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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第一章 1)王の遣いの遣い
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私の魔法使いの友人、プラーヌスは妙に上機嫌であった。
当初の予定が変更になりそうだというのに、彼にしては珍しいことに、その予定変更に怒り狂うこともなく、むしろ鼻唄などを歌い出す始末なのである。
私たちはルーテティアに行くため、今まさに馬車に乗り込もうとしていた。
しかしそのとき、酷く慌てた様子の召使いがやってきて、客が来たことを知らされた。
何と王の遣いが、この塔を訪問しにきたというのである。
いや、正確に言うと、王の遣いの、その遣いが、王の遣いよりも一足先にやってきたようなのだけど。
明日後日、この塔に王の遣いが来るから、そのつもりで待っておけ。そういうことを報せに来たという。
その王の遣いの遣いが言うには、その王の遣いは大変に身分の高い大臣で、このようなお方が自ら、このような片田舎にやってくるのは珍しいとのこと。
「王だろうが、何だろうが、この僕にいったい何の関係があるのさ」
プラーヌスのことだから、どれほどの賓客だろうと無視して、さっさとルーテティアに向かうのかと思っていた。
しかし私の予想と反して、彼はその予定をあっさり中止してしまったのだ。
「シャグラン、ルーテティア行きは延期だ。王の遣いを丁重に迎える準備をしなければ」
プラーヌスは飛び降りるように馬車を降り、塔に戻っていく。
私はそんな彼の態度に呆気に取られながら、慌てて彼を追う。
「まずはその男を客間に案内してくれ。それから謁見の間で会う」
プラーヌスが言った。
「あ、ああ、わかったけれど」
「今夜は食事と酒で、精一杯の歓迎をして欲しい。一切の失礼がないように」
彼はその歩調を更に早めながら、テキパキと私に指示を出していく。
「うん、召使いたちにもちゃんと徹底しておく」
塔に戻ってくる私たちを見て、門番が急いで門を開ける。門楼のある正門だ。そこには常時、数人の門番が待機している。
「王の遣いが来るぞ! いつもよりも念入りに掃除しておくんだ!」
プラーヌスは門番にも指示を出した。プラーヌスの厳しい口調に、門番たちが一斉に返事を返す。
「しかしこんなタイミングで王の使いが来るなんてな。すまないね、シャグラン。君はルーテティア行きをあんなに楽しみにしていたのに」
彼はふと歩調を緩め、申し訳なさそうに言ってきた。
「いや、別に問題ないけど。だってルーテティアはどこにも逃げないからね」
まあ、確かにルーテティアに行くことは私の長年の夢で、楽しみにしてはいたことは事実だったけれど。
しかしむしろ旅を急いでいたのはプラーヌスのほうだろう。
彼はルーテティアやフィルグランデなどの遠方の街で、買いたい物がたくさんあるようだった。
それだけじゃない。この塔のために、新たに雇いたい人材もいるよう。それらの用事を一気に片付けてしまおうと思っていた様子である。
一方、私はまだ頭がボーとしていた。ほんのちょっと前まで、気を失って倒れていたのである。
ずっと働き通しで疲れが出たと言われたが、今朝目覚めると自分の私室で、その近辺の記憶がまるでないから、自分でも自分の状態が心配である。
しかし気を失うほど体調が悪かったというのに、頭が何となくはっきりしないだけで、それ以外に異常はなさそうではある。
どこも痛いところはない。長い旅であっても、何も問題はなかったかもしれない。
「でも王がこの塔に何の用なんだろうね?」
再び歩調を早め出したプラーヌスに何とか追いつきながら、私は尋ねた。
「承認状を持って来たんだよ」
「承認状?」
「ああ、僕が塔の主であることを、この国の王も認めるという承認状さ。ずっと待っていたんだよ、この承認状が発行されるのを。これで名実ともに僕はこの塔の主人だ。これからは仕事もやりやすくなるだろう。金庫はもう空っぽに近かったからね、手っ取り早く稼ぐ必要があった」
