14 / 82
二章 駆け引き
クウェルクの狙い
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
『クウェルク様、なぜ貴方様がここへ?』
『お主を助けるために決まっておるだろう。それと、退魔師どもを内側から懲らしめてやろうと思ってな』
『お気持ちは嬉しいのですが、何も貴方様が直々にいらっしゃらなくても……』
『奴らがあり得ぬと思うことをせねば、我らは追いやられるだけ。まさか一番滅したいと望んでいる相手が、自ら懐に飛び込んでいるとは考えもしないだろう。逃げ回るより安全で、奴らに致命傷を与えられる……悪くなかろう?』
『しかし……弱き者を人は容易に傷つけます。恐らく貴方様へむごい仕打ちをしてくることでしょう。やり過ぎる者も出てくれば――』
『案ずるな。これでも人を選んで捕まってやった。あのビクトルという男、強き者と戦いたがる質の人間。弱き者を虐げることは恥と考える奴だと知った上で利用したのだ』
『そうは言われましても――』
『大丈夫だ。私はここで機を見て、奴らを欺き通してお主を助ける――しかし、なんだ。このようなか弱き姿でやり取りするのは落ち着かぬな』
クウェルク様の言葉に、俺は思わず借り物の全身を大きく前倒して頷く仕草を見せる。
今は昼間。
俺とクウェルク様は引き離され、隔離されている。
明るい内は動けぬと思わせ、外で生きる者の体を借りて活動する――俺は蝶の体を、クウェルク様はネズミの体を借り、屋敷の陰でやり取りしていた。
会話も思念で交わしているから、声も聞かれはしない。何も知らない者から見れば、ネズミが蝶の踊りを眺めるだけの微笑ましい光景なのだろう。
小さな手で耳を掻き、ネズミの鼻をヒクヒクとさせてからクウェルク様は俺に語る。
『私は今、屋敷の地下牢に閉じ込められている。ずっと使われていなくて埃まみれだ。起きているとクシャミが止まらぬ』
『そんな劣悪な環境に……ビクトルの奴め。この身が自由になった時、真っ先に我が剣で切り刻んでくれる』
『まあアレを悪く言うことはない。奴も驚いていたからな。本来は魔の者を捕らえて放り込む場所だというのに、まったく使われていなかった……最初からカナイを入れる気がなかったということだ。そして何があっても使う気がない。力でお主を押さえ切れるという自信の表れだ』
クウェルク様の指摘に俺は蝶の体をフラつかせてしまう。ミカルとのことを思い出し、この身がめまいを覚えてしまったからだ。
『どうしたカナイ?』
『いえ……ミカルから言われたのですが、ミカルは個人的に魔の者を人へ戻す道を探っていると。だから吸血鬼の王である俺に協力して欲しいと』
『……ほう。上手くいくのであれば、いい攻め方だな。命を残しつつ、魔の者という存在そのものを滅するやり方だ。我らが根源を消そうと考えるなど、なんとも容赦のないことだ』
『クウェルク様、なぜ貴方様がここへ?』
『お主を助けるために決まっておるだろう。それと、退魔師どもを内側から懲らしめてやろうと思ってな』
『お気持ちは嬉しいのですが、何も貴方様が直々にいらっしゃらなくても……』
『奴らがあり得ぬと思うことをせねば、我らは追いやられるだけ。まさか一番滅したいと望んでいる相手が、自ら懐に飛び込んでいるとは考えもしないだろう。逃げ回るより安全で、奴らに致命傷を与えられる……悪くなかろう?』
『しかし……弱き者を人は容易に傷つけます。恐らく貴方様へむごい仕打ちをしてくることでしょう。やり過ぎる者も出てくれば――』
『案ずるな。これでも人を選んで捕まってやった。あのビクトルという男、強き者と戦いたがる質の人間。弱き者を虐げることは恥と考える奴だと知った上で利用したのだ』
『そうは言われましても――』
『大丈夫だ。私はここで機を見て、奴らを欺き通してお主を助ける――しかし、なんだ。このようなか弱き姿でやり取りするのは落ち着かぬな』
クウェルク様の言葉に、俺は思わず借り物の全身を大きく前倒して頷く仕草を見せる。
今は昼間。
俺とクウェルク様は引き離され、隔離されている。
明るい内は動けぬと思わせ、外で生きる者の体を借りて活動する――俺は蝶の体を、クウェルク様はネズミの体を借り、屋敷の陰でやり取りしていた。
会話も思念で交わしているから、声も聞かれはしない。何も知らない者から見れば、ネズミが蝶の踊りを眺めるだけの微笑ましい光景なのだろう。
小さな手で耳を掻き、ネズミの鼻をヒクヒクとさせてからクウェルク様は俺に語る。
『私は今、屋敷の地下牢に閉じ込められている。ずっと使われていなくて埃まみれだ。起きているとクシャミが止まらぬ』
『そんな劣悪な環境に……ビクトルの奴め。この身が自由になった時、真っ先に我が剣で切り刻んでくれる』
『まあアレを悪く言うことはない。奴も驚いていたからな。本来は魔の者を捕らえて放り込む場所だというのに、まったく使われていなかった……最初からカナイを入れる気がなかったということだ。そして何があっても使う気がない。力でお主を押さえ切れるという自信の表れだ』
クウェルク様の指摘に俺は蝶の体をフラつかせてしまう。ミカルとのことを思い出し、この身がめまいを覚えてしまったからだ。
『どうしたカナイ?』
『いえ……ミカルから言われたのですが、ミカルは個人的に魔の者を人へ戻す道を探っていると。だから吸血鬼の王である俺に協力して欲しいと』
『……ほう。上手くいくのであれば、いい攻め方だな。命を残しつつ、魔の者という存在そのものを滅するやり方だ。我らが根源を消そうと考えるなど、なんとも容赦のないことだ』
1
あなたにおすすめの小説
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜
中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」
仕事終わりの静かな執務室。
差し入れの食事と、ポーションの瓶。
信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、
ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる