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二章 エリクの異変
町に行くと
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◇ ◇ ◇
まだアギュリズの根城がある隣の大陸ではないせいか、特に襲われることもなく、旅自体は順調そのものだった。
我が家だといつもあちこち動き回って落ち着かないロジーだが、道中はガイの肩からなるべく離れず、じっとしてくれた。休憩中は近くの木に登って遊んでいたが、それでも遠くに行こうとしなかった。しかも、
《ボクがちかくにいたら、フツーのまものにおそわれてもだいじょうぶだから! ママもパパもまもるからー!》
小さな手をグッと握りながら、頼もしいことを言ってくれる。その姿は可愛いの一言に尽きるが、内容は魔物たちにとっては脅威そのものだ。なにせロジーが近くづくだけで、魔物たちはその神気によって弱体化してしまうのだから。
その力は魔王にまで有効で、ガイたちにとってはありがたいことこの上なかった。
町が近づくと、ロジーはガイの懐に潜り、宿に着くまで大人しくしてくれる。
あっという間に、傍から見れば男二人だけの旅にしか見えなくなる。まさか二人と一匹の、切実な目的を抱えながらの家族旅行だとは誰も思わない。
見た目だけならば珍しくもない光景のはずだが、町に足を踏み入れると、決まって行き交う人々がガイたちに視線を向けてきた。
(なぜこんなにも見られるのだ? 邪竜討伐に向かう旅でも視線はあったが、これほどではなかったぞ?)
首を傾げながら、ガイは馬を降りてエリクに声をかける。
「エリク、ここから間もなく市場になる。血の匂いを嗅いで暴れないよう、馬から降りて手綱をしっかり握って通り抜けるぞ」
「わかりました、ガイ」
言われた通りにするエリクを見ながら、ガイは甘くざわついてしまう体にため息をつきそうになる。
とにかくエリクからのガイ呼びに慣れない。頭では分かっているのに、エリクに深く愛されてしまった体が、勝手に悦んでしまう。そんな自分を自覚してしまうと、この場で身悶えて地を転げ回りたくなってしまう。
これ以上エリクを見てしまうと、体の疼きを抑え込めなくなりそうで、ガイは視線を逸らす。
ふと、通りを挟んで向かい側に町の女性が三人ほど集まり、ガイたちを指差しながらはしゃいでいる姿が目に留まる。
(こっちを見ている? ……いや、俺ではないな。彼女たちが見ているのはエリクだな)
女性たちの視線を追ってみれば、案の定エリクに刺さっている。
よく見ればあちこちから視線を感じ、それらがいずれもエリクを捉えていた。
以前からエリクの容姿が女性に好まれやすく、前の旅でも注目を浴びていたことを思い出す。だが、今はさらに好意の目が向けられているように感じる。
鼻血を出す頻度が増えているせいで、顔色が白く、どこか気だるげな表情なのが良いのかもしれないとガイは思う。
自分は血色が良く、常に熱を向けてくれるエリクのほうが好みなのだが――と考えていると、馬を降りたエリクがガイに近づき、微笑を浮かべた。気品と甘さを感じさせる笑みたった。
「お待たせして申し訳ありません、ガイ。早く宿に行きましょう」
……これはこれで良いかもしれない……いや、駄目だ。
そんなことを考えてしまい、ガイは心の中で首を横に振る。
元のエリクとは違う部分に惹かれてしまうのは、浮気になってしまうような気がしてならなかった。
まだアギュリズの根城がある隣の大陸ではないせいか、特に襲われることもなく、旅自体は順調そのものだった。
我が家だといつもあちこち動き回って落ち着かないロジーだが、道中はガイの肩からなるべく離れず、じっとしてくれた。休憩中は近くの木に登って遊んでいたが、それでも遠くに行こうとしなかった。しかも、
《ボクがちかくにいたら、フツーのまものにおそわれてもだいじょうぶだから! ママもパパもまもるからー!》
小さな手をグッと握りながら、頼もしいことを言ってくれる。その姿は可愛いの一言に尽きるが、内容は魔物たちにとっては脅威そのものだ。なにせロジーが近くづくだけで、魔物たちはその神気によって弱体化してしまうのだから。
その力は魔王にまで有効で、ガイたちにとってはありがたいことこの上なかった。
町が近づくと、ロジーはガイの懐に潜り、宿に着くまで大人しくしてくれる。
あっという間に、傍から見れば男二人だけの旅にしか見えなくなる。まさか二人と一匹の、切実な目的を抱えながらの家族旅行だとは誰も思わない。
見た目だけならば珍しくもない光景のはずだが、町に足を踏み入れると、決まって行き交う人々がガイたちに視線を向けてきた。
(なぜこんなにも見られるのだ? 邪竜討伐に向かう旅でも視線はあったが、これほどではなかったぞ?)
首を傾げながら、ガイは馬を降りてエリクに声をかける。
「エリク、ここから間もなく市場になる。血の匂いを嗅いで暴れないよう、馬から降りて手綱をしっかり握って通り抜けるぞ」
「わかりました、ガイ」
言われた通りにするエリクを見ながら、ガイは甘くざわついてしまう体にため息をつきそうになる。
とにかくエリクからのガイ呼びに慣れない。頭では分かっているのに、エリクに深く愛されてしまった体が、勝手に悦んでしまう。そんな自分を自覚してしまうと、この場で身悶えて地を転げ回りたくなってしまう。
これ以上エリクを見てしまうと、体の疼きを抑え込めなくなりそうで、ガイは視線を逸らす。
ふと、通りを挟んで向かい側に町の女性が三人ほど集まり、ガイたちを指差しながらはしゃいでいる姿が目に留まる。
(こっちを見ている? ……いや、俺ではないな。彼女たちが見ているのはエリクだな)
女性たちの視線を追ってみれば、案の定エリクに刺さっている。
よく見ればあちこちから視線を感じ、それらがいずれもエリクを捉えていた。
以前からエリクの容姿が女性に好まれやすく、前の旅でも注目を浴びていたことを思い出す。だが、今はさらに好意の目が向けられているように感じる。
鼻血を出す頻度が増えているせいで、顔色が白く、どこか気だるげな表情なのが良いのかもしれないとガイは思う。
自分は血色が良く、常に熱を向けてくれるエリクのほうが好みなのだが――と考えていると、馬を降りたエリクがガイに近づき、微笑を浮かべた。気品と甘さを感じさせる笑みたった。
「お待たせして申し訳ありません、ガイ。早く宿に行きましょう」
……これはこれで良いかもしれない……いや、駄目だ。
そんなことを考えてしまい、ガイは心の中で首を横に振る。
元のエリクとは違う部分に惹かれてしまうのは、浮気になってしまうような気がしてならなかった。
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