異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-131- カップケーキ

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「おい、おっさん、何してんだ?」

扉をガンガン叩き、ガチャガチャとノブを回しながら怒鳴り散らすおっさんに声をかけると、怒りそのまま睨まれる。
まあ、こんなおっさんに睨まれたって怖くはない。
横幅と態度と声はデカいが、他がちっさいおっさんだ。
こっちの世界で俺より背が低いやつは珍しい。

「なんだお前、は……っあの時のぼんぼんかっ!?」

ぼんぼんって、ぼんぼんって歳じゃねえんだけれど、まあ、あの時のぼんぼんだ。

「ネストレさんなら次の雇用主がすでに決まってるぞ、引っ越しも」
「っ何ぃ?!」

何ぃ?!ってコント以外で初めて聞いたぞ。
や、いたって真面目なんだろうが。
このおっさん、趣味悪ぃし、人使いも荒ぇし、本当にどうしようもないおっさんなんだろうが、全く恐怖を感じないんだよなあ。

「あんた解雇しただろ?すでに契約書を交わされてるぞ。相手は貴族だ、あきらめて帰ったほうが良い」
「っぬぬぬぬ゛~~~!!」
「それともキャンベル商会と薬師ギルドの両方を敵に回したいのか?」
「クソがあぁぁ!!」

ガンッと扉に蹴りを入れて、鼻息荒くドスドスと去っていくおっさんを見送る。
わが身が可愛いおっさんで良かった。
保身に走ってくれなきゃ、こっちもこっちで面倒なことになっただろうしな。

俺に危害を直接入れられないくらいにも肝が小さいことにもほっとする。
俺も好きで相手に怪我を負わせたいわけじゃない。

コンコン、と扉を叩くが返事はない。
だが、人の気配はするか……まあ、警戒されても仕方ない。



「……兄ちゃん?」
「シリル!」

ドア越しに声をかけようとした瞬間、可愛い声が耳に届いた。
庭の方からそうっと覗き込んだシリルが、俺を目にしてトコトコと駆けてくる。

「大丈夫だったか?」
「うん」
「元気そうで安心した。親父さんの具合はどうだ?」
「起きて食べられるようになったし、お話しできるようになったよ。じーちゃん、兄ちゃんたち来た!」

シリルが、扉をドンドンと二回叩いて声を上げると、内鍵が開いて、じいさんが顔を出してきた。
前にも思ったが、この爺さん結構やるな……なんて思ってると、俺らに向かって深々と頭を下げてくる。

「大変失礼しました。狭苦しいですがどうぞ」
「や、全然。お邪魔します。先生、ネストレさん診てやって」
「はいはい」

「アサヒ、私は先生と一緒に行きますね」
「おう、わかった。───シリル、カップケーキ買ってきた。親父さんが先生に診て貰ってる間庭で一緒に食おう」
「うん、ありがとう。あの子にも分けていい?」
「あの子の分もちゃんとあるぞ」

あのちっさいイケメン君……なんつったっけ?妖精の種類を忘れちまったが、その分も買ってきた。
妖精が何が好きかなんて知らないが、おはぎは菓子も飯も食うしな、甘いもんなら食うかもしれないと思ったからだ。
シリルの家に余分な皿やフォークなんかないかもしれないから、普通のケーキやパイはやめて、カップケーキにしたんだよな。
これなら皿もフォークも無しで食える。

シリルの家に行く前に立ち寄ったカップケーキのお店は、マクシムが選んだ店だった。
あんまり高級なもんだと遠慮されるかもしれないし、かといって貴族の馬車が立ち寄るのにあまりにも安いもんは買えない。
マクシムに相談したら、でしたら……と、この店を選んだ。

休憩を一回挟んだが、そこから歩いてすぐだったし、店は店内で飲食する入り口とは別に、持ち帰りの窓口があったからそこまで並ばずに買えた。
お茶の時間には早かったが店内の方はそこそこ混んでたな。
マクシムの好きな店じゃなく、お嬢さんと奥さんが気に入ってる店らしいが、クリームたっぷりで可愛らしいデコレーションのカップケーキだった。
男二人で並ぶのはかなり目立ったが、どこでも目立つわけだから今更気にしていられない。

『アサヒが気に入ったのなら、今度、外でお茶をしましょう』

そう優しく微笑まれて、うっかりときめいた。

『お茶なら、コンサバトリーで十分贅沢してる』と告げると、『……そうですか』と残念そうに言われるから、『二人きりでゆっくりできるほうが俺は嬉しいよ』と口にしたら、嬉しそうに笑ったっけ。
猫を被った俺は、周りからしちゃ、さぞお似合いのふたりだったろう。


本当はソフィアに作ってもらおうと思ったが、タイラーとオリバーに止められた。
先生もネストレさんもいるから、魔力が回復するのを知られるのは良くない、と。
そっか、そうだったと気が付いたのは、ふたりに言われてからだった。
うっかりしていた俺にソフィアは気を悪くすることもなかったんだけど、その店で売っていた小瓶に入った飴玉をソフィアに買った。
帰ったら渡そうと思う。



「ありがとう!」

にこにことした可愛い笑顔を、シリルは俺に向けてくる。
元気そうでよかった。
顔色も良いし、肌艶も良い。
小さいのにしっかりしてるし、悲観してないところが偉いよなあ。



「イケメン君にはデカいな……」

ちっさいイケメン君が、キラキラした目でカップケーキを抱えながら美味そうに齧るのを眺める。
自分自身がデカいケーキを齧りつくのを想像すると、すげー絵面だ、夢のような話だ。
実際、食べたことなどなかったんだろうが、面白いように減っていく。
どうやらお気に召したらしい。
あのちっさい腹にどうやって入っていくのか不思議すぎる。

「美味しいね!」
「ああ、初めて食った……美味い」
「僕も初めて!」
「シリル、ほっぺにクリームついてるぞ」
「へへっ……」

嬉しそうに食べるのを見ると、買ってきて良かったと思う。
手の甲で頬を拭って、恥ずかしそうに笑うシリルが可愛い。


「それにしても、すげーなあ」

庭は相変わらず凄くいい香りがして、薔薇以外にも野菜や果物が植わっている。
どれも元気いっぱいだ。

「シリルは凄いぞ。もう新しい薔薇の研究を始めてる」
「マジか」
「うん。前に可愛くない綺麗じゃないって言われたから、今度は可愛いのを作るの」
「そりゃだって、香りが良くて精油がたくさんとれる薔薇なんだから、可愛さとか関係ねえだろ?」
「うん、だから、今度は可愛くて美味しいのを作るの」
「美味しい?」
「うん、可愛くて甘い薔薇」
「へえー食用の薔薇か!凄いな、シリル、楽しみだな」
「うん!」


シリルは大物になるかもしれないな。
食用の薔薇は、こっちの世界にもあるにはある。
紅茶の香りづけになっているものがうちにもあったが、食用の薔薇は生では食わないと聞いた。

香りを楽しむもんで、ドライにしたものや、それを煮出したものが使われている。
見た目や味を楽しむための薔薇はないし、まして生ではえぐみが多く食えたもんじゃないらしい。

シリルが可愛くて甘い薔薇を作ったら、またそれは凄いことになるだろうな。
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