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三章 ありがたい?再会
色々呑み込んで
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母国であるレアランダ王国と数年前まで戦い続けていた、隣国サグニア王国の猛将ゲイン・カレロ。
ガイにとって命を賭けて本気で戦い合った強敵であり、好敵手だった。
しかし戦争が終わり、両国の関係が改善された今は敵ではなくなり、ゲインの領地で愛馬を保護してくれた恩もある相手だった。
そしてガイには信じられないことに、ガイに想いを秘めていた者たちの一人でもあった。
今では副官のラヒュを恋人に持ち、仲良くやっているらしい。そんなゲインが、領地を離れてこの港街サーデューにいることに、ガイは驚くばかりだった。
ゲインも同様らしく、しばらく互いに見合った後、豪胆な笑みを浮かべる。
「奇遇だな。俺はラヒュにせがまれてここへ来たんだが……もしや新婚旅行か?」
チラリとゲインの目が、ガイの背後を見やる。
つられてガイも首を捻って横目で後ろを見やれば、遅れてついてきたエリクが視界に入った。
ゲインのことも忘れているらしく、エリクは初対面の相手を見るように訝しげな顔をしている。その違和感にすぐ気付いたゲインも、不可解げに顔をしかめた。
早く事情を説明せねばおかしなことになりそうだと、ガイはゲインに向き直りながら告げる。
「そんな平和な事情ではないんだ……訳あってエリクの魂が、魔王アギュリズに半分奪われてしまってな。そのせいで記憶を失ってしまったんだ。だから隣の大陸へ渡り、魂を取り戻しに向かっている」
「なんだと? あのような大事が起きたばかりだというのに……災難だな」
事情を聞くにつれて、ゲインの眉間にシワが寄っていく。
「問題があるのは記憶の喪失だけか? 他にも異常はないのか? できれば共に行きたいところだが、領地を空け続ける訳にもいかん……だが可能な限りは力になるぞ、ガイ」
いつもならば、その気持ちだけで十分だとガイの口は伝えていた。
だが、心身に疲労を重ねた今のガイには、ゲインの申し出があまりにもありがたかった。
「願ってもないことだ。ゲイン、実は相談したいことが――」
ガイが話を進めようとしたその時――ザッ、とゲインからガイを隠すように、エリクが二人の間に割り込んだ。
「大変申し訳ありませんが、今、ガイは本調子ではありません。一刻も早く宿で休ませる必要がありますので、本日はこれで失礼させてください」
エリクの口調は丁寧だが、声の調子が淡々として凍てついた気配を漂わせている。
まったく友好の気配がない。ガイは慌ててエリクの肩を掴んで身を乗り出し、エリクの顔を覗き込もうとした。
「エリク、俺は大丈夫だ。少し話をするくら、い……」
視界にエリクの顔を入れた瞬間、ガイは口を閉ざす。
声色よりも冷ややかな目つきでゲインを睨むエリクの顔は、今にも斬りつけそうなほどの殺気と拒絶に染まっていた。
ゾワリ、とガイの背筋に悪寒が走る。
これ以上は無理だと判断せざるを得なかった。
「……ゲイン、申し訳ないがこれで失礼する。良い旅を」
「あ、ああ……また会おう、ガイ」
ゲインもエリクの様子を察したらしく、引き止めずに手を振りながら踵を返す。
ほんの一時でも頼りたかったが、自分のことよりもエリクが優先だ。
威嚇するようにゲインの背を睨み続けるエリクの肩を叩き、ガイは行くぞと促した。
少し歩き出してから、エリクから小さく息をつく音がした。
「……申し訳ありません。あの方を覚えていないのに、なぜか体がざわついてしまって……ガイに近づけてはいけないという衝動が……」
話を聞きながら、ガイは目を細める。
(まさか記憶はないが、エリクの体がゲインを覚えているのか? 数多いた恋敵の一人だったということを……我ながら未だに実感が持てないんだが)
尋ねてみたいところだったが、言えばエリクを混乱させて追い詰めてしまうだけだ。
