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三章 ありがたい?再会
昼間の豹変
「なんだ? 何が起きた?」
咄嗟にガイが船を見上げると、ゲインが甲板に上がり切ったのが見える。
視界にあるのは揺れる船体と梯子、空と波しぶき――エリクとラヒュの姿が見えない。
ラヒュはゲインの無事を確かめに駆け寄ったのだろうとガイは考える。
だが、エリクは?
記憶を無くしているとはいえ、エリクが理由なく自分から目を離すことはない。身を乗り出して覗き込むぐらいのことはするはず。
それなのに姿が見えないということは、予期せぬことが起きているのではないか? とガイは小さく息を引く。
疲労の蓄積で重くなりつつあった手足を素早く動かし、ガイも甲板に上がる。
前を見た瞬間、ガイの全身が総毛立つ。
甲板の中央でエリクが片膝をつき、身を震わせる姿があった。
銀色の髪は黒に染まり、丸まった背からは禍々しい気配が漂い、夜に起きる変異を遂げていた。
「皆、下がれ! 近づくんじゃない!」
事態をすぐに察したゲインが水夫たちに指示を出し、自らは前に出て対処しようと剣を構えている。ラヒュもエリクから距離を取りながら、険しい表情を浮かべて切っ先を向けている。
海にはクラーケン。船には魔性を帯びたエリク。場が騒然となるのも当然だった。
「まだ日が沈んでいないのに、なぜ……?」
思わずガイが呟くと、懐からロジーが顔を出した。
〈まものがいるのに、ボクからはなれたせいだ……ママ、ちょっとパパのところにいってくる!〉
するりと抜けたかと思えば、ロジーは小さな翼を広げ、矢のような速さでエリクの元へと飛んでいく。
「待て、ロジー!」
咄嗟にガイもロジーを追いかけ、エリクの元へ駆け寄る。
真っ先にエリクの胸元にロジーが飛び込んでしがみつくと、エリクの髪に銀の輝きが戻り始めた。
「……私は、いったい?」
「意識が戻ったのか! しっかりしろエリク」
鈍い動きでエリクが頭を上げる。脂汗を滲ませたその顔は血の気がなく、いつにも増して白い。目は片方が黒くなったままで、髪も完全に元に戻らず、黒と銀でまだらになっている。
ドォォォンッ、と船体がクラーケンの触手に叩かれ、大きく揺れる。
体勢を崩しかけたエリクをガイは支え、ゲインたちを見渡した。
「こっちは大丈夫だ。先にクラーケンを倒してしまおう」
「本当に大丈夫なのか、ガイ?」
未だ警戒を解かないゲインに、ガイは大きく頷いてみせる。
「ロジーの……神竜の加護を得た。日が落ちなければ問題ない」
一瞬ゲインの眉間に深いシワが刻まれたが、すぐフッと力を抜き、息をついた。
「まったく、これでは安心して任せられないではないか……仕方ないこととはいえ、歯痒いものだ」
「……ゲイン様……」
「こらラヒュ、こんな時に妬くな! お前が思っているようなことじゃない」
ラヒュに険しい顔を向けられ、ゲインが小刻みに首を横に振る。
そしてゴホンと咳払いをしてから踵を返し、ゲインは大声を上げた。
「ここが耐え時だ! 壊されぬよう、触手から船を守ることに専念してくれ!」
迷いない声に水夫たちが「おうっ!」と叫び、各々に持ち場へと散っていく。
頼れる指揮官がいるというのは本当にありがたい。ガイは心からゲインに感謝を覚えつつ、エリクに背を向けた。
「エリク、ロジーを頼む。俺はクラーケンに集中する」
「私も加勢を――いえ、ご武運を」
エリクが声を震わせながら告げてくる。戦力になれないことへの悔しさが滲み出ているが、宥めるだけ傷つけるだけだとガイは思う。
振り向かずに短く頷くと、辺りを見渡し、人手の少ない所へ加勢に向かった。
咄嗟にガイが船を見上げると、ゲインが甲板に上がり切ったのが見える。
視界にあるのは揺れる船体と梯子、空と波しぶき――エリクとラヒュの姿が見えない。
ラヒュはゲインの無事を確かめに駆け寄ったのだろうとガイは考える。
だが、エリクは?