魔法を使うには宝石が必要である。宝石を手に入れるためには金貨を稼がなくてはいけない。
すなわち魔法使いであるには、かなりの大金が必要だというわけだ。
しかもこの塔に住んでいる住人は多い。彼らを食わしてやる必要もある。
最近、金庫が底を尽きかけている。取り急ぎ、仕事をしなければいけない。
そのセリフを、プラーヌスから何度聞かされたことであろうか。
「王から承認状が来たということは、街でも、この塔の主人が新しくなったことが知れ渡り始めているという証しだ。魔法を求める依頼人が、これから続々と押し寄せてくるだろう。シャグラン、かなり忙しくなるぞ」
「そうなのかい?」
今でも既に、やらなければいけないことは山積みだった。この塔で働いている召使いの名簿作り、塔の見取り図も作らなければいけない。
名簿作りはそれなりに進んでいるが、召使いを部署ごとに割り振らなければいけない作業も残っているし、塔の見取り図は一枚も出来ていない。
まだそれだけじゃない。私はこの塔のどこかにあるという女神像も探さなければいけないのだ。
そしてときおり、聞こえてくる謎の女性の泣き声、その謎も解かなければいけない。
私にはやらなければいけない課題が山済みである。
それなのに続々やってくる客の相手までしなければいけないとは。
「シャグラン、君には金庫番もしてもらおうかな」
しかしプラーヌスは、更に新しい仕事を押し付けてきた。
「えっ? 今でも仕事は大変だよ。この上、金庫番なんて!」
「どこの組織でも財政を預かっている者が強い。他の者がその役を勤めれば、君のこの塔のナンバー2の地位は危うくなるかもしれないけど」
「そ、そうだね。誰も僕の命令や、指摘に耳を貸さなくなるかもしれない」
別にこの塔のナンバー2でありたいわけではなかったが、きっちりと責任をこなすためには、それなりの権力は必要である。それは以前から考えていたことであった。
「でも一人で、金貨の量の出入りの記録までチェックすることは不可能さ。そんなことまでやっていれば、いつか疲労で死ぬに違いない」
「うむ、それならば誰かを会計係にして、そいつを君の下で働かせればいい。とにかくこの塔の財布を預けられるのは君に以外にいない」
プラーヌスは私を全面的に信頼していると告げるように、何とも人懐っこい笑顔を浮かべてくる。
こんな表情で見られると、この依頼を断るのは不可能だろう。とにかく金庫番でも何でもやるしかない。
私たちは門を通り抜け、裏口から塔に中に入り、ようやく中央の塔のエントランス部分に到着した。
正面にある中央の入り口を通って、目の前の階段を上がれば、まずこの場所に辿り着く。
確かに、そこに見知らぬ男性が立っていた。
やあ、ようこそ、我が塔に! 君が王の遣いの遣いだね。
プラーヌスがその男に向かって、朗らかなに声を掛けた。
一方、王の遣いの遣いの男は、かなり疲れた様子でその声に応えた。恐らくかなりの長い時間、ここに突っ立ったまま待たされていたのであろう。少し不貞腐れた表情で、塔の壁柱にもたれている。
「王はいつ頃、到着の予定だろうか?」
しかしプラーヌスは客のそんな心情に気づいていないのか、あるいは、どれくらい待たせても配慮する必要はないと思っているのか、何ら詫びることもなく、自分が聞きたい質問を優先する。
「三日、四日後には到着されるでしょう。しかし道中は悪路を極め、塔はこのような僻地にあるため、予定通りに行くとは限りませんが」
王の遣いの遣いが不貞腐れた表情を変えず、そう言った。
「そうだね、確かに僕の塔は僻地にある」
僻地という言葉に気を悪くしたのか、プラーヌスは不気味な表情でニヤリと微笑んだ。「それならば僕が魔法でお迎えに上がるけど?」
「心遣いは痛み入りますが、王の遣いは王の分身と言っても過言ではなく、そのようなお方を魔法で移動させるわけにはいかない」
確かにその魔法が使われている間、王の遣いはプラーヌスの支配下に置かれるわけである。彼に命を握られているも同然。
