異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています

日夏

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本編

-392- 休憩時間 アレックス視点

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15時きっかりに、セバスの案内で談話室へと足を運ぶ。
客室じゃなく談話室なのは、相手が師匠だからだ。

予めセオが告げていたんだろうな、扉が開けばすぐに立ち上がって笑顔で出迎えてくれた。
昼も可愛かったが、今も変わらずの可愛さだ。
こうやって笑顔で出迎えてくれるたび、ありがたみを感じてしまう。


「お帰りなさい、アレックス」
「ああ、ただいま───っ師匠……」

いつも通りレンの細い腰をそっと抱きしめて口づけを落とす。
義理の父親の前でも、抗いはしない。
ちゃんと上を向いて目を瞑ってくれ、甘受する素直なレンだが、口づけ後に若干恥ずかしそうな笑顔になる。
師匠の前ではまだ少し恥ずかしいようだ。

可愛いすぎる。

そう思い、師匠の方へ視線を向ければ、俺たちを見てにやにやと下品な笑いを浮かべている師匠の視線とかち合う。
顔の造作が美しすぎると、下品な笑いを浮かべていても様になるから質が悪い。
明らかに揶揄いを含む視線だ。


「なんだ、何も言ってないぞ?」
「視線だけですでに揶揄ってます」
「仲睦まじくて何よりだと思っただけだろ?」
「でしたら、次からもう少し上品にお願いします」
「上品?誰に物を言ってるんだ。出来ないことはお前が良く分かってるだろ?」
「確かに」

顔の造作が非常に美しくあっても、上品という言葉とはかけ離れた性格と言動をしているのが師匠だ。
求めること自体が間違っていたな。
俺と師匠のやり取りを微笑ましい様子で見守るレンの方がずっと上品で大人だ。




「今日も凄いな……」

ソファに腰かけ、そう時間を置かずにイアンとナギサの手によって本日のスイーツが運ばれてくる。
目の前に置かれた皿には、細身のロールケーキを彩るように、落ち葉に似た色とりどりのチョコレートや、木の実が飾られている。
その下には、クリームか?
どうやってつけたのかわからないが、クリームには焦げ目が綺麗についている。
それらをうっすらと覆う白い雪化粧は、粉砂糖だろう。

自然なようで、計算つくされた一枚の皿に、思わず声が出る。

「うん、可愛い!」

レンも自分の前に置かれた皿を見て、笑顔で声をあげた。
そんなレンの方がずっと可愛い。

「今日は、メインのロールケーキはイアンさんが、あとは僕とサラ君で作りました。
コンセプトは、冬入りの森です!」

得意気に説明をして、師匠の隣にナギサが座る。

サラ君、というのは渚の背にいる赤いトカゲの妖精だろう。
火の妖精であるサラマンダーは、その気になれば一瞬で屋敷全体を燃やすことができるほどの精霊なんだが。
それを、菓子作りに使うなど、普通なら思いもしない。


ロールケーキを適当に切り、口へと運ぶ。

うん、美味いな。

見た目に反して甘さは控えめでありながら、風味がしっかりとしているところが俺の好みをよくわかっている。

切った時からわかっていたが、生地は二種類を使っているようだ。
しっとりとした柔らかな舌触りの生地と、薄くパリッとした触感の生地とが合わさって、洗練された味の中にも遊び心がある。
裏切らない美味しさだ。


「この下の部分はクリームブリュレになってるの?」
「うん、サラ君がいたから、綺麗に焼き色付けてくれたんだ」
「そっか。なら、イアンはびっくりしたんじゃない?」
「あ、はい!ありゃあ、魔道具なんかがないと俺には出来ませんね」
「そうだよね」

レンは、すぐに手を付けることなく、完成された皿の上を楽しそうに眺めながら作り手に話を振る。
貴族であれば、目の前におかれた料理も、出された茶も、当たり前に受け取るものだが、レンはそれをしない。
相手に寄り添う心は、俺も少し見習わねばならないな。

