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一章 相変わらずの日常と、招かざる来訪者
貴方はいったい、どなたでしょうか?
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そう言い残し、空高くアギュリズが飛び去っていく。
見上げながらガイの手の平に、嫌な汗がじわりと滲む。
(伴侶――エリクの魂を奪ったということは、まさか……っ)
バッ、と勢いよく振り返り、ガイは倒れたままのエリクに駆け寄った。
「大丈夫か、エリク!?」
すべての力を奪われたようにぐったりと倒れたエリクは、呼びかけても微動だにしない。
しかし、何度かガイが呼びかけた時、エリクの指先がピクリと動いた。
「う……」
生きていると分かった瞬間、ガイの口から一際大きなため息が溢れた。
「良かった……エリク、起き上がれそうか? 無理なら抱き上げて運ぶが――」
ゆっくりとエリクのまぶたが開き、ガイを見上げる。
目が合い、ガイはふと違和感を覚える。
寝起きであってもガイを映す瞳にあるはずの熱が、まったくない。
ガイの胸で嫌な動悸が響く中、鈍い動きでエリクは体を起こし、小首を傾げながら口を開いた。
「あの……貴方はいったい、どなたでしょうか?」
エリクの言葉に、ガイは身を強張らせる。
こんな時に冗談を言うような男ではない。
頭ではそれをよく分かっているのに、「なんの冗談だ?」と言いたくてたまらない。
動揺から現実逃避したがっている自分をガイが自覚していると、黒竜が悩ましげに息をついた。
《ごめんなさい、助けが間に合わなくて……エリク様の魂が、アギュリズに半分奪われてしまったようです》
「いや、黒竜殿のせいではない。むしろ半分で済んだと考えるべき……すべて奪われたならば、死んでいたということ。感謝してもし足りないほどだ」
話しながらガイは混乱を抑え込み、努めて冷静に黒竜に尋ねる。
「エリクが俺のことを覚えていないのは、魂を奪われたせいなのか?」
《ええ……魂とは、その者を作り上げ、動かし、証明するもの。今のエリク様は魂が食い散らかされて、穴開きになっているような状態です。記憶だけで済んでいるのは幸いとも言えますが――》
ロジーの本当の母親であり、エリクの体質のことで相談もした黒竜は、ガイにとって心強い身内でありママ友だ。
竜だからとガイが身構えることなく、当たり前のように黒竜と会話をしていると、ガイの視界の脇で小刻みにエリクが震えた。
「り、竜……っ、なぜここに……どうして竜と会話を……貴方はいったい……?」
エリクが本気で動揺し、怯えている。
記憶を失って黒竜を恐れるだけでなく、自分にまで怯えた目を向けてきて、ガイの瞳が揺れる。
それでも記憶を無くして一番辛いのはエリク自身だと己に言い聞かせ、ガイはエリクに声をかける。
「安心してくれ、俺も黒竜殿も敵ではない……自分の名前は言えるか?」
「……エリク・マレーロです」
「良かった。すべて忘れた訳ではないのだな。俺はガイ・デオタード。レアランダ王国で将軍職に就いていたが、訳あってこの地に君と生活を共にしている」
「レアランダ王国……ガイ将軍……すみません、思い出せません……」
「無理に思い出さなくてもいい。まずは一度小屋に戻って休もう――」
不安げなエリクを宥めながら、ガイが手を差し伸べる。
――トテテテッ、とロジーがガイの肩に登り、エリクに向かって首を伸ばした。
《パパ、だいじょうぶ!? ヘンなくろいやつにあたってたおれちゃって……あれ? どうしたの? ねえママ、パパがいつもよりヘンだよ?》
まだ事情を知らないロジーが、エリクとガイを交互に見ながら尋ねてくる。
今までの経緯を忘れたエリクにとって、新たな混乱のもとでしかなかった。
「トカゲが、喋っている……!? 私がパパ? ガイ将軍がママ? そんな、私は人間なのに? えっ、ママということは、ガイ将軍は女性……!? いや、そんな――はっ!」
頭を抱え、うなされながら寝言を口にするようにエリクが呟き、突然大きな声を上げる。
そして顔を上げ、ぎこちない動きでガイを見た。
「まさか、ですが……ガイ将軍、私と結婚しているんですか!?」
これでもかと目を大きく見開いたエリクの驚愕ぶりに、ガイの胸がチクリと痛む。
しかし嘆くことも怒ることもできず、ガイは苦笑を浮かべるしかなかった。
「……色々と事情があるんだ。詳しい話は小屋でしよう」
