薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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四章 そして彼は愛を知る

黒き助け

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 足を止めた所よりは辺りの木々は増えてきたが、まだ身を隠し、罠を仕掛けるには心もとない。もっと奥へと進みたかったが――。

「ガウッ!」

 私が来た道から突然、獣の短い叫びとともに黒い影が飛びかかってくる。
 咄嗟に剣を抜いて切りつけたが、すぐに二匹、三匹と同じように襲い来る。剣では間に合わずに、しなやかな胴体を蹴飛ばしてみれば、キャウン、と高い鳴き声がした。

 犬だ。しかも野良じゃない。明らかに訓練されたものだ。
 仕込んだ猟犬を足止めにけしかけたのだろう。ということは、追手はもうそこまで来ている。

 猟犬から逃れようと駆け出すが、すぐに体勢を直したものが私を追い、新たな犬が私の行く手を阻む。

 そうして追い詰められ、私は大きな木を背後にしながら、猟犬たちに取り囲まれてしまった。

 方々から「ウウウウウ……」と低く唸る声が聞こえてくる。
 向こうの方からは草を踏む音が聞こえ、蠢く人影も見える。

 多勢に無勢……それでも私は諦めず、剣を構えた。

 絶対に生き延びなければいけない。
 そのためなら、どんな手段も厭わない。

 毒を流し、辺り一帯の命をすべて犠牲にしてでも、私は――。

 猟犬たちと見合うばかりで、身動きが取れない私へ近づく追手の姿が大きくなっていく。
 間もなく仄暗い中でも顔が分かりそうな距離まで、追手が近づいたその時だった。

 ――シュッ。

 風を切り裂くような音とともに、黒い影が追手たちの間を駆け抜けていく。

「ヒィ……ッ」

「ぐぁぁっ」

「あが……ッ」

 次々と短い悲鳴や苦しげな声が上がり、追手たちが倒れてしまう。
 主人の異変に気付いた猟犬たちは各々に私から顔を逸らし、驚きと動揺で統制が崩れる。

 逃げるものもいたが、先に私を仕留めようと猟犬が数匹飛びかかってくる。
 私が剣を振るえば、一匹の胴体をうまくとらえて切り結ぶ。

 だが、間に合わず残りの牙が私を襲う――。

「ミカルっ!」

 追手を沈めた黒い影が、私の名を呼びながら駆け付ける。
 鮮やかに猟犬たちを跳ね飛ばし、木にぶつけ、地面に転がしながら。

 前に立ち臨んだその姿を見て、私は目を見開くばかりだった。

「……カナイ? なぜここに……」

「なぜ、だと……? お前、まさか分かっていないのか?」

 黒髪の愛しき吸血鬼が、目を鋭くさせて私を睨みつける。

 彼が――カナイが私を助けに来てくれるだなんて!
 心の中で信じられない現実に歓喜しながら、素直に驚きを隠さず頷いてみせる。

「え、ええ……非常に驚いています」

「チッ。わざとではなかったというのか?……体が、お前の血以外を受け付けなくなった。いったいどう責任を取ってくれるんだ?!」
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