「あ、いただきます───…うん、美味しい!パリふわでとても楽しい触感だね!ブリュレのクリームソースにも合ってるし、中のクリームも優しい味で凄く美味しい!」
「ありがとうございます!」
「これは別々に焼いてから丸めてるの?」
「そうです!先に内側の生地とクリームを作ってから、焼き上げた薄い生地を手早く丸めています」
「そっか、今日も凄く手が込んでるね。渚君の作ったチョコやブリュレともとっても合ってるし、別々に作ったのに凄いね!」
「ね!僕もほんと凄いと思った!今日はどうしても使いたいチョコレートがあって、木の実も一緒に持参したんだけど、コンセプトと味を丁寧に確認してくれてから作ってくれたんだよ。
今日もすごく勉強になりました!」
「やあ……ありがとうございます」

ナギサもイアンも嬉しそうに答えているな。
イアンなんて、レンから絶賛されて、デレデレと嬉しそうに笑っている。
いい年したおっさんで厳つい外見をしているイアンだが、レンの前ではいつもにっこにこだ。
まあ、イアンに限らず、マーティンもなんだが。
自分の料理をちゃんと言葉にして褒めてくれるのが嬉しいのだろう。

俺を見送った後で、礼を言うために時折厨房に足を運んでいると聞いている。
礼を言うにしても、普通は自分のところまで呼びつけるものだが、レンは自ら足を運んでいるようだ。
それもまた、二人を喜ばせているのだろうな。

ナギサは尊敬のまなざしでイアンを見上げ、美味そうにロールケーキを頬張ると、装丁の美しい本を開く。
正確には本ではない、師匠がナギサのために作った、転写の魔道具だ。
厨房で出来たてを転写したのだろう。
まるで有名な画家がデッサンし、丁寧に色彩をつけたように描かれているのは、本日のロールケーキだ。

「レン様、そろそろ……」
「あ、そっか、引き留めてごめんね、イアン。今日もありがとう!」

セバスの控えめな促しにより、レンは慌てて謝りをつげ、感謝の言葉を述べた。
謝る必要など無い。
イアンにとっても喜ばしい時間だったことだろう。

「ありがとうございました!次もよろしくお願いします!」

ナギサはというと、レンの礼に続き、立ち上がって勢いよくおじぎをした。
すると、肩に乗っていたサラマンダーが驚いたようにくるりと首を一周する。

「こちらこそ!俺も勉強になってますんで。それでは、失礼します」

イアンは、まるでスキップでもしそうなほど軽い足取りでその場を後にした。


「ちょっとルカ!そうやって食べるからイアンさんが緊張するんだよ!」

扉が閉まってすぐに、ナギサが師匠を窘める。

「は?いつもと変わらず普通に食ってるだろ?まずかったら俺は一口で辞めてるぞ」
「そうかもしれないけど、無言だし顔無表情だし……不安になるんだよ?」

『僕も最初はすっごく不安だったし』と更に呟いたナギサは、じとっとした目で師匠を見上げた。

「わかったわかった、次から気を付ける」

師匠もナギサのそんな表情には弱いのか、たまらない様子で答えた。
意見を滅多に曲げない師匠が、ナギサが相手だと気持ちを汲んで折れていることに本当に驚かされるな。

と、待て。
無言で無表情は師匠だけじゃなくて、もしかしなくとも……。

「……俺もか?」

俺の呟きに、ナギサが、やらかしたとでも言うような、悲惨な顔になった。
どうやら、俺もらしい。
どう返そうかと一瞬悩むも、可愛くも頼もしい助け舟がすぐ傍からやってきた。

「アレックスはね、美味しいといつも一口目で一度小さく頷くんだよ?
それをちゃんとイアンが見て、ほっとしてたから大丈夫だよ」

そうだったか?
自分ではわからないが、レンがそういうならそうなんだろうな。

「そうなのか?」
「うん、そうだよ?」

自分で気がつかなかったのか、と、不思議に思われているようだが、あいにく全く自覚は無い。
俺の一口目をイアンが気にしていることすらも気がつかなかったからな。

「レンはよく周りを見ているな」
「ふふっ」

ロールケーキを頬張った口に得意げな笑みを浮か笑うレンが、すげー可愛いかった。

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