異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-141- 寄り添う心

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「嘘だろ?」
「いいえ、本当です」
「いやいや、嘘だろ、それは」
「少なくとも、若返りや美白等の美容における医療行為は、帝国では瀉血一択ですよ」
「マジか……」

元の世界じゃ、美容整形はそれなりに浸透していた。
鼻を高くする、顎を削る、目を二重にする───などが思いつく。
ヒアルロン酸注入で、唇をぷっくりさせるだとかほうれい線を目立たなくするだとかもできた。
胸を大きくするんだったらシリコンを入れりゃいいし、脂肪吸引なんていう方法もあったわけだ。
勿論どれもリスクがあるが、何かしらの目に見える効果は必ずあるものだ。

だが、瀉血一択って、随分遅れてる世界じゃね?
魔法があるのに瀉血一択って……や、医療において遅れてるのは分かってたけどさ、怖すぎるだろ。

「瀉血なんて危ねぇじゃん。やる奴いるのか?」
「貴族間ではありますね」
「マジかー……でも、それじゃ美肌に効く薬があれば売れるんじゃね?皺とか染みとか美白とか」
「ええ、売れるでしょうね」
「やるか?」
「あ、の……アサヒ」
「元の世界だと結構色々あったから、それらしき食材と薬草集めたら出来そうだぞ?」

最初は貴族相手にすりゃ数はそこまで必要ないだろうし、コナーに投げりゃ販路と生産の算段はつけてくれるだろうし。
出来れば、やっぱりエリソン侯爵領生産物を主に使用したいよなあ。

「───ヒ、アサヒ!」
「あ、悪い。……どうした?」

俺の腕を掴むオリバーの手が、少しばかり震えているのにようやく気がつく。
顔色も良くない。
心配になって覗き込むように確かめて、両手を取ってしっかりと繋いでやる。

「オリバー?」
「っすみません……」
「何がすみません?」

努めて優し聞く。
俺が普通に聞いたら、精神状態が不安定な場合、責めてるように聞こえちまうかもしれないからだ。
普段言葉が悪いのは自覚してるが、マイナスの感情に聞こえるような声は今発しちゃならない。

「無理です。私には、まだ」
「わかった。謝ることなんてない。無理なら無理でいい。無理してまで嫌なことはしなくていい」

私にはまだ、無理。
何が無理なんだ?って一瞬思ったが、すぐに気がついた。
人のために新しい薬を開発するのが無理ってことにだ。

わかったと告げたときには、理由までは分からなかったが、言葉にしながら気がつけた。
俺にしちゃ上出来だ。


宮廷薬師を辞めた理由は聞いた。
辞めてからは、植物研究や植物の薬剤を作ってきたことも。

香水は大丈夫だった、ハンドクリームもだ。香りを重きに置いた商品だからだろう。
ハンドクリームは使用感は大切だが、薬じゃない。
香りを楽しむための商品で、手荒れやあかぎれによく効くことを重視したわけじゃなかったのが良かったはずだ。

毛生え薬だって、お義父さんへのプレゼントだからこそ作れたんだと思う。
特許はとるし、身内に作るのは良い。
けど、販売はオリバーがしたいと言うまでは辞めておいた方がいいな。
あーだから、薬師ギルドの治験も見送ったのか。
そんとき、オリバーはどんな様子だったっけか?
浮かない顔はしてた。
もっとちゃんと気づいてやれたら良かった。


「情けないと……自分でもそう思ってます」
「情けなくなんかない」

ぽつりと呟くオリバーは、自嘲気味に笑う。
これ以上そんな顔させたくなくて、すぐさまきっぱり否定してやった。
情けなくなんかないだろ、こんだけ色々生み出して特許とってるんだし、ちゃんと認められてるんだ。

親の脛齧って堕落した人生を送ってるわけじゃない。
自分の足でしっかり立ってるし、自活してる。
生活面でタイラーやソフィアに助けられてはいるけど、それだってオリバーの稼ぎから給金を出してるんだ。
最初は親父さんからだったかもしれない。
でも、今はオリバーが雇用主になっている。

「アサヒ」
「本心から言ってるんだ。お前は自分で思ってるより遥かにすごいやつだよ」
「そう……でしょうか?」
「俺が保証する」
「……っアサヒはこんなにも誠実でいてくれるのに、私は誤魔化しました」

ああ、こんな顔させるつもりじゃなかったのに。
涙をこらえる寸前みたいな、酷く苦しくなるような顔をオリバーはしてくる。
綺麗な顔がこんなふうに歪んだって、見惚れるくらい綺麗なままだ。

まるで懺悔でもするように、両手をぎゅっと握り返してくる。
その両手をしっかり握り返すと、オリバーが小さく息をのんだ。

少し伏せた両瞼から長い空色の睫毛が伸びて、開閉するたび影が揺れる。
すげー綺麗だ。

誤魔化したって、何を誤魔化したんだ?
こりゃ今聞いちまった方がいいな、寧ろ今聞かなかったらずっと腹にため込みそうだ。

「何を?」
「毛生え薬に対して、色々な意味で出すのは早い……なんて。
色々なんて言っておきながら、ただ私が臆病なだけなんです」
「いいよ。お前が出したいって思った時に出すのがベストだ。何時でもいい」

オリバーにもオリバーなりにブライドがあったのかもな。
大人になると、プライドなんて邪魔なだけなんだよなあ───なんて思うが、俺の方がオリバーより遥かにプライドが高い。
どの口が言うんだって話だ。

「もっと気遣ってやれたら良かったな」
「アサヒのせいじゃありません」
「お前のせいでもない」
「………」

「言っただろ?お前が何でもかんでも出来ちまったらこんなに好きになってないって、さ。
正直、お前のそういう優しいところは、ずっと持ってて欲しいって思う」
「アサヒ……」
「ただ、俺には遠慮せず言ってほしい。
受け止めるし、一緒に考えるし、手も貸すし、必要なら俺が代わりにやるから。
俺だって苦手なことはあるんだしさ、互いに補っていけばいい」

「っありがとうございます……」
「おう」

泣かせるつもりはなかったが、泣かれちまった。
けど、すげー気分が良い。
抱きしめられてあったかいし、めちゃくちゃ良い匂いするし。

こうやって互いにまた惹かれてくんだろうなあ。
そう、互いに、だ。

俺もオリバーの前では少しずつ素直になれている……はずだ、少しは。
断言できないところが、それもまた正直なんだけどさ。
オリバーにとってずっと魅力的でいたいとは思う。

変な意地とかプライドとかじゃなくて。
そう素直に思えるのは、俺もちょっとは人として成長してる証拠だ。
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