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二章 エリクの異変
気まずいまま夜を迎え
◇ ◇ ◇
隣の大陸へ行くために、ガイたちはヨルリア山脈の手前を縦断し、港街サーデューを目指していく。
愛馬を走らせての旅は、順調そのものだった。
魔王アギュリズが襲ってくることも、手下をけしかけられることもなく、穏やかな好天の下を進むことができた。
街道を移動している最中は、エリクの様子も変わりなく、人気がなければロジーも外の風に当たることができて楽しげで、ガイも嬉しくなった。
むしろ町中に入る時のほうが、色々な意味で気が抜けなかった。
頭に外套のフードを被って顔を見えにくくしても、エリクの周りに女性が群がった。中には顔がチラ見えしたほうがたまらない、という声も聞こえ、目的の店に入るまでは足を止めないことで、彼女たちを振り切る手段を取るしかなかった。
携帯食料を買いに訪れた店で、エリクが干し肉を吟味しながらため息をつく。
「まったく、なぜ見ず知らずの私に群がろうとするのか……理解ができません」
事情を知らない者が聞けば、なんと嫌味で贅沢な青年だと苛つきそうだとガイは思う。しかし、隣で砕いた木の実を砂糖で固めた物を手にしながら、エリクに聞こえるように告げる。
「それだけ見目がいいんだ、仕方ないことだ。軍にいた時でも一、二を争うほどの美青年だったからな」
あくまで事実を伝えただけでガイに他意はなかった。
急にエリクの顔が赤くなり、俯いてしまった。
「……ガイも、私がそのように見えているのですか?」
言われてガイはハッとなって、ソワソワしてしまう。
「あ、ああ、うむ、俺も、皆もそう思っていた。俺だけが特別という訳ではない」
元上司が部下の外見を無闇に褒めると、不快感を与えることになりかねない。
今のエリクは普段とは違うのだから、線引きはしっかりしておかねば……とガイは自分に言い聞かせる。
やはり不快感があったのか、エリクの顔から熱が一気に消えた。
「そう……ですか」
それから宿に入るまで、エリクの口数は激減してしまい、ガイは自分のやらかしを心の中で猛省することしかできなかった。
少し遅めに宿に到着すると、ガイは部屋に入るなり、懐にそっと手を差し込んだ。
「……やはりもう眠ってしまったか。よく寝ているな」
大きな手で優しくロジーをすくい取ると、ガイは荷袋の中にある小籠を取り出そうとする。
スッ、とガイの目の前に、エリクが小籠を差し出した。
「ロジーの寝床はこれですよね?」
「ありがとう、エリク。助かった」
エリクの声色がいつも通りの穏やかなものに戻っており、ガイは胸を撫で下ろしながら小籠を受け取る。
そうして揺らさないように静かにロジーを寝かせると、いつものようにベッドの枕元に置こうとした時だった。
ガイの視界の脇で、エリクの頭が大きく揺れ――バタンッ。床を大きく響かせながら、エリクが倒れてしまった。
「エリク!? しっかりしろ!」
慌ててガイが駆けつけて抱き起こそうとするが、拒むようにエリクが倒れたままうずくまり、息を荒くさせ、身を震わせる。
それでも手を伸ばそうとしたガイに、力なくエリクが首を横に振ってみせた。
隣の大陸へ行くために、ガイたちはヨルリア山脈の手前を縦断し、港街サーデューを目指していく。
愛馬を走らせての旅は、順調そのものだった。
魔王アギュリズが襲ってくることも、手下をけしかけられることもなく、穏やかな好天の下を進むことができた。
街道を移動している最中は、エリクの様子も変わりなく、人気がなければロジーも外の風に当たることができて楽しげで、ガイも嬉しくなった。
むしろ町中に入る時のほうが、色々な意味で気が抜けなかった。
頭に外套のフードを被って顔を見えにくくしても、エリクの周りに女性が群がった。中には顔がチラ見えしたほうがたまらない、という声も聞こえ、目的の店に入るまでは足を止めないことで、彼女たちを振り切る手段を取るしかなかった。
携帯食料を買いに訪れた店で、エリクが干し肉を吟味しながらため息をつく。
「まったく、なぜ見ず知らずの私に群がろうとするのか……理解ができません」
事情を知らない者が聞けば、なんと嫌味で贅沢な青年だと苛つきそうだとガイは思う。しかし、隣で砕いた木の実を砂糖で固めた物を手にしながら、エリクに聞こえるように告げる。
「それだけ見目がいいんだ、仕方ないことだ。軍にいた時でも一、二を争うほどの美青年だったからな」
あくまで事実を伝えただけでガイに他意はなかった。
急にエリクの顔が赤くなり、俯いてしまった。
「……ガイも、私がそのように見えているのですか?」
言われてガイはハッとなって、ソワソワしてしまう。
「あ、ああ、うむ、俺も、皆もそう思っていた。俺だけが特別という訳ではない」
元上司が部下の外見を無闇に褒めると、不快感を与えることになりかねない。
今のエリクは普段とは違うのだから、線引きはしっかりしておかねば……とガイは自分に言い聞かせる。
やはり不快感があったのか、エリクの顔から熱が一気に消えた。
「そう……ですか」
それから宿に入るまで、エリクの口数は激減してしまい、ガイは自分のやらかしを心の中で猛省することしかできなかった。
少し遅めに宿に到着すると、ガイは部屋に入るなり、懐にそっと手を差し込んだ。
「……やはりもう眠ってしまったか。よく寝ているな」
大きな手で優しくロジーをすくい取ると、ガイは荷袋の中にある小籠を取り出そうとする。
スッ、とガイの目の前に、エリクが小籠を差し出した。
「ロジーの寝床はこれですよね?」
「ありがとう、エリク。助かった」
エリクの声色がいつも通りの穏やかなものに戻っており、ガイは胸を撫で下ろしながら小籠を受け取る。
そうして揺らさないように静かにロジーを寝かせると、いつものようにベッドの枕元に置こうとした時だった。
ガイの視界の脇で、エリクの頭が大きく揺れ――バタンッ。床を大きく響かせながら、エリクが倒れてしまった。
「エリク!? しっかりしろ!」
慌ててガイが駆けつけて抱き起こそうとするが、拒むようにエリクが倒れたままうずくまり、息を荒くさせ、身を震わせる。
それでも手を伸ばそうとしたガイに、力なくエリクが首を横に振ってみせた。
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