「そうか、では三日でも四日でも待とう。シャグラン、とりあえず彼を客間に案内してくれ。一心地ついてから、謁見の間で改めて話しを伺う」
「では、こちらへ」
客間は東の塔にある。常日頃から、どのような客でも迎えられるように、それなりの準備は整えてある。私はその客を連れて東の塔に向かう。
当初の予定が変更になりそうだというのに、彼にしては珍しいことに、その予定変更に怒り狂うこともなく、むしろ鼻唄などを歌い出す始末なのである。
私たちはルーテティアに行くため、今まさに馬車に乗り込もうとしていた。
しかしそのとき、酷く慌てた様子の召使いがやってきて、客が来たことを知らされた。
何と王の遣いが、この塔を訪問しにきたというのである。
いや、正確に言うと、王の遣いの、その遣いが、王の遣いよりも一足先にやってきたようなのだけど。
明日後日、この塔に王の遣いが来るから、そのつもりで待っておけ。そういうことを報せに来たという。
その王の遣いの遣いが言うには、その王の遣いは大変に身分の高い大臣で、このようなお方が自ら、このような片田舎にやってくるのは珍しいとのこと。
「王だろうが、何だろうが、この僕にいったい何の関係があるのさ」
プラーヌスのことだから、どれほどの賓客だろうと無視して、さっさとルーテティアに向かうのかと思っていた。
しかし私の予想と反して、彼はその予定をあっさり中止してしまったのだ。
「シャグラン、ルーテティア行きは延期だ。王の遣いを丁重に迎える準備をしなければ」
プラーヌスは飛び降りるように馬車を降り、塔に戻っていく。
私はそんな彼の態度に呆気に取られながら、慌てて彼を追う。
「まずはその男を客間に案内してくれ。それから謁見の間で会う」
プラーヌスが言った。
「あ、ああ、わかったけれど」
「今夜は食事と酒で、精一杯の歓迎をして欲しい。一切の失礼がないように」
彼はその歩調を更に早めながら、テキパキと私に指示を出していく。
「うん、召使いたちにもちゃんと徹底しておく」
塔に戻ってくる私たちを見て、門番が急いで門を開ける。門楼のある正門だ。そこには常時、数人の門番が待機している。
「王の遣いが来るぞ! いつもよりも念入りに掃除しておくんだ!」
プラーヌスは門番にも指示を出した。プラーヌスの厳しい口調に、門番たちが一斉に返事を返す。
「しかしこんなタイミングで王の使いが来るなんてな。すまないね、シャグラン。君はルーテティア行きをあんなに楽しみにしていたのに」
彼はふと歩調を緩め、申し訳なさそうに言ってきた。
「いや、別に問題ないけど。だってルーテティアはどこにも逃げないからね」
まあ、確かにルーテティアに行くことは私の長年の夢で、楽しみにしてはいたことは事実だったけれど。
しかしむしろ旅を急いでいたのはプラーヌスのほうだろう。
彼はルーテティアやフィルグランデなどの遠方の街で、買いたい物がたくさんあるようだった。
それだけじゃない。この塔のために、新たに雇いたい人材もいるよう。それらの用事を一気に片付けてしまおうと思っていた様子である。
一方、私はまだ頭がボーとしていた。ほんのちょっと前まで、気を失って倒れていたのである。
ずっと働き通しで疲れが出たと言われたが、今朝目覚めると自分の私室で、その近辺の記憶がまるでないから、自分でも自分の状態が心配である。
しかし気を失うほど体調が悪かったというのに、頭が何となくはっきりしないだけで、それ以外に異常はなさそうではある。
どこも痛いところはない。長い旅であっても、何も問題はなかったかもしれない。
「でも王がこの塔に何の用なんだろうね?」
再び歩調を早め出したプラーヌスに何とか追いつきながら、私は尋ねた。
「承認状を持って来たんだよ」
「承認状?」
「ああ、僕が塔の主であることを、この国の王も認めるという承認状さ。ずっと待っていたんだよ、この承認状が発行されるのを。これで名実ともに僕はこの塔の主人だ。これからは仕事もやりやすくなるだろう。金庫はもう空っぽに近かったからね、手っ取り早く稼ぐ必要があった」
魔法を使うには宝石が必要である。宝石を手に入れるためには金貨を稼がなくてはいけない。
すなわち魔法使いであるには、かなりの大金が必要だというわけだ。
