異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

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本編

-473- 奇襲

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「へえ、こりゃ凄いな。優秀優秀」

背後の頭上でガキンと金属音が響き、静まり返る。
とたん、口笛と共に、なんとも楽しげなバリトン調の呟きが耳に入ってきた。

僕がとっさに張った結界は、丁度泥棒と騎士で遊んでいた檻の大きさだ。
向けられた殺気はあからさまに僕だとわかっていたけれど、子供たちを巻き込んだらいけない、そう思った。
結界はうまくいったみたいだ。
地面に木の棒で描かれた線が直線だったのも助けられた。

殺気は既になく、くつくつと楽しそうに笑う声が、僕の背を庇うように立つセオの、さらに奥から聞こえてきた。
抱きしめていたパーシーとネロをそっと開放して、振り返り立ち上がる。
僕の前にはセオがいて、短剣を構えているようだった。

丁度セオは結界の中だ。
そして、セオの前には、いつの間にかレナードとジュード、それからヴィオラが剣を抜いて相手の行く手を阻んでいる。
届いた剣先は、三人のうちの誰かだろう。
ここからこの体勢だと、詳細は分からない。
そして、ステラとブルーノは相手の背後を取っていた。
相手の殺気がなくなろうとも、誰一人剣を収めないし、警戒を緩めない。

相手───警備隊の服を身にまとっているこの長身の男性は、もしかしなくても……


「うおっ、ちょっ───待て待て、俺は───……げっ」

攻撃に入ったのはブルーノだった。
警備隊の服を纏っていても、セオ、レナード、ジュードの三人が警戒を解かず剣を収めなかった上に、一瞬相手が好戦的な視線をよこし、ほんのわずかに体勢を変えたからだろう。
体勢を変えたというか、変えたように僕にはそう見えただけなんだけれど。

多分、相手が誰だかわかっていないのが、この場ではブルーノだけなんだろう。
たとえ警備隊の隊服に身を包んでいようとも、惑わされないんだろうな。
“害なすものは敵とみなし、その身を制せよ”の精神だ。
きっと、辺境の警備隊の見習い候補生だった、その時の教えが活きているんだと思う。

もの凄い速さで蹴りを繰り出し、相手の剣をはじいた。
さらに体勢が崩れかけたところで足をかけて膝をつかせた後、背後から拘束する。
ウェートの差が大分あるのに、その手際はお見事としか言いようがない。
たとえ相手が本気でないとはいえ、だ。

ブルーノの顔は真顔で、鋭い視線を相手に向けている。
いつもにこにこと眩しい笑顔は封印されているようだった。


セオが短剣を下ろしたのを目にしたところで、僕も結界を解いて立ち上がり、セオの傍に並ぶ。

に、しても。
誰もブルーノを止めなかった……というか、拘束されている今もだ。
ジュードはびっくり顔で笑っているし、レナードも楽しそうな笑顔で『良い判断だ』なんて口にする。
ヴィオラはぽかんと口をあけてただただ驚いているようだし、ステラも『まあ』と口にした後、可笑しそうにくすくすと笑いを漏らした。


子供たちは、『ブルーノの兄ちゃんすげー』だとか『強ーい!』だとか『嘘でしょ?』だとか口々に呟いている。
『嘘でしょ?』は、ルカの声だった。
拘束された相手が誰だか知っていての『嘘でしょ?』なのかもしれない。
怯えている子がいないことに安堵した。


「はあ……」

盛大なため息は、セオからだ。
セオの視線を追うと、下ろした短剣を握りしめるその手が、少しだけ震えているのが見えた。
その震えを押さえるように、その手首を自ら押さえこむように包んだことも。
それは時間にしたら本当に短い間の出来事で、すぐに短剣を仕舞い込んでしまったから、他の人は気が付かなかったかもしれない。

でも僕にはわかってしまった。
その行為の意味することに、だ。

僕が結界を貼っていなければ、きっとセオの短剣は相手に届いていた───。


「あー……もうっ、なにやってんですかっあんたは!」
「やあ、軽く挨拶をと───」
「悪ふざけが過ぎます、アルフォンス隊長!」

くわっと相手に𠮟りつけるセオは、怒りマックスとは言えないにしても、この中の誰よりも怒っているようだった。
ブルーノが、『え?』と戸惑うような声を上げる。
が、その手は緩めない。

「ブルーノ、放してやれ」
「放さなくていいぞ」

呆れながらも笑って解放を告げたジュードに対して、笑いながら逆のことを言うレナード。
『え?え?』と混乱する可哀そうなブルーノに、『放してあげて、ブルーノ』と告げると、ブルーノはぱっと手を放した。

土ぼこりを払い、笑いながら立ち上がる警備隊員のこの人が、紛れもなくこのエリソン侯爵領の警備隊で一番の長、隊長なのだろう。
纏う雰囲気は、どこかのハリウッドスターを思わせる。

アップルグリーンの綺麗な瞳に、無造作な長めの髪色は、くすみのあるバターブロンド。
背が高く、隊服の上からでもわかる鍛えられた体系に、彫りが深く甘い顔立ちだ。

そのアップルグリーンの瞳が僕を捕らえる。
不躾なその視線に、僕もまっすぐと彼を見返す。
彼からのその視線は、僕の本心を暴くような、心の奥深くまで探る様な視線だ。
いい気分じゃない。
けれど、馬鹿にされて舐められても困る。
彼に本当の意味で認められなければ、アレックスの横に立つ資格がない。

セオが何も言わないから、僕に任せてくれるんだろう。
気が抜けない───ううん、気を抜かない。
言葉ひとつにも、視線にも、仕草にも。

演技は必要ない。
けれど、僕が綺麗で優しいだけじゃない、というのは、今この場で分からせる必要がある。

「はじめまして、レン=エリソンです。あなたは?」
「──初めまして、エリソン侯爵夫人。私はこのエリソン侯爵領の警備隊隊長を任されております、アルフォンスと申します。
以後、お見知りおきを」

はっと息を飲んだのは一瞬だ。
姿勢を正し、僕に対してまっすぐ頭を下げる姿勢を与えられたことに、まずは第一関門クリアだ。
でも、油断は出来ない。
相手が誠意をもって謝罪を引き出さなければ、この場は僕の負けだ。

心の中で活を入れる。
それに、謝罪を引き出したとて、彼のこの奇襲を僕は許してない。
たとえ、ジョークのつもりでも、だ。

「僕のことは、皆レン様と呼ぶので、あなたもそのように。それで、僕に何か言いたいことは?」
「おふざけが過ぎました、申し訳ない」
「謝罪は受け入れます」

僕の言葉に、彼、アルフォンス隊長だけじゃなくこの場の皆が僕を意外そうな目で見たのが分かった。
唯一、そうじゃなかったのはセオだ。
多分、僕とセオだけが、先ほどの状況を正しく認識してる。

「万が一があれば、子供たちが傷つくような状態だった。冗談で笑って許せる行為じゃないよ。
まして、あなたは警備隊の隊長だ」
「……返す言葉もありません」
「それに、僕が結界を貼らなければ、間違いなくあなた自身が傷ついていた。
セオの短剣は、あなたに届いていたよ?
今後もその隊服に身を包み、変わらずその地位を譲らずにいたいのであれば、己の立場をよくよく考えて行動してほしい」
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