そう判断し、ガイは言葉を飲み込み、後ろ髪を引かれる思いをしながら宿探しへと向かった。
ガイにとって命を賭けて本気で戦い合った強敵であり、好敵手だった。
しかし戦争が終わり、両国の関係が改善された今は敵ではなくなり、ゲインの領地で愛馬を保護してくれた恩もある相手だった。
そしてガイには信じられないことに、ガイに想いを秘めていた者たちの一人でもあった。
今では副官のラヒュを恋人に持ち、仲良くやっているらしい。そんなゲインが、領地を離れてこの港街サーデューにいることに、ガイは驚くばかりだった。
ゲインも同様らしく、しばらく互いに見合った後、豪胆な笑みを浮かべる。
「奇遇だな。俺はラヒュにせがまれてここへ来たんだが……もしや新婚旅行か?」
チラリとゲインの目が、ガイの背後を見やる。
つられてガイも首を捻って横目で後ろを見やれば、遅れてついてきたエリクが視界に入った。
ゲインのことも忘れているらしく、エリクは初対面の相手を見るように訝しげな顔をしている。その違和感にすぐ気付いたゲインも、不可解げに顔をしかめた。
早く事情を説明せねばおかしなことになりそうだと、ガイはゲインに向き直りながら告げる。
「そんな平和な事情ではないんだ……訳あってエリクの魂が、魔王アギュリズに半分奪われてしまってな。そのせいで記憶を失ってしまったんだ。だから隣の大陸へ渡り、魂を取り戻しに向かっている」
「なんだと? あのような大事が起きたばかりだというのに……災難だな」
事情を聞くにつれて、ゲインの眉間にシワが寄っていく。
「問題があるのは記憶の喪失だけか? 他にも異常はないのか? できれば共に行きたいところだが、領地を空け続ける訳にもいかん……だが可能な限りは力になるぞ、ガイ」
いつもならば、その気持ちだけで十分だとガイの口は伝えていた。
だが、心身に疲労を重ねた今のガイには、ゲインの申し出があまりにもありがたかった。
「願ってもないことだ。ゲイン、実は相談したいことが――」
ガイが話を進めようとしたその時――ザッ、とゲインからガイを隠すように、エリクが二人の間に割り込んだ。
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エリクの口調は丁寧だが、声の調子が淡々として凍てついた気配を漂わせている。
まったく友好の気配がない。ガイは慌ててエリクの肩を掴んで身を乗り出し、エリクの顔を覗き込もうとした。
「エリク、俺は大丈夫だ。少し話をするくら、い……」
視界にエリクの顔を入れた瞬間、ガイは口を閉ざす。
声色よりも冷ややかな目つきでゲインを睨むエリクの顔は、今にも斬りつけそうなほどの殺気と拒絶に染まっていた。
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これ以上は無理だと判断せざるを得なかった。
「……ゲイン、申し訳ないがこれで失礼する。良い旅を」
「あ、ああ……また会おう、ガイ」
ゲインもエリクの様子を察したらしく、引き止めずに手を振りながら踵を返す。
ほんの一時でも頼りたかったが、自分のことよりもエリクが優先だ。
威嚇するようにゲインの背を睨み続けるエリクの肩を叩き、ガイは行くぞと促した。
少し歩き出してから、エリクから小さく息をつく音がした。
「……申し訳ありません。あの方を覚えていないのに、なぜか体がざわついてしまって……ガイに近づけてはいけないという衝動が……」
話を聞きながら、ガイは目を細める。
(まさか記憶はないが、エリクの体がゲインを覚えているのか? 数多いた恋敵の一人だったということを……我ながら未だに実感が持てないんだが)
尋ねてみたいところだったが、言えばエリクを混乱させて追い詰めてしまうだけだ。
そう判断し、ガイは言葉を飲み込み、後ろ髪を引かれる思いをしながら宿探しへと向かった。
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