薔薇の溺愛~黒き吸血鬼は愛に沈む~

天岸 あおい

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四章 そして彼は愛を知る

戦闘の最中

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 敵に背を向けることになるがやむを得ない。
 俺は腰を落とし、頭を低くしながらミカルの元へと走り出す。

 どれだけ鍛錬を積み重ねた強者でも、純粋な力は魔の者である俺に敵わない。
 背後の敵を引き離し、ミカルを追い詰めていた奴らに迫り、躊躇なく切り込む。

 剣をひと振りして、刃になんの感触もない。
 かわされたか。良い動きで感心する。腹立たしいほどに。

 振り抜いた直後、力を抜いて刃を翻す。そして踏み込みながら素早く一閃。
 これも軽やかに追手はかわす。が――。

「助かります、カナイ」

 体勢を立て直したミカルが剣を構え、追手の一人を切りつける。

 肩から胸へと筋が入り、「ぐぁ……ッ」と短く濁った悲鳴を上げて、その追手はよろける。

 人より過敏な鼻はすぐに血のにおいを嗅ぐ。
 吸血鬼の糧である血だというのに、飢えがまったく湧かない。やはりこの血も腐敗臭がする。

 においだけで吐き気を覚え、気が遠退きそうになる。やはり体がミカルの血のみしか受け付けない。

 顔をしかめる俺に気付き、ミカルが傍へ寄りながら声をかけてくる。

「大丈夫ですか? どこかケガを?」

「問題ない。ただ、こいつらの血が臭くてたまらんだけだ」

 俺にとっては死活問題であり、酷い目に合っているのだが、ミカルはこんな状態が望ましそうに微笑む。

「でしたら早急に逃げて、落ち着ける場所で私の血を……こんな所で無駄に流さないよう、気を付けますね」

 声は随分と浮かれているが、剣さばきは勢いが増し、ついさっきよりも凄みが増している。俺の一言でやる気に火が点いたらしい。

 少し引っかかるが、やる気を出してくれたのはありがたい。
 俺たちは背中合わせになりながら、追手たちと剣をぶつかり合わせていく。

 心身に辛さを覚えが悲観はない。
 二人対多数で未だに逃亡を阻まれるものの、ここさえ凌げれば欲しいものが待っている。互いだけが味方という状況は厳しいだけのハズなのに、ミカルの微笑みが俺にも移ってしまう。

 そうして奮闘している最中――俺の目の前から追手が消えた。

「……っ?!」

 俺の切っ先はかすめていない。だが勢いよく倒された追手に代わり、大きな影が俺の前に伸びていた。

 その影の頭には、大きなふたつの犬耳が生えていた。

「カナイ様、無事ですか!

 俺よりも大柄で、徹底して俺に仕えてくれる我が下僕。
 見慣れていたはずの顔がやけに必死で、それでいて喜びも滲んでいる。

 息を詰まらせながら俺はそいつの名を呼んだ。
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