薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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三章 バラの香に囚われて

●愛する理由

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 どこまで俺のために耐えてくれるのか試してやりたくて、ミカルの血を甘く吸いながら、未だ肌を隠すこの男の服をはだけさせる。

 露わになった胸を撫でながら背へ腕を回せば、グンッ、と俺の最奥が抉られる。
 俺からの刺激に堪えられず、衝動的に動いてしまったのが丸分かりだ。やはりやせ我慢しているのだと分かってしまい、笑いが込み上げてきた。

 一旦首筋を解放し、ミカルの顔を覗き込む。
 その顔は苦しげに歪んでいたが、それでも笑みを絶やしていなかった。

「フフ……そんなことをしなくとも、私は、もう貴方なしではいられませんから」

 ゆさゆさと俺の腰を揺さ振りながら、ミカルは唇を深く結ばせてくる。
 舌も中もねっとりと絡み合い、望んでもいないのに快楽が上乗せされ、共有されていく。

 吸血したばかりの口は血に塗れているというのに、さも美味しそうにミカルは俺の口を舐って止まない。まるで吸血鬼に自力で変わってしまったかのような貪り具合だ。

 よくもまあ自分の血を味わいながら俺を抱けるものだと呆れていると、ミカルが唇の先が擦れ合うほどわずかに口を離し、俺の目を覗き込んでくる。

「カナイ。私の心はあの日の夜から、ずっと貴方に奪われたままなんです……」

「ぁ……っ、いつの、ことだ……っ……?」

 どうせまたはぐらかされると分かっていても、思わず尋ねてしまう。
 知ったところで俺の心は動かない。ただ、知らないと一方的に押し付けられる愛情に困惑して、振り回されるだけ。

 期待はしていなかった。
 だがミカルは軽く口づけた後、逃げずに答えた。


「村を退魔師たちに焼かれ、貴方に救われ、情けをかけられた夜のこと……ですよ。私は貴方の涙を知っています」


 俺の頭が目まぐるしく働き、深くしまい込んでいた記憶を引きずり出してくる。

 吸血鬼としての自分を受け入れられるようになったのは、比較的最近だった。

 二十年ほど前までは、今よりも人間だった頃の感覚や価値観が色濃く残っていて、己の食事にすら抵抗感があったほどだ。

 そんな中、俺を追ってきた退魔師たちのせいで村を焼かれ、茫然と立ち尽くす子供に出会ったことがある。

 燃え盛る家を間近に臨み、火の粉がかかろうとも微動だにしなかった子供。
 見るに見かねて「危ないから離れろ」と襟首を掴み、引き離した。理由を聞けば家族がこの中にいる、と抑揚のない声で教えてくれた。

 俺のせいで子どもは住処も家族も失った。
 内心、激しく同情した。まだ残っていた人の心が痛みを覚えた。

 それなのに俺は、逃亡で力を使い続けたせいで、この可哀想な子供を食べたくてたまらなかった。

 元は人であったというのに、憐れだと胸を痛める者に喰らいつきたいという衝動。
 吸血鬼という存在になったことを、この瞬間ほど後悔したことはない。

 さらなる理不尽を与えようとするなんて……俺に理不尽を与えてきた奴らどもと、同じ存在になんかなりたくなかった。

 俺は奴らとは違う。
 この子供に理不尽を与えてたまるか。

 ただ見逃してやることしかできない自分が悔しくて、思わず目から涙が零れた。

 ――あの時の子供がミカルだったなんて。
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