27 / 345
二話 初めての戦
意味ありげな眼差し
しおりを挟む
中央で賑やかに騒いでいる華候焔や白澤を眺めてから、俺はふと視線を横にずらす。
広間には小隊の隊長たちも呼んでいるが、その中に一人、硬い表情で緊張し続ける英正の姿があった。
俺よりも年が若いなら、酒の席など無縁だろう。
酔って談笑する年上たちに囲まれて、どうすればいいか分からないという戸惑いが手に取るように分かる。正直なところ、俺も似たようなものだ。
俺が見ていることに気づき、英正はハッとなり姿勢を正して頭を下げる。そして用があると思ってしまったのか、慌てた様子で立ち上がり、俺の前までやって来て跪いた。
「領主様、何か御用でしょうか?」
「いや、用があった訳ではないんだが、宴を楽しんでいないように見えて気になったんだ」
「とんでもない、楽しんでおります! ただ私のような者が、まさか登城できる身になり、領主様のお役に立てる日が巡ってくるとは思わなかったもので……今もまだ夢の中にいるかのようです」
英正が名もなき兵士から将へと昇格してから、まだ一日しか経っていない。
それなのにほぼ経験皆無で戦場に立たされ、領主の身代わりになって囮となったのだ。もし俺が英正なら、確かに夢だと思ってしまうだろう。
間近で華候焔が守っていたとはいえ、英正もよく頑張ってくれた。
俺は顔を上げた英正に対し、深々と頭を下げた。
「英正がいてくれたおかげで、俺は敵将を倒すことができた。本当にありがとう」
「もったいないお言葉です……! 私は甲冑をまとい、馬に乗っていただけ……そんなことしかできずとも、領主さまのお役に立てていたのならば光栄です。次までには必ず力をつけ、今度は力を振るってお役に立ってみせます」
「それは頼もしいな。期待しているぞ、英正」
「もし私めが結果を出したならば、その時は……」
高揚しながら話していた英正が言葉を止める。
ずっと真っ直ぐに俺を見据えていた目は泳ぎ、口をまごつかせていたが、「いえ、なんでもありません」と悔しげに首を横に振った。
何か望みがあるなら言って欲しいと促そうとしたが――ガシッ!
いつの間にかこちらへ来た華候焔が、英正の肩に腕を乗せてきた。
「オラ英正、お前も飲め……っ。ちゃんと役に立ったんだから、お前にもたっぷりと飲む権利がある。こっち来い。飲ませてやるから」
「い、いえ、結構です! 私は領主様ともう少し話を――」
「俺の酒が飲めないなんて言うなよ? 人生始まったばかりのお前に、俺が人生の楽しみ方を教えてやろう!」
問答無用で華候焔は英正の襟首を掴み、ズルズルと中央へと引きずっていく。
そして白澤と一緒に顔より大きな杯に酒を注ぎ、英正に飲ませていた。
ワッと男たちの笑いが響き渡り、宴をさらに賑やかにしていく。
英正や他の兵士たちの戦は今日で終わりだ。
……だが、俺はまだ区切りがついていない。
俺の胸が重みを覚える。
息をついて華候焔に視線を定めれば、すぐに俺の目に気づいて瞳を流してくる。
妖しさと愉悦を含んだ眼差しに、酒を飲んでもいないのに体の奥がカッと熱くなった。
広間には小隊の隊長たちも呼んでいるが、その中に一人、硬い表情で緊張し続ける英正の姿があった。
俺よりも年が若いなら、酒の席など無縁だろう。
酔って談笑する年上たちに囲まれて、どうすればいいか分からないという戸惑いが手に取るように分かる。正直なところ、俺も似たようなものだ。
俺が見ていることに気づき、英正はハッとなり姿勢を正して頭を下げる。そして用があると思ってしまったのか、慌てた様子で立ち上がり、俺の前までやって来て跪いた。
「領主様、何か御用でしょうか?」
「いや、用があった訳ではないんだが、宴を楽しんでいないように見えて気になったんだ」
「とんでもない、楽しんでおります! ただ私のような者が、まさか登城できる身になり、領主様のお役に立てる日が巡ってくるとは思わなかったもので……今もまだ夢の中にいるかのようです」
英正が名もなき兵士から将へと昇格してから、まだ一日しか経っていない。
それなのにほぼ経験皆無で戦場に立たされ、領主の身代わりになって囮となったのだ。もし俺が英正なら、確かに夢だと思ってしまうだろう。
間近で華候焔が守っていたとはいえ、英正もよく頑張ってくれた。
俺は顔を上げた英正に対し、深々と頭を下げた。
「英正がいてくれたおかげで、俺は敵将を倒すことができた。本当にありがとう」
「もったいないお言葉です……! 私は甲冑をまとい、馬に乗っていただけ……そんなことしかできずとも、領主さまのお役に立てていたのならば光栄です。次までには必ず力をつけ、今度は力を振るってお役に立ってみせます」
「それは頼もしいな。期待しているぞ、英正」
「もし私めが結果を出したならば、その時は……」
高揚しながら話していた英正が言葉を止める。
ずっと真っ直ぐに俺を見据えていた目は泳ぎ、口をまごつかせていたが、「いえ、なんでもありません」と悔しげに首を横に振った。
何か望みがあるなら言って欲しいと促そうとしたが――ガシッ!
いつの間にかこちらへ来た華候焔が、英正の肩に腕を乗せてきた。
「オラ英正、お前も飲め……っ。ちゃんと役に立ったんだから、お前にもたっぷりと飲む権利がある。こっち来い。飲ませてやるから」
「い、いえ、結構です! 私は領主様ともう少し話を――」
「俺の酒が飲めないなんて言うなよ? 人生始まったばかりのお前に、俺が人生の楽しみ方を教えてやろう!」
問答無用で華候焔は英正の襟首を掴み、ズルズルと中央へと引きずっていく。
そして白澤と一緒に顔より大きな杯に酒を注ぎ、英正に飲ませていた。
ワッと男たちの笑いが響き渡り、宴をさらに賑やかにしていく。
英正や他の兵士たちの戦は今日で終わりだ。
……だが、俺はまだ区切りがついていない。
俺の胸が重みを覚える。
息をついて華候焔に視線を定めれば、すぐに俺の目に気づいて瞳を流してくる。
妖しさと愉悦を含んだ眼差しに、酒を飲んでもいないのに体の奥がカッと熱くなった。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる