私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第五章 12)簡単に壊せそうな心

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 とにかく諦めるのはまだまだ早い。いずれにしろ期限は限られているのだから、それまでの間、出来るだけのことをすればいいじゃないか。
 アリューシアに対して、そんなふうに声を掛けてやりたい。
 通り一遍の励ましの言葉だけど、おそらく彼女だって、こういう言葉を待っているはずだ。

 しかし私は絶対にそのような類の言葉を口にしてはいけない。本当に出来る限りの努力をされたら大問題だから。
 出来るだけの努力をすれば、アリューシアの望みは叶うかもしれない。
 しかしそんなことをすれば、もはや彼女はもう以前の彼女ではなくなる。例のあの問題、自ら手足など、何らかの痛みを犠牲にすれば、魔族との交渉が上手くいくとかいうあの方法。
 アリューシアにそのような決断をさせてはならない。
 だから私は口篭ってしまう。

 「魔法だけが全てじゃない。この世界にはもっと素晴らしいものがある」

 だから私は言った。
 言ってから後悔した。

 「はあ? 本気で言ってるの? 馬鹿じゃない!」

 アリューシアの言う通り。こんなときに口にするべき言葉ではなかった。私はあまりに筋違いの発言をしたようだ。

 「いや、明日もシュショテを呼ぼう。彼にまた教えてもらえばいい。だったらいずれ」

 すぐにこんなふうに軌道修正するが、自分で話していても虚しいくらいに空疎な発言だ。

 「あんなガキ・・・」

 「じゃあ、カルファルは?」

 私がその名前を口にすると、アリューシアはピクリと肩を上げた。
 何だか動揺したようなのだ。それは少しわかりやすいくらいの反応だった。
 私がこの部屋を出ていた間、二人の間に何かあったのかもしれない。いや、実際にカルファルは自分がアリューシアを泣かしたと言っていたではないか。

 アリューシアが泣いていたのは魔法の課題が難し過ぎることだけが原因だなんて、私も思っていなかった。直接の原因はあの男にある違いない。
 今から思うと、アリューシアとカルファルを二人きりにするのは、肉食の獣とウサギを同じ檻に放り込んだようなものだ。何かあったみたいなどと他人事のように言うのは大間違い。
 むしろそれは私の失策も同然。

 「もうあの人に会いたくない。私に近づけないで」

 「あ、ああ。あいつは君に何か・・・」

 たとえカルファルがアリューシアに何かをしたとしても、出来ればこの問題に立ち入りたくはなかった。
 何と言うか、私にとってこういう問題は苦手分野とでも言おうか。
 しかしさすがにアリューシアが心配である。
 彼女を傷つけたとしたら、カルファルを許すわけにはいかない。今夜中にこの塔から出て行ってもらう。そのためならばプラーヌスの手だって借りる。

 「別に何もないけど。ただ単に嫌いなだけ」

 アリューシアは言う。

 「そ、そうか」

 「嘘、私にキスしようとしてきた。でもアビュだっけ、あの子が部屋に現れて助かった」

 「な、何だって?」

 カルファルめ。何という男だ。
 私は頭にカッと血が上った。

 「それも嘘。何もない」

 「どっちだよ」

 「とにかくもう会いたくないの」

 「わかった。あいつから君を守る」

 二人の間に、何か取り返しのつかないことがあったというわけではないようだ。アリューシアにはまだ余裕のようなものが感じられる。
 しかし彼女がカルファルに嫌悪感を覚えているのは確か。

 それにしても、プラーヌスとシュショテ、カルファルとアリューシア、我が塔では何やらややこしい問題が巻き起こっている。
 しかもそれは何度も繰り返すようだけど、私にとって苦手分野で、出来ればこのような問題に関わりたくないこと。

 「ちょっと待って、私を守るですって?」

 そのときアリューシアが突然、少し甲高い声で言ってきた。

 「え?」

 「さっき言ったじゃない」

 「僕が?」

 「はあ? 覚えてないの?」

 いや、別に覚えていないわけではなかった。間違いなく言っただろう。
 しかしアリューシアがこのような反応を見せるような意味を込めたつもりはなかった。ただこの塔の管理人として、客のアリューシアを守る。そういうニュアンス。

 「覚えてないってどういうつもりよ! そんなこと軽々しい気持ちで言わないでよ!」

 「い、いや、それは悪かったね」

 「そういう人、大嫌いなんだけど」

 アリューシア、本当に美しい少女だ。明るくて、健康的で、溌剌としていて、それでいながら透き通るような気品も称えている。きっとこれから更に美しい女性になるのだろう。
 しかし今はまだ幼く、そして脆い。私の力でも、この少女の心を簡単に壊せそうな気がしてきた。

 「ここにいたら、またカルファルがやってくるかもしれない。自分の部屋に戻るんだ」

 私はそんな自分が恐くなったのかもしれない、少しでも早く彼女から離れたくて仕方がない。

 「ああ、うん、わかった。今日は疲れたから、もう眠ろうかなあ」

 「部屋まで送ろう。っていうかリーズは? 君のお守りをするのが彼女の役目だろ?」

 いつも一緒にいるはずのリーズが、今日はずっと傍にいなかった。

 「彼女にそんな役目はないわ。私だって気軽に歩き回りたい。別にどっかの姫様じゃないんだし」

 「そうだけど」

 カルファルは昨日、リーズを口説く素振りを見せていた。それを不興に思って今日は連れて廻らなかったのだろうか。
 だとしたらアリューシアという少女は・・・。
 一方でカルファルを撥ねつけながら、また一方では引き寄せようとしているのかもしれない。

 私はアリューシアの胸中を伺うように、その横顔に目をやる。
 まあ、お前は男と女のことを何も知らないとカルファルに言われたから、もしかしたらそれはとんでもない見当違いの可能性はあるのだけど。
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