エリクの顔に、少しバツが悪そうな表情を浮かぶ。
それで気持ちがわずかに落ち着いたのか、「わかりました」とエリクは頷いてくれた。
見上げながらガイの手の平に、嫌な汗がじわりと滲む。
(伴侶――エリクの魂を奪ったということは、まさか……っ)
バッ、と勢いよく振り返り、ガイは倒れたままのエリクに駆け寄った。
「大丈夫か、エリク!?」
すべての力を奪われたようにぐったりと倒れたエリクは、呼びかけても微動だにしない。
しかし、何度かガイが呼びかけた時、エリクの指先がピクリと動いた。
「う……」
生きていると分かった瞬間、ガイの口から一際大きなため息が溢れた。
「良かった……エリク、起き上がれそうか? 無理なら抱き上げて運ぶが――」
ゆっくりとエリクのまぶたが開き、ガイを見上げる。
目が合い、ガイはふと違和感を覚える。
寝起きであってもガイを映す瞳にあるはずの熱が、まったくない。
ガイの胸で嫌な動悸が響く中、鈍い動きでエリクは体を起こし、小首を傾げながら口を開いた。
「あの……貴方はいったい、どなたでしょうか?」
エリクの言葉に、ガイは身を強張らせる。
こんな時に冗談を言うような男ではない。
頭ではそれをよく分かっているのに、「なんの冗談だ?」と言いたくてたまらない。
動揺から現実逃避したがっている自分をガイが自覚していると、黒竜が悩ましげに息をついた。
《ごめんなさい、助けが間に合わなくて……エリク様の魂が、アギュリズに半分奪われてしまったようです》
「いや、黒竜殿のせいではない。むしろ半分で済んだと考えるべき……すべて奪われたならば、死んでいたということ。感謝してもし足りないほどだ」
話しながらガイは混乱を抑え込み、努めて冷静に黒竜に尋ねる。
「エリクが俺のことを覚えていないのは、魂を奪われたせいなのか?」
《ええ……魂とは、その者を作り上げ、動かし、証明するもの。今のエリク様は魂が食い散らかされて、穴開きになっているような状態です。記憶だけで済んでいるのは幸いとも言えますが――》
ロジーの本当の母親であり、エリクの体質のことで相談もした黒竜は、ガイにとって心強い身内でありママ友だ。
竜だからとガイが身構えることなく、当たり前のように黒竜と会話をしていると、ガイの視界の脇で小刻みにエリクが震えた。
「り、竜……っ、なぜここに……どうして竜と会話を……貴方はいったい……?」
エリクが本気で動揺し、怯えている。
記憶を失って黒竜を恐れるだけでなく、自分にまで怯えた目を向けてきて、ガイの瞳が揺れる。
それでも記憶を無くして一番辛いのはエリク自身だと己に言い聞かせ、ガイはエリクに声をかける。
「安心してくれ、俺も黒竜殿も敵ではない……自分の名前は言えるか?」
「……エリク・マレーロです」
「良かった。すべて忘れた訳ではないのだな。俺はガイ・デオタード。レアランダ王国で将軍職に就いていたが、訳あってこの地に君と生活を共にしている」
「レアランダ王国……ガイ将軍……すみません、思い出せません……」
「無理に思い出さなくてもいい。まずは一度小屋に戻って休もう――」
不安げなエリクを宥めながら、ガイが手を差し伸べる。
――トテテテッ、とロジーがガイの肩に登り、エリクに向かって首を伸ばした。
《パパ、だいじょうぶ!? ヘンなくろいやつにあたってたおれちゃって……あれ? どうしたの? ねえママ、パパがいつもよりヘンだよ?》
まだ事情を知らないロジーが、エリクとガイを交互に見ながら尋ねてくる。
今までの経緯を忘れたエリクにとって、新たな混乱のもとでしかなかった。
「トカゲが、喋っている……!? 私がパパ? ガイ将軍がママ? そんな、私は人間なのに? えっ、ママということは、ガイ将軍は女性……!? いや、そんな――はっ!」
頭を抱え、うなされながら寝言を口にするようにエリクが呟き、突然大きな声を上げる。
そして顔を上げ、ぎこちない動きでガイを見た。
「まさか、ですが……ガイ将軍、私と結婚しているんですか!?」
これでもかと目を大きく見開いたエリクの驚愕ぶりに、ガイの胸がチクリと痛む。
しかし嘆くことも怒ることもできず、ガイは苦笑を浮かべるしかなかった。
「……色々と事情があるんだ。詳しい話は小屋でしよう」
エリクの顔に、少しバツが悪そうな表情を浮かぶ。
それで気持ちがわずかに落ち着いたのか、「わかりました」とエリクは頷いてくれた。
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