私は二人が共に勉強している風景を見ながら、そんなことを考えていた。
シュショテは同年代の魔法使い。彼女は様々な刺激を受けるはず。
もしプラーヌスへの執着を解き放つことが出来る者がいるとすれば、それはシュショテだって。
カルファルでは駄目なんだ。
絶対に駄目だ。話しにならない。
彼はプラーヌスと同じくらい、もしくはそれ以上に危険な男だ。アリューシアに幸福をもたらしはしないだろう。
まあ、余計なお世話なのかもしれない。そもそもアリューシアは幸せなど求めていないのかもしれない。
彼女は刺激が欲しいのだ。心臓がバクバクするような、興奮で眠れなくなるような。
だとしたらシュショテに面白みは皆無。彼女からすれば、ただの大人しいガキだ。
いや、そもそもシュショテにその気が無さそうである。
もうアリューシアに関わりたくない、そのような態度だ。二人が仲良くなるなんて無理だろう。
私はシュショテの後ろ姿を見送る。私の視線を感じたのか、彼が振り返って頭を下げ、角を曲がる。
少年の姿が視界から消えた。
「惚れたんだよ」
そのとき背後でそんな声がした。私は驚きで飛び上がりそうになる。
「お、驚かすなよ」
後ろにいたのはカルファルだ。プラーヌスもこうして私を驚かすことがあった。どうして魔法使いたちは音もなく、人の背後に立ちたがるのだろうか。
「あの少年、アリューシアに惚れているぞ」
「はあ、何だって?」
「そんなに驚くことか? 誰が見ても明らかではないか。あれは恋をしている男の振る舞いだよ」
「そ、そんなふうには見えなかったけれど。むしろ彼女のことが苦手だったふうにしか」
「お前は疎いな。女にも男にも。人というものを何もわかっていない。こんな洞察力で、良い絵が描けるとは思えないぜ」
「良い絵だって? あ、ああ、そうだよ、僕は肖像画家だ。どこで聞いたんだ?」
まあ、アビュだろう。もちろん私が画家だってことは秘密でもなんでもなく、誰がどこで吹聴しようが問題ないわけであるが、こんな文脈で持ち出されると不愉快だ。
「なあ、おい、俺の絵を描いてくれよ、シャグラン先生」
「僕のような人間を知らない画家は、碌な絵が描けないんじゃなかったっけ?」
「少し言い過ぎたか、気を悪くするなよ。謝らないと許さないと言うなら、すぐに謝ろう。俺と、俺の女たちの絵を描いて欲しい。これは本気だ」
「ああ、わかったよ、時間があれば描いてもいいけど。報酬は当然頂く。僕も一応、これで生活していたのだから」
「払おう。それなら今すぐだ!」
「ちょっと待ってくれよ、そんなに急は無理さ。今の僕の仕事はこの塔の管理なんだ。もう少しその仕事が落ち着いてからでないと」
「いつ落ち着くんだ? え?」
「さあ、わからない。それに最近、絵筆を握っていないし、良い絵を描く自信もない」
「描いていないと腕は鈍る。それは魔法使いも同じだ。だからこそ、さっさと描くべきじゃないのか?」
そうだろ、え?
カルファルが私にグッと顔を近づけてくる。
「確かにそうだろうね。だけど本当に時間がないのさ」
「まあ、いい。すぐにここを旅立つ気はない。待ってやる。しかし約束だ、必ず描け」
「ああ、わかった、約束するよ」
実のところ、描いてくれと懇願されると悪い気にはならない。私も画家だ。実際のところ、描きたくて仕方がない。
しかもカルファルと彼の女性たちの絵。題材としても悪くない。いや、むしろ最高ではないか。
しかしこの塔のことを放っておくわけにはいかないのである。もうそろそろ、謁見の間でプラーヌスと会合しなければいけない。その時間も近づいている。
今日は彼と話し合わなければいけないことがたくさんある。シュショテのことだけじゃない。サンチーヌがこの塔の改革案を出してくれた。それについてじっくりと語り合わなければ。
シュショテが本当にアリューシアに惚れているのか、その根拠をカルファルに問い詰めたいところであるが、そんな時間はない。
「俺は部屋に帰る。何か用があれば呼んでくれ。まあ、俺に用なんてないだろうが」
カルファルのほうが手を振り、先に私から離れていく。
「そうだった、アリューシアが泣いている。侍女の誰々を呼べってわめいているぜ」
「はあ?」
「こういうとき、上手く慰めれば、女なんてイチコロなんだけど。泣かしたのも俺なのさ。あとはお前に任せる」
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「冗談だ。彼女は自分の魔法の才能に絶望している」
カルファルは薔薇か何かの強い香水の香りを残して、私の前から去っていく。
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