薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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二章 駆け引き

感覚のズレ

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   ◇ ◇ ◇

『カナイよ、お主のほうは上手くいったか?』

 翌日の昼間、小さなトカゲを操ったクウェルク様が早々に尋ねてきた。
 茶色い小鳥の体を借りた俺は、木陰の花壇でトカゲと隣り合って座り、小さく首を横に振る。

『申し訳ありません、クウェルク様……こちらの誘惑を跳ね返された上に、情けをかけられました』

『ほう、吸血鬼の誘惑に抗えるとは。やはりあの男は手強いな』

『凄まじい精神力です。あまりしつこく仕掛ければ、封印を強められて身動きが取れなくなるかもしれません。わが身可愛さではありませんが、やり方を変えたほうが得策かと思います』

 俺の進言に対して、クウェルク様はすぐに答えてくれなかった。
 しばらく無言を続けた後、どこか不敵な笑みを浮かべていそうな声で話を切り出す。

『お主のほうはそれで構わぬ。ミカルがお主と真に交友関係を築きたがっているならば、奴の戯言に付き合ってやれば良い。手駒に出来ぬのならば、少しでも奴の手の内を探り、隙を見つけるなり作るなりすればいい』

『分かりました。あの者は私と話したがりますので、情報を聞き出す方向性で動いてみます』

『それで構わぬ。外の状況は気になる所だが、焦りは禁物だ。確実に逃げる準備を進めていくぞ』

 外の状況――他の魔の者たちがどんな状態なのかは、ここからでは分からない。
 ミカルは俺が大人しく捕らわれているなら、魔の者を退魔師たちに追わせないと言っていた。だが果たしてそれが守られているかどうかは、ここからでは知ることができない。

 俺の心配を汲み取って下さったのか、クウェルク様が『心配するな』と一笑する。

『ビクトルの話だと、今は膠着状態にあるらしい。ヒューゴに指揮を任せてきたのだが、あの者はよくまとめてくれる。鼻も利くから、人間どもが近づけば気づいて退避できる。カナイよ、あれは良き僕だな』

『ありがとうございます。クウェルク様に褒めて頂けたと知れば、ヒューゴも喜ぶことかと思います』

『あの忠犬は、お主からの称賛のほうが喜ぶと思うがな……私もそういう一途で可愛い僕を作るのも一興か』

 どうやらクウェルク様のほうは、ビクトルへの誘惑が上手くいったらしい。
 体を使ってのこと。我らの王が自ら卑しき行為の犠牲となりその様子を語るなど、傷を抉りながら血反吐を垂れ流すようなものだ。

 何も聞かぬほうがいいと思っていたが、

『あれは見た目によらず良き声で啼く。何も知らぬ体が悦びを教えられて、素直になっていく様はなんとも愛いものだ。よく言うことを聞くよう、丁寧に躾けてやろう』

 クウェルク様自ら嬉々としてその様子を漏らす。どうやら本当にあのビクトルと関係を持ったらしい。

 ……あのか弱きお姿で?
 想像がついていかず、俺は心の中で頭を抱えるしかなかった。
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