男装の薬師は枯れぬ花のつぼみを宿す

天岸 あおい

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二章 暗紅の瞳の男

ナウムからの勧誘

 もう片方の手首も青年に掴まれ、より強く押さえ込まれ、みなもは痛みで小さく唸る。
 その様を気分良さげに眺めながら、青年は熱い吐息をかけながら告げてくる。

「オレの名はナウム。バルディグにとっての不穏の芽を摘むのが仕事だ……本当なら、あの堅物に与えたヤツを解毒しちまったアンタを、始末しなくちゃいけねぇんだが――」

 ナウムに浮かんでいた軽薄な笑みが、不敵なものへと変わった。

「こんな美人を殺すなんてもったいないんだよなあ。しかも薬も毒も使えて戦える……こんな有能なヤツが部下にいたら、オレも助かるってもんだ」

 一瞬みなもの頭に、この男の誘いに乗れば仲間がいるかどうかを確かめられるかもしれないという思いがよぎる。

 ジッと憎らしい顔を見つめる。
 ――駄目だ。この男を相手にするのは分が悪い。

 他の者たちと同じく毒を受けたはずなのに動けている時点でただ者ではない。
 それにここで彼についていくということは、ヴェリシアで毒に苦しむ兵たちを見捨てることにもなる。

 命がけで仲間を助けようと奮闘しているレオニードを裏切る訳にはいかない。

 みなもはフッ、と不敵な笑みを返す。

「……俺はお前の下でなんか働きたくないよ」

「そんなこと言わずに。できれば始末したくないんだよオレは」

 わずかにナウムの眉間にシワが寄り、泣き笑うような顔を作る。

「男っていう時点で別人なのは分かってんだがな……黒髪に、その顔立ち。オレの本命と少し似てるんだよなあ。もし女だったなら――」

「へぇ……男で良かったよ。本命の代わりにされて、慰み者にされるところだった!」

 みなもは密かに左足で右のつま先をいじり、靴の先端に仕込んでいた毒の刃を出す。
 そして素早くナウムの脛を狙い、つま先の刃で蹴った。

「おっと、危ねぇな!」

 ナウムはみなもから手を離さず、その場を跳ぶ。
 刹那、押さえていた力が弱まる。すかさずなもは膝を軽く折った後――ドンッ。ナウムを突き飛ばし、その白い手から逃れてその場から抜け出た。

 チッ、と舌打ちしながらも、ナウムの顔は笑ったままだった。

「油断ならねぇなあ。でもそれぐらい頑固で骨があるほうが、より燃えるってもんだ」

「諦めてくれないか? しつこい輩は苦手なんだ。手を引かないっていうなら次は殺す気でいくけど」

「はは、残念だ。顔も中身も好みなんだがなあ。オレも抱えているもんがある……死ぬワケにはいかねぇ!」
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