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二話 初めての戦
酔い潰れた中で
しおりを挟む夕刻から始まった宴は、夜の帳が完全に下りて闇が深まる頃には静かになっていた。
「……すごい有様だな……」
俺は広間を見渡しながらボソリと呟く。
今この場に起きているのは俺だけ。
酒を飲まなかった俺以外、全員が酔い潰れてしまった。
普通はこんな状態になる前に飲まなくなり、酔い覚ましをする者がいてもおかしくない。
しかし俺は見ていた。
華候焔が白澤や英正だけでなく、俺以外の広間にいる者へ酒を飲むよう促し、酔い潰していく様を。
兵士たちが戦の勝利に受かれていたこともあるのだろう。注がれて嬉しげに酒を口にし、次々とぐったり床へ伏せていってしまった。
どうすればいいものかと悩んでいると、数人の官女たちが笑いながら広間へ入ってくる。
広間の有様を目の当たりにした途端、彼女たちはギョッとなり、呆れた息をつきながら片づけを始める。
官女たちのまとめ役らしき中年の女性が俺に近づき、苦笑しながら話しかけてきた。
「まったく、領主様を忘れて酔い潰れるなんて呆れてしまいますわ。この中には私たち官女の夫が何人もおります。二度とこんなことにならないよう言い聞かせておきますから」
「いや……今日だけは特別だから見逃して欲しい。華候焔が無理に飲ませていたんだ」
「あのお方が? なるほど、そうでしたのね。宴の準備中、官女たちに華候焔様が『宵を迎えて間もなくには終わる』と言っておりましたの。宴がそんなに早く終わるものかしらと思っておりましたが、最初から皆を酔い潰されるおつもりだったのですね」
彼女の話に俺は面食らう。
最初から宴の準備を取り仕切っていた華候焔。
この状態を作るために動いていたのだと気づき、俺は心の中で頭を抱えてしまう。
いったい何を考えているんだ、彼は?
この宴だけじゃない。戦の前から華候焔がすべてを動かし、自分が望むままの展開にしている。
あの顔鐡に放たれた援助の矢も、確実に華候焔が描いていた流れにするためのもの。
俺は華候焔の手の上で転がされていることが明確になり、腹の底に不快な熱が沸き上がる。
思わず恨めしさをぶつけたくなりその姿を探すが、酔い潰れた者たちの中に華候焔の姿はなかった。
「領主様はどうぞ湯浴みされ、お休みになられて下さい。ここの片づけと酔い潰れた皆の介抱はお任せ下さいませ」
中年官女に促され、俺は「分かった」と立ち上がる。
酔っていないのに頭がフラリとなり、よろけてしまいそうだった。
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