記憶を無くしているとはいえ、エリクが理由なく自分から目を離すことはない。身を乗り出して覗き込むぐらいのことはするはず。
それなのに姿が見えないということは、予期せぬことが起きているのではないか? とガイは小さく息を引く。
疲労の蓄積で重くなりつつあった手足を素早く動かし、ガイも甲板に上がる。
前を見た瞬間、ガイの全身が総毛立つ。
甲板の中央でエリクが片膝をつき、身を震わせる姿があった。
銀色の髪は黒に染まり、丸まった背からは禍々しい気配が漂い、夜に起きる変異を遂げていた。
「皆、下がれ! 近づくんじゃない!」
事態をすぐに察したゲインが水夫たちに指示を出し、自らは前に出て対処しようと剣を構えている。ラヒュもエリクから距離を取りながら、険しい表情を浮かべて切っ先を向けている。
海にはクラーケン。船には魔性を帯びたエリク。場が騒然となるのも当然だった。
「まだ日が沈んでいないのに、なぜ……?」
思わずガイが呟くと、懐からロジーが顔を出した。
〈まものがいるのに、ボクからはなれたせいだ……ママ、ちょっとパパのところにいってくる!〉
するりと抜けたかと思えば、ロジーは小さな翼を広げ、矢のような速さでエリクの元へと飛んでいく。
「待て、ロジー!」
咄嗟にガイもロジーを追いかけ、エリクの元へ駆け寄る。
真っ先にエリクの胸元にロジーが飛び込んでしがみつくと、エリクの髪に銀の輝きが戻り始めた。
「……私は、いったい?」
「意識が戻ったのか! しっかりしろエリク」
鈍い動きでエリクが頭を上げる。脂汗を滲ませたその顔は血の気がなく、いつにも増して白い。目は片方が黒くなったままで、髪も完全に元に戻らず、黒と銀でまだらになっている。
ドォォォンッ、と船体がクラーケンの触手に叩かれ、大きく揺れる。
体勢を崩しかけたエリクをガイは支え、ゲインたちを見渡した。
「こっちは大丈夫だ。先にクラーケンを倒してしまおう」
「本当に大丈夫なのか、ガイ?」
未だ警戒を解かないゲインに、ガイは大きく頷いてみせる。
「ロジーの……神竜の加護を得た。日が落ちなければ問題ない」
一瞬ゲインの眉間に深いシワが刻まれたが、すぐフッと力を抜き、息をついた。
「まったく、これでは安心して任せられないではないか……仕方ないこととはいえ、歯痒いものだ」
「……ゲイン様……」
「こらラヒュ、こんな時に妬くな! お前が思っているようなことじゃない」
ラヒュに険しい顔を向けられ、ゲインが小刻みに首を横に振る。
そしてゴホンと咳払いをしてから踵を返し、ゲインは大声を上げた。
「ここが耐え時だ! 壊されぬよう、触手から船を守ることに専念してくれ!」
迷いない声に水夫たちが「おうっ!」と叫び、各々に持ち場へと散っていく。
頼れる指揮官がいるというのは本当にありがたい。ガイは心からゲインに感謝を覚えつつ、エリクに背を向けた。
「エリク、ロジーを頼む。俺はクラーケンに集中する」
「私も加勢を――いえ、ご武運を」
エリクが声を震わせながら告げてくる。戦力になれないことへの悔しさが滲み出ているが、宥めるだけ傷つけるだけだとガイは思う。
振り向かずに短く頷くと、辺りを見渡し、人手の少ない所へ加勢に向かった。
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