しかもこの塔に住んでいる住人は多い。彼らを食わしてやる必要もある。
最近、金庫が底を尽きかけている。取り急ぎ、仕事をしなければいけない。
そのセリフを、プラーヌスから何度聞かされたことであろうか。
「王から承認状が来たということは、街でも、この塔の主人が新しくなったことが知れ渡り始めているという証しだ。魔法を求める依頼人が、これから続々と押し寄せてくるだろう。シャグラン、かなり忙しくなるぞ」
「そうなのかい?」
今でも既に、やらなければいけないことは山積みだった。この塔で働いている召使いの名簿作り、塔の見取り図も作らなければいけない。
名簿作りはそれなりに進んでいるが、召使いを部署ごとに割り振らなければいけない作業も残っているし、塔の見取り図は一枚も出来ていない。
まだそれだけじゃない。私はこの塔のどこかにあるという女神像も探さなければいけないのだ。
そしてときおり、聞こえてくる謎の女性の泣き声、その謎も解かなければいけない。
私にはやらなければいけない課題が山済みである。
それなのに続々やってくる客の相手までしなければいけないとは。
「シャグラン、君には金庫番もしてもらおうかな」
しかしプラーヌスは、更に新しい仕事を押し付けてきた。
「えっ? 今でも仕事は大変だよ。この上、金庫番なんて!」
「どこの組織でも財政を預かっている者が強い。他の者がその役を勤めれば、君のこの塔のナンバー2の地位は危うくなるかもしれないけど」
「そ、そうだね。誰も僕の命令や、指摘に耳を貸さなくなるかもしれない」
別にこの塔のナンバー2でありたいわけではなかったが、きっちりと責任をこなすためには、それなりの権力は必要である。それは以前から考えていたことであった。
「でも一人で、金貨の量の出入りの記録までチェックすることは不可能さ。そんなことまでやっていれば、いつか疲労で死ぬに違いない」
「うむ、それならば誰かを会計係にして、そいつを君の下で働かせればいい。とにかくこの塔の財布を預けられるのは君に以外にいない」
プラーヌスは私を全面的に信頼していると告げるように、何とも人懐っこい笑顔を浮かべてくる。
こんな表情で見られると、この依頼を断るのは不可能だろう。とにかく金庫番でも何でもやるしかない。
私たちは門を通り抜け、裏口から塔に中に入り、ようやく中央の塔のエントランス部分に到着した。
正面にある中央の入り口を通って、目の前の階段を上がれば、まずこの場所に辿り着く。
確かに、そこに見知らぬ男性が立っていた。
やあ、ようこそ、我が塔に! 君が王の遣いの遣いだね。
プラーヌスがその男に向かって、朗らかなに声を掛けた。
一方、王の遣いの遣いの男は、かなり疲れた様子でその声に応えた。恐らくかなりの長い時間、ここに突っ立ったまま待たされていたのであろう。少し不貞腐れた表情で、塔の壁柱にもたれている。
「王はいつ頃、到着の予定だろうか?」
しかしプラーヌスは客のそんな心情に気づいていないのか、あるいは、どれくらい待たせても配慮する必要はないと思っているのか、何ら詫びることもなく、自分が聞きたい質問を優先する。
「三日、四日後には到着されるでしょう。しかし道中は悪路を極め、塔はこのような僻地にあるため、予定通りに行くとは限りませんが」
王の遣いの遣いが不貞腐れた表情を変えず、そう言った。
「そうだね、確かに僕の塔は僻地にある」
僻地という言葉に気を悪くしたのか、プラーヌスは不気味な表情でニヤリと微笑んだ。「それならば僕が魔法でお迎えに上がるけど?」
「心遣いは痛み入りますが、王の遣いは王の分身と言っても過言ではなく、そのようなお方を魔法で移動させるわけにはいかない」
確かにその魔法が使われている間、王の遣いはプラーヌスの支配下に置かれるわけである。彼に命を握られているも同然。
「そうか、では三日でも四日でも待とう。シャグラン、とりあえず彼を客間に案内してくれ。一心地ついてから、謁見の間で改めて話しを